ここ数年はNWリバイバル、とかいう流れの中で、80年前後、ピストルズにより点いたパンクの炎が完全に費えた後に出てきたバンドの再評価が進んでいる。
Franz Ferdinandあたりと引き合いに出されるGang of Fourや、NINなんかも影響をうけるKilling Joke、ピストルズ後のPIL、あるいはアメリカでのTalking Heads、Television、などなど、本当に数多くのバンドが再発されたりしている。
そんな中でも一際その波が著しいのは、今は亡きIan CurtisのありしJoy Divisionである。
映画にもなっているし、彼らを影響源に挙げるバンドはそれこそ数知れず。
Kasabian、Faint、そのほか明言していなくとも、彼らの残したあとはあまりに大きい。
私はもともとNINのカバー"Dead Soul"が、JDとの出会いである。
あまりに馴染んでいたので、はじめはカバーとは知らなかったし思わなかったんだけど、色々聴くようになり、それに伴い雑誌なんかも隅から隅まで読むようになった。
で、色々観ているうちにJDの名を発見し、バイオグラフィーなんかを読んでは興味を持ったのである。
やはりはじめは、自殺した伝説のバンド、という文脈で語られていたところであったので、なぜに自殺したのかしら、ということが興味の対象になる。
また、そういったエピソードを踏まえて、実際の音楽について調べていけば、そこでの接点が一番強いのはやはり「Closer」であった。
このアルバムについてはまた別の機会に書くとして、今回は彼らの1stアルバムについて。
JDは、もともとPistolsやDamnedに強い影響を受けた青年たちによるバンドであった。
特に、まだWarsawと名乗っていた頃の音楽はその影響が強く感じられる。
ちなみについこの程Warsaw名義のライヴ音源を集めたアルバムも出ており、そこにはパンクな彼らを聴くことが出来る。
それに対して、JD名義のこの作品では、現在のエレポップに通じる要素が多分に感じられる。
チープな電子音、淡々としたミニマルなドラム、静かにリズムを奏でるベース、時にノイジーに、やや不安定になるギター、そして地を這うような低音で歌い上げられるヴォーカル。
そして人間の深遠を描くような詞の世界は、オリジナルパンクのそれとは明らかに一線を画している。
ただ、1曲目などは非常にダンサブルで、軽快ですらある。
しかし、終盤になるにしたがって次第にうねるようなベースとともにどこかへ落ちてゆくような感覚に襲われる。
そこからはややダウナーな空気をかもしつつ、少しずつ少しずつ深みにはまってゆく。
そして、ひとつのハイライトはやはり"She's Lost Control"である。
個人的にはJDの曲の中でも1,2を争う好きな曲である。
まさに名曲だと思う。
詞のモチーフになっているのは、イアンが働いていた職業紹介所に来たある癲癇を持つ少女である。
面会中に突然発作を起こしたその姿にあまりに衝撃を受けたことが、ほとんどそのままは反映されている。
淡々と流れるベースとドラムの上に、不安を書きたてるようなギターが見事に作用している。
ほとんど奇跡的な出来になっていると思う。
ぶっちゃけバンドの演奏は、私のようなド素人が聞いても下手だと思う。
でも、その不安定さが却って味を出しているのである。
It's Magic。
ちなみに、イアンの伝記的映画「Control」でも、この少女の癲癇発作のシーンは非常に印象的に描かれる。
後にこの少女は発作の中で死んでしまうのであるが、その衝撃もさることながら、イアン自信も癲癇に悩まされ、彼の自殺につながる大きな影を落としたようである。
その後の曲は、どれもまさに疾走感あふれる展開で、めっちゃくちゃかっこいい。
そのうちの1曲"Shadow Play”は、Killersがカバーしてる。
このあたりの曲は、いわゆるエレポップに非常につよいつながりを感じる。
New Orderあたりの雰囲気を特に感じられるように思う。
このアルバムの後、彼らは長期のツアーに出るわけである。
このツアー中には不倫相手と長い時間を過ごしていたようだ。
イアンは幼馴染?と結婚して、すでに子供もいたが、ライヴで知り合った女性と不倫してしまうのである。
その関係がモチーフと成ったのが、彼らの1番のヒット曲"Love Tear Us Apart"である。
愛がふたりを引き裂く、と歌われるこの曲は、非常にポップでありながら、どこかやりきれなさの残る曲である。
そのツアーの最中にもレコーディングを始めるわけであるが、その新作が完成して、後は出すだけというタイミングで、イアンは自殺してしまう。
本当の理由はもはや永久に定かにはならないが、不倫に対する罪悪感や、自信を蝕む癲癇に対する不安感などが、主たる理由であるといわれている。
かの少女の死が彼の不安感をいっそうあおったのは言うまでもない。
ちなみに、彼の死後、それでもライヴをやらなければいけなかった残されたメンバーが、New Orderとして再始動し、これまた現在の音楽シーンに多大な影響をもたらすことになる。
多くのすばらしいバンドが誕生した80年前後という時代の中で、Joy Divisionはやはり異彩を放って見える。
それは単純に、自殺というショッキングな事件性もあることはあるが、それ以上にその世界観が圧倒的であったからであろう。
いわゆるパンク的な文脈から派生した中では、文学的で内省的で、綱渡りをするような詞の世界は独自である。
先ごろ公開された「Control」という映画を観てからは、なおさら彼らの(とりわけイアンの)世界観にはどうしても興味を惹かれるようになった。
今年の春ごろに公開されたわけであるが、やはり衝撃的というか、ショックな部分は多かったな。
なにせイアンが死んだのは、今の自分と同じ23歳のときである。
この年でどうしてあんな歌詞が出てくるのかと思うよ。
今時の日本人の若手バンドを観てご覧よ。
悪いとは言わないけど、やっぱり歌われる世界観は全然違う。
で、自分はどちらにより惹かれるかといえば、JDなんだよね。
暗い、てことかしら。
まあいいや、ともかくこのアルバムは、この文章を読む限りでは暗い印象しかないかもしれないが、決してそんなことはなく、むしろかっこいいのでぜひ聴いて欲しいね。
後にイアンは「Unknown Pleasureの頃が一番楽しかった」といった旨のことを言ったそうだ。
そんな雰囲気も確か感じられる、そんなアルバムである。
タイトルだって、「Unknown Pleasure(人知れぬ喜び)」ですからね。