2枚目は、洞窟の入り口を覗き込むような冒頭で始る"The Way Out Is Through"。
ほぼインストの曲であるが、1枚目のラストと情景的にもつながる。
ところで、全然関係ないのだが、車に乗っているときにこのCDを掛けたら、同乗していたオヤジが「変わった音楽だの」といったのがすごく印象的であった。
昔からフォークソングなどを好んで聴いていたオヤジであるが、この手の音楽は聴いたこと無かったんだろうと思う。
一方で私はそれほどどうということも無くこういうものだとして受け入れていたので、特に変わっているとも思わなかったんだけど、やっぱり好みは分かれるバンドかもしれない。
それはともかく、この2枚目の2曲目こそ、私がこのバンドに強烈に引き込まれた要因となった。
"Into The Void"という曲で、とにかく当時の状況と歌詞の内容があまりにもはまったような感覚がして、取り付かれたように聴き入っていた。
「Try to save myself but myself keep slipping away」という一節が特にね。
歌詞全体でも非常に当時の自分とリンクしたような気がしてね。
実はファン人気の高い曲であるらしく、実際非常にかっこいい曲でもある。
すごく丸い感じがする曲である。
変な意味じゃなくてね。
続く"Where Is Everybody?"ではラップ調のヴォーカルが非常に面白い。
こちらサイドは総じて実験的な色合いが強いかもしれない。
水面下から空を観るような、ぼやけた景色が明るく、揺れている感じ。
どこか心地よくて、でも安心は出来ない。
このアルバム中、最もアグレッシヴで、最も激しく、最もトレントらしい皮肉も込められた曲であり、それゆえ一部ではアルバムに合っていないとの声もあるのが、"Starfuckers. inc"である。
個人的にも大好きだし、恐らく日本のファンに取っては非常に思いで深い曲にもなっているだろう。
05年のサマソニでは、この曲のラストサビ前の「Don't You?」というフレーズで大合唱が起こり、一次演奏を中断してその成り行きをトレントが見守るような場面もあった。
そのときにトレントが笑ったのが非常に印象的であった。
翌年の単独では、この曲のその部分にさしかかった瞬間にマイクを客席に放り投げるというパフォーマンスも。
トレント自信も強く印象に残ったのだろう。
神はバックシートに、神は雑誌の中に、なんて歌われる訳であるが、「Starfuckers」という造語の意味するところなんかも観ても、実はこの曲は過剰なファンを揶揄しているとも取れるかもしれない。
この曲はお前についてだと思うか?といった問いかけもありながら。
その曲でああしてエキサイトしすぎてしまったというのは、実はちょっとした皮肉でもあるような気はする。
ちなみにこの曲のPVでは、当時仲違いをしていたマリリン・マンソンも登場している。
今はまた疎遠になってしまったようだが、面白いので良かったらチェックしてみてほしいものである。
アルバムのラストに近づくにつれ、曲個々の境界はますますブラーになって行く印象がある。
しかし、"The Big Come Down"のような、やや変わり種の曲もありつつ、しかもライヴでやると思いのほかかっこ良くて、結構びっくりした。
そして、ラスト前”Underneath It All”では、再び「I Can Still Feel You」というフレーズが出てくる。
今度は「All I Do」という言葉に続く訳であり、一つに光が見えてきたかのようにさえ感じられる。
このアルバムは、総じて靄がかかったよう、という印象だと書いたんだけど、そうしてさまよっているうちに要約一つの答えがうっすら見え始めるような感じを残して、このアルバムは幕を閉じる。
"Ripe (With Decay)"の、奇妙に切迫した感覚も、その予兆のようで。
続くアルバム「With Teeth」まではまた6年の月日を要する訳であるが、そこへと続く一つの道筋であると捉えると、やはり面白いし、そういう捉え方も出来るくらい彼の音楽は正直であるとも言えるだろう。
もっとも、このアルバムのリリースのタイミングで、NINは初来日もしている訳であるが、当時は既にドラッグとアルコールで心身ともにぼろぼろであったとか。
その一因となったのは、アメリカでのチャートアクションもあったのだろう。
周知の通り、既にトレントは今はその場所には居ないし、まったく新しい心境で今は音楽をやっている。
相変わらずどころか、最近ますます言葉は辛辣に、行動もアグレッシヴになっているトレント。
とうとう結婚までしたのであるが、その相手というのがまた強烈だった。
日本ではほとんど無名のバンドの子らしいが、まあ派手な女であった。
トレントの趣味が今一わからないが、そういえば昔コートニー・ラヴとの中も噂されたというから、実は割と派手目なほうが好みなのかもしれない(もっともコートニーとの仲は否定していたが)。
ともあれ、このアルバムにころはまさにトレント・レズナーという才能が爆発しまくっていた時期で、その最高の成果と言えるのがこのアルバムだと思う。
「Downward Spiral」の方が歴史的名盤と名高いし、アルバム1枚のヴォリュームという観点からも、時代背景からもその評価は妥当だろう。
しかし、彼個人の成果で言えば、間違いなくこの作品だと思う。
聴くたびに発見があるくらい、あれこれと音がちりばめられていて、曲だけでなくそうした所まで耳を傾けていれば飽きるなんてことはあり得ない代物である。
しかもライヴでやればどれもそれなりにアレンジされるので、文句無くかっこよく仕上がるしね。
評価ははっきり分かれるであろう彼らの音楽であるが、一度は聴いてみてほしい音楽の一つである。
どこまでも自分を掘り下げるストイックさと、それをポップと言うフォーマットに仕上げる才能、そしてその精神を忠実に再現せんとする完璧主義。
その最高の成果が「The Fragile」であろう。