たとえば楽器のうまい下手、とかまではよほどでないとわかんないけど、録音の具合とか曲のつなぎとか、あるいはアルバムとしてトータルな価値とか、そう言うものも自分なりに多少ではあるが評価出来るようになって来た(と思う)。
だから、逆に曲はいいけどアルバムとしては今一かな、とかいう偉そうな視点も出てきたいるするのはさぞうざったいことであろう。
それはともかく、ここ数年でとにかく完成度高いな、と思ったのは、昨年各誌でも絶賛され、今の音楽シーンにおける最重要人物の一人でもあるJames Marphy率いるLCD soundsystemの2nd「Sound of Silver」である。
最初聴いたときには、その少し前くらいに出た!!!の3rdがあまりにすさまじかったので、その衝撃で浮かれていたことでポップだけど・・・とか言っていたんだけど、その後聞けば聴くほどそのすごさに当てられて、今では完全に哀調版どころか聞くたびに感動するほどである。
1曲目、静かに電子音から始まり、ピアノやビートが少しずつ加わっていき、ドラムが加わるあたりで一気にぐっと上がる。
でもあくまでじっくりとあげていき、今度はピアノが少しづつフェードアウト、その分ギターやヴォーカルなんかも入ってきて、気がつけば実に楽しい音楽に身を揺らしている。
そしてまたピアノがフェードインしてきて、いつの間にかビートとそれだけがなっている。
このさりげなさ、何かが始まる感はばっちりだ。
続く2曲目、今度は躍動感あるドラムに始まり、素っ頓狂なヴォーカルもはじめから歌っている。
チャカポコチャカポコいうふざけた要素もありながら、めちゃくちゃ楽しいのである。
曲そのものはそんなに押せ押せでもないし、BPMも早くないし、音数も少ない、それに派手でもないし、大仰な要素は皆無である。
にもかかわらずこの高揚感はなんだ!?
で。3曲目はシングルカットされた"North American Scum"である。
この曲はまさにポップでダンスで、てさっきから同じ事を言っているが、ぶっちゃけアルバム通してそれ以外言いようがないのである。
駄目なところや、惜しいと思うところすらないのである。
この超シングル向きな曲の後に、今度はやや静かなトーンの曲が続き、更にはちょっとメランコリーもありそうなピアノの印象的な曲、そしてこのアルバム中で個人的に一番好きな"Us vs Them""Watch the Tapes"という超アッパーソングが続く。
この2曲は随一のアグレッシヴさがありながら、真顔にならず、やっぱ楽しいんですなあ。
そのハイライトを超えると、今度はアンビエント的な空気感もあるタイトル曲"Sound fo Silver"である。
こういう全く派手さもなく、またサビなんてものもないし、展開がめまぐるしく変わるわけでもない曲なのに、高揚ではないが心地よいダンストラックになっている。
そして最後が、ピアノバラッド"New York, I Love You But You're Bringing Me Down"。
彼らNYが活動拠点であるのであるが、そんな故郷への愛を歌った1曲である。
もちろんピアノオンリーではないのであるが、見事にドラマチックな仕上がりになっている。
最後に一回ブレイクを挟んでもう一押しするあたりが素敵である。
と、こんな具合に非常にエンターテインメント性に優れていながら、音楽的にはきわめてオリジナルで、ダンス的でありロック的であり、音の密度や圧力で圧倒するのではなく隙間を活かして人を躍らせる音楽センス、まさにマスターピースと呼ぶにふさわしい作品である。
彼らは2007年のサマソニに来たのであるが、雑誌の扱いに反してそのライヴは完璧としか言いようのない、最高のものであった。
演奏の完成度もそうだし、曲順もそう、多分初めて聴いた人でもかなり楽しめたのではなかろうか。
ものすごい叫ぶ中年男性に興奮を覚えたのであった。
ちなみに、彼らがなぜ重要か、という話なんだけど、James Marphyと言う人は自らDFAというレーベルを運営している。
この名前を見ればピンとくる人は当然LCDも知っているんだろうけど、彼らはあのRaptureをプロデュースしたことでも有名で、昨今のディスコパンクと呼ばれる音楽性に多大な影響を与えている、と言うよりもその中心にいる存在であるのである。
個人的には最近日本の一般層にも人気になりつつあるThe Tinn Tingsも、かなり影響されてんじゃないの?と思うのであるがどうなのだろう(特に"Thats Not My Name"あたり)。
それに、彼らのリミックスを依頼するアーティストも非常に多い(あのNINも依頼している)。
また、すでにちょろっと書いたのであるが、彼らはデビューは2004年とかそれくらいなんだけど、James はすでに腹の出た中年である。
サマソニのときなんか、機材準備中に出てきたのに、ファンの誰も気づかなかったのか、特に歓声も出なかった。
自分も「あれ?」とは思ったけど、なんか変なTシャツ来た普通のおっさんだったので、スタッフとしか思わんかったよ。
こんなおっさんがこんなすばらしい音楽を作るとは...(別に脂ぎったむさくるしいおっさんではなく、気のいいおっさんといった風情である)。
ともかく、メディアhの露出もそんなにないし、かっこいいわけでもないし、日本でのライヴもそんなにないので、知名度はそれほどでもないかもしれないが、これはチェックしておかねばならない1枚である。
それこそ普段ダンスミュージックしか聴かないやつでも、逆にロック以外ありえねえ、と言う人も、とりあえず聞く価値はあると思う。