音楽放談 pt.2

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変化の途上 ―Mix-Ism

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キャリア初期から、歪んだ音を中心にデジタル的な興味を示していたバンドが、そういった手法を更に積極的に導入した作品が今作「Mix-ism」であろう。

さらに、初の海外レコーディング作品と言うことで、図らずも世界というものを意識し始めた作品でもあったようだ。

この作品は、はっきりいってアルバムとしては今一である。

もちろんかっこいいんだけど、ややとっちらかったような印象が否めない。

恐らくやりたいことをやりたいようにやっていたらこうなってしまった、という感じであろう。

まあ、曲は文句なくかっこいいし、このアルバムでしか聴けないようなテイストの曲もあり、実は大好きな作品なんだけどね。


まず1曲目"Mix-Ism"からして、歪んだギターと加工したKyonoのヴォーカルが、非常にキレ味抜群である。

マッドの作るインスト曲(一応声はあるけど、歌と言うよりは効果音的な使い方なので、インスト扱いです)にははずれが本当にない。

Takeshiの曲のセンスがそれだけ優れていると言うことである。

続く"S・S・Music”も、これまたかっこいい。

歌詞としては、後期マッドのそれにテイストが近い。

イントロのモトカツドラムがいい味を出している。

続く”プロレタリア”は名曲である。

初期のテイストたっぷりで、このアルバムにおいては珍しいくらいシングルにも向いているし。

マッドらしい社会への挑発的な態度と自分に対する懐疑という、その両立が見られる意味でもマッドらしい曲ではなかろうか。


正直いって、これ以降の曲はそれほど強力なものはない、というのが個人的な印象。

メンタリティ的には後期の「立ち上がれ!!」的なノリが多いんだけど、まだなんか振り切れてないというか、半端な印象がしてしまう。

ただ、”古い時計”という曲は、かなり異色である。

SEなんかも使っている上、ギター一本+ヴォーカルみたいな曲なので、この手の曲はこのアルバムにしかない。

こういう部分にもこのアルバムがやや特殊に感じられる要素があるのである。

Takeshiヴォーカルの”オルゴヲル”もそうだけど。


で、ラスト前"Be Silent Fuckin' System"というこれぞ、な曲もある。

畳み掛けるようなヴァースに、コッ!という間抜けな音を鋏んで一気に爆発する展開は、歌詞も含め初期と後期を結ぶような印象もある。

「俺の目の前に立ちふさがり俺のやることはいちいち邪魔しやがるお前は欺瞞だ」というフレーズが大好きである。

お前は邪魔だから、グダグダ言わずに黙ってそこにいろ!!というあたりは、新しいメンタリティのあり方を一番わかりやすく表現しているかも知れない。


先ほどからメンタリティとか言っているんだけど、どういうことかと言うと、初期はとにかく尖っていて、気に入らないものはとにかく噛み付いていくような凶暴さがあったのであるが、次第にそういう状況が社会のせいか、自分のせいか、みたいな逡巡がある訳である。

それを経て、後期ではだったら自分で変えてやろうぜ!!となる訳である。

マッドにおける曲や歌詞の中に見る変化と言うのはこういうものであると思うし、それは現在の彼らのスタンス(特にTakeshi)によく現れている。

納得いかない状況があるのなら、それをぶっ壊して自分たちで作っていけば良いじゃないか、という話である。

Takeshiがマッドについて振り返ったインタビューにおいて、「マッドはとにかく壊し続けていったようなバンドであった」という旨の発言があった。

自分を取り巻く環境と言う奴が、尽く自分にとって納得いかないし、周りにも納得している奴なんていないんじゃないか、そう思ったときにそれに挑んでいったと言うことだと自分は解釈している。

だから、「Mix-Ism」というアルバムは、まさにそういうメンタルに向かっていく契機になったようにも思うのである。

初期の青臭さは、もうほとんどないしね。


で、このアルバムのもっとも印象的なのは、その構造と言うか、ラストに”黄色いピエロ”というアコースティックな曲を持ってきている点である。

非常に短い、しかし、まさかというような叙情性のある歌詞も含め、やけに心に残り、耳に残る曲である。

つい口ずさみたくなる。

喧噪の中におけるある種の孤独感や、虚しさ、周りとの距離感みたいなものを感じるのである。

「耳を澄ませば聞こえるはずの、音を写真の中に閉じ込める/見渡せばただ、匂いもない/ピエロたちが華やかに集い続ける」というのが全文なんだけど、華やかという言葉とは裏腹に、セピア色の景色が目に浮かぶようである。

アコースティックという段階であまりにもマッドっぽくないし、あまりにも叙情的で、それが逆にショックですらある。

この曲の感覚は、次作の”公園へあと少し”に近いものがあるのかも知れないけど。


ともあれ、このアルバムは実験的な色合いの強いアルバムで、あまり商業性には優れないし、印象の強い作品でもないだろう。

それでも、聴いているとやけに楽しそうな感じもあるし、いままでギラギラに尖っていた彼らとは明らかに違ったメンタリティも感じられるので、そういう意味では非常に興味深い作品ではなかろうか、と思うのですね。

代表曲と呼べるのは2、3曲しかないけど、良い作品ですよ。