そんな連中も悲喜こもごもな訳で、解散組もいるしメンバーの脱退なども経ながら今もがんばっているバンドもいる。
オリジナルのままのバンドももちろんいるけどね。
The Coralも、既にベスト盤まで出すほど。
同世代のバンドの中では一番多作だし、解散したLibertines以外でベスト出しているのはこいつらくらいだろう。
彼らの場合、幼なじみで組んだバンドであるが、長年連れ添ってきたギターのビル・ライダーが昨年脱退してしまったのである。
そのゴタゴタもあったため、「Roots & Echoes」ではツアーはかなり小規模であったようで、日本には来なかった。
待ってたのに...。
かなり苦しんだようだが、なんとかそれを乗り越えて心機一転という訳で、ベストで一回清算したというのが本音らしい。
既に新作にも取りかかっているというから、期待して待っている。
さて、そんなThe Coralのアルバムの中で、個人的に一番好きなのは3rdにあたる「The Invisible Invasion」である。
非常にダークなフィーリングの作品であるが、名曲ぞろいで、プロデューサーであるPortisheadのジェフの手腕もあって、彼らのキャリアの中でも非常にアルバムとしてのまとまりもあるし、特にベースラインの迫力が圧倒的にすばらしいのである。
このアルバムは各方面で大絶賛された訳であるが、彼らのアルバムの中でも少し異色な音触りでもあるように思う。
まず1曲目の"She Sings The Morning”のイントロのベースが最高である。
ひたすら反復されるベースなんだけど、これがえも言われぬ不穏なムードを醸し出している。
要所要所に入るギター他の楽器の使い方もすごく効果的で、寓話的なポップさと不気味さが同居している感じがたまらない。
歌詞もオドロオドロしいワードが並んでいるし。
まあ、何言っているかよくわかんないけど。
タイトル、ジャケットワークをみてもかなり不気味と言うか、不穏さのようなムードがある訳だけど、この感じはすごく癖になる。
世界観もすごく強いから、一度引き込まれるとかなりハマるものがある。
もともとあったサイケな感覚も手伝って、頭の中でぐるぐる回るような感覚もあるし。
得体の知れないものに対する漠然とした不安からうる不気味さ、というのがしっくり来る表現かな。
1曲目もそうだし、#2"Crippled Crown"、#4"The Operator"、#9"Far From The Crowd"なんかも同様の感覚の曲である。
一方あまりにも心安らぐ曲ももちろんある。
#3"So Long Ago"、#6"In The Morning"、#10"Leaving Today"、#12"Late Afternoon"あたりは、素直に名曲であろう。
ただ、どの曲もかすかに寂しさのようなものをたたえているのが何ともいえない。
どの曲も、何かを失った、もしくは失うようなフィーリングなんだよね。
曲そのものはアップテンポというか、明るい調子なんだけどね。
"In The Morning"なんて、このイントロは最高だよ。
また、寓話的という観点からすれば、#5"A Warning To The Curious"、#8"Come Home"あたりは歌詞の内容を観てもその代表格の酔うな曲である。
一発でもっていくポップさというよりは、中間的な位置にあって気がつけばさりげなく入り込んできているような、そんな曲であって、ある意味タイトル(見えざる侵略)に一番沿ったような曲かも知れない。
あと、圧倒的なテンションで迫ってくるような曲だってもちろんある。
#7"Something Inside Of Me"、#11"Arabian Sand"あたりである。
まあ、#7については圧倒的なテンションというのは少し違うかも知れないが、区分けするとここにくる曲だと思うので。
この曲の中にアルバムタイトルのフレーズも登場するんだけど、曲タイトルにもある「俺の中の何か」というのがすごく象徴的な感じもするね。
得体の知れない不気味さ、というのが一つのキーワードだと思うんだけど、その正体というのが実はこの曲で唄われているものであると思うのですね。
で、#11は圧倒的ですよ。
同じような言葉を並べた歌詞も手伝って畳み掛けるような歌と、性急な曲調が相まってまさにカタルシス。
歌詞の内容をみてもすごくハマっているので、このアルバムのハイライトとしてはまさにもってこいと言えるであろう。
「The Mad Mans in the Desert」という言葉の繰り返しがとにかく緊張感を煽る。
この曲は実は反戦のような意思もあるのだろうか、ということも考えられる。
このアルバムの出た2005年と言えば、イラク戦争の是非を巡る議論がまさに世界中で繰り広げられていた頃だと思うし、アーティストの中でもブッシュ政権、ブレア政権等に批判的な見解を示すものが非常に多かった頃だと思う。
Coralは政治的な発言をするバンドではないし、彼らの曲の中でそういったトピックスを扱った曲って多分ないと思うんだけど、この曲に関してはそうじゃないかな、と思えるんですね。
最後の「Can you dance with the Lepers in the mad mans House?」という下りもすごく含みのある表現だし。
まあ政治的でないにしろ、このアルバムの曲はどれもなにかしら社会的なコンテクストで読むこともできるだろう。
以前からそういう要素は少なからずあったとは思うけどね。
で、ラストには"Late Afternoon"がくるあたりがまたいい。
この寂しげな情緒をたたえた静かな曲が続くのは、もう絶妙。
この曲の歌詞の最後の下りが本当にいい。
このアルバムを締めくくるのにハマり過ぎである。
余談だけど、このアルバムにはボーナストラックが2曲ついていて、私は他のアルバムのボートラ、およびベスト盤のBサイドの未発表曲らとまとめて一つにしているんだけど、このアルバムの曲はやはりベースの重低音が本当に響くような処理がされている。
それがある種音響的な効果というか、空間的な広がりを出してるように感じられる。
このプロデューサーの起用は、このアルバムのテーマ的なことを考えても非常にナイスチョイスであったろう。
ちなみに更に余談だけど、このアルバムをきっかけに私はPortisheadを聴くようになりましたよ。
ちなみにちなみに、今月出るHorrorsの新譜のプロデューサーも同じくPortisheadのジェフなので、これまた楽しみですね。
と、ちょっと関係ない話題も差し込んだけど、このアルバムは彼らのバンドとしての集大成的なアルバムである。
曲も良いし、処理もいい。
曲のムードもいいし、アルバムとしても流れがちゃんとあって、いうことあるまい。
「Roots & Echoes」は名曲ぞろいだけど、彼らの破天荒さというか、人を食ったような態度がなりを潜めているという点で、ベストと呼ぶにはちょっと違うかも、と思うのですね。
まあ、完全に名盤だけどね。
ともあれ、このアルバムは是非聴いてほしいね。
流行廃りという文脈からは完全に距離を置いているバンドであるが、そのために時代に関しても普遍性をもっているであろう。
彼らのフォロワー的なバンドもいないし、世界的に観ても希有な存在のバンドであると、これを聴くと改めて思うのである。
レトロな感じがあるので、いわゆるエレクトロ系専科な人にはあんまりかもしれないけど、音楽好きなら一度は聴いてみてほしいと思う。