かつてインディロックの特権と言えば、演奏が下手でも構わない、それよりも音楽への情熱だ！と言った、いわゆるヘタウマな価値観だったと思う。
インディと言うかパンクかもしれないけど。
でもそのパンク的なアチチュードがよしとされていたのは事実だと思う。
ところが、最近の若手バンドはとにかく演奏がうまい奴が多い。
それこそFoalsなんかは元々マスロックをやっていたとあってその演奏は抜群だし、MuteMatheなんかもそう。
てうかうまくないというとNine Black Alpsくらいしか出てこない。
彼等が悪いと言う話ではなく、概して演奏は上手だ、と言う話である。
かつてはプログレッシヴロックなるジャンルが一時代を築いた訳だが、その頃というのは演奏テクニックがないと音楽はできないと言った風潮もあったそうな。
パンクはその反動でもあった訳であるが、それが行き過ぎてヘタウマなんて言う意味不明な価値観が蔓延した事はあっただろう。
80年代に入りヘアメタルが全盛となると、今とは早引きがもてはやされたり。
テクニックがある事はもちろん良い事だが、それをひけらかすだけの音楽になると、本懐はどこへやら、という話になってしまう訳である。
テクニックはあくまで道具の一つであって、表現したいものがあって初めて意味をなすはずである。
その表現したいものがなければテクニックはただの飾りでしかない。
そういう意味では、昨今のバンドはあくまでその表現したいものあり気になっているから変な方向へは行かないのだろう。
なんだが長ったらしい前置きをしてみたが、本日取り上げるBattlesは最近デビューしたバンドであるが、メンバーのキャリアは既にお墨付きの超テク集団であり、昨今のポストロック／マスロックの分野において一つの金字塔を打ち立てたバンドである。
1stにして既に完成されていた前作「Mirrored」は、ポップさと実験性を兼ね備えた傑作だった。
いわゆるインスト主体で、ヴォーカルは効果音的に使われているだけなのだが、それが圧倒的なポップネスを銜えており、名曲"Atlas"はアンセムとなった。
いわゆる格の違いを見せつけたような文句のつけ用のないアルバムであったが、それから2ndが出るまでには思った以上に時間がかかった。
そもそもあれ1枚で終わっても不思議でないくらいだと思うし。
1stで大成功を納めた訳であるが、その後バンド自体は色々あったらしい。
なんといってもバンドのキーマンであったはずのタイヨンダイの脱退は非常に衝撃だった。
レコーディングも進んでいる中での出来事であったので、これはバンドに取って大きな事件であったに違いない。
ソロも出し、それも最大級の賛辞でもって迎えられたのだが、どうもその頃から他のメンバーとの価値観の違いが出てきたようで、ついに脱退と相成った。
そこで、3人体制で新たにレコーディングを始め、ゲストヴォーカルも迎えつつようやく今年2ndはお目見えとなった。
日本人に取って嬉しかった事の一つが、ゲストヴォーカルとして迎えられた一人がボアダムスのEyeであったことだろう。
一体どんなコラボレーションかと期待したものだ。
ふたを開けてみれば、結果はいいアルバムであった。
前作以上にポップで親しみやすくなっており、かといって手抜き感は一切ない。
彼等らしさも感じさせるもので、新しい船出としてはまずは成功といっていいだろう。
特に2曲目などはメチャクチャポップで爽やかで、疾走感のある曲であるし、Eyeの参加したラストのトラックもいい。
アルバム通して聴いてもだれないし、あの苦境でここまで作り上げたのはさすがと言ったところか。
ただ、一方で”Atlas”クラスの曲はない。
なんというか、聴いていて衝撃的な曲はないのである。
どの曲も間違いないけど、決定打はない。
アヴェレージは高いけど、マキシマムはそれほど高くない、みたいな。
まったく悪いところなんてない。
だけど、前作のような他を圧倒するような曲はないのである。
あの曲はタイヨンダイの要素がかなり出ている印象なので、彼の抜けた穴はやはり大きいということか。
ある雑誌で、「ヴォーカルが加工されていないのが非常に残念」といった評があったが、確かにそうだと思う。
まあ、前作を引きずってしまうからそう思うのかもしれないけど。
とはいえ、前提としてアルバムが素晴らしいのは言うまでもない。
期待値が高いし、前作が余りにも良かったからつい比較してしまうとそういう評価をしてしまいがちになるが、基本的にベースが高いのである。
その意味では、文句なんてないけどね。
でも、次はもっと良い奴を作ってくると思うよ。
ライブでも、ジョンの高位置シンバルを叩く姿を見たいものだ。
