両者の違いと言えば、単独で国際的な販売網を持っているかどうか、という点だけではないだろうか。
かつてのようにレコード会社のネームバリューというのはあまり意味をなくしている。
もちろんまったくない訳ではないけど、重要なのはあくまでネームが持つ音楽性の特徴という部分だけではないだろうか。
例えばWARPといえばテクノとか、Arts & Craftsといえばオルタナ、とかね。
これらはレーベルという単位におけるブランドになるんだろうか。
あくまで音楽ありき、商業性は二の次、というスタンスこそがインディであるとも言え、そうした意味では音楽のあり方において、あるいは捉え方において両者は大きな差があるのかもしれないが、もちろんそれも全てではないから、やっぱりよくわかんないですね。
そんなレーベルの中で、以前からしばしば登場しているものの一つが、アメリカ・ネブラスカ州のサドルクリークである。
非常に小さなコミュニティながら極めて多様な音楽性を持ったバンドを要する良質レーベルである。
今日は、そこの看板バンドCursiveの新譜に関して。
既に極一部でしか紹介もされないが、やっている音楽は極めて良質で、革新的ではないが熱くなるものがある、そんなバンドである。
前作「Happy Hollow」では、架空の街を舞台にアメリカの現在を痛烈に批判したコンセプトアルバムであったが、今回はもっと曲の純度が高い印象がある。
インタビューでは、「これは絶望のアルバム」といった旨の発言をしていたかと思うが、音楽自体は極めて力強く、前2作に比べて曲で勝負していると言う印象がある。
最も前2作しか聴いたことないんだけど、色んな評価などを観ていると、初期の作風に近いのかもしれない。
エモと言うと、今ではマイケミなどが挙げられるようだが、元々は全く別のものを指していて、Cursiveらのようなタイプのものを指していたとか。
Modest MouseとかAt The Drive Inね。
叫ぶような激情のヴォーカルと曲の展開、というのが目立った特徴として挙げられるだろうか。
今では精神性の面で大きく異なっているのだろう。
それはともかく、彼らの音楽を聴いていると、なるほどエモという言葉の意味もわかるだろう。
それにしても、今回は非常に曲調のバラエティが豊かなアルバムである。
自分の持っている彼らのイメージだと、非常に緊張感のある空気の張りつめた、あるいは危機感やそれに基づくフラストレーション、苛立といった感情が強く押し出された音楽で、ともすれば重たく感じられてしまうものであるというものであった。
しかし、今回はそういう感情からは少し距離を置いて、もう少し純粋の音楽を楽しみませんか、という感じがあり、いい意味での軽さを持っている。
従って、聴きやすさの面では一番聴きやすいと思うし、一つの完成形と言うか、成熟したものを示しているのは確かだろう。
その分いわゆる良盤の範疇を出ない、ともいえるけど、でも個人的にはすごく好きなアルバムである。
ところで、一時期非常に重苦しい空気のアルバムがもてはやされていたが、ここ最近はやはり陽性な音楽が非常に多い。
時代はすでに上り調子、なんていうことは残念ながらなく、むしろ社会不安などは日に日に増してゆくような、そんな印象さえある。
にもかかわらず、時代とシンクロしていると言われる音楽にはその逆の兆候があるというのは面白い。
アーティストの中には、不安だからこそ逃げ場となるような楽しい音楽(エスケーピズムとかいっているね)が必要なんだ、というものが少なくない。
実際アンケート調査などをすると、今の生活に一定の満足や幸せを抱いている人というのは実は多いらしい。
テレビをひねっても、相変わらず中身のない番組が(悪い意味で馬鹿な番組が)垂れ流されている。
何も考える余地のない、あるいは教科書的な知識を要する一つの解を求める類いのクイズ番組が非常に多い。
これらの番組には「もういい」という人も少なくないが、一方で相変わらずやっているというのは、それなりに需要があるからだろう(もしくは制作サイドが鑑みる事ができないほど馬鹿か)。
いずれにしろ、逃げ道というか、どこか開き直っているような態度とも映る。
それが良いのか悪いのかは、恐らく本人たちの中にある意識の問題であろう。
ただ馬鹿なだけなのか、一生懸命馬鹿を演じているのか、その違いだろうね。
正直前者の方が圧倒的に多いのが日本と言う国の悲しいところであるが、それでもただ嘆くばかりでは何も打破されないことは、みんな気づき始めているんだろうな。
やるしかない、て奴。
話がずれちゃったけど、ともかく今回の新譜はメディアの評価はあんまりつかないと思うけど、良いアルバムですよ。
ちょっとクセのある展開も健在だしね。
一度はライヴを観たいバンドの一つである。