昨今のダンスロック流行も、あんまり溢れるとそれが当たり前になりすぎて、その括りもぞんざいになっていく。
中には明らかにハイプ的な空気のバンドもいて、メディアも売り手の一員であることを否が応にも感じるものである。
「踊らずにはいられない!!!」とかってライナーに書いてあっても、首をかしげるばかりとかね。
まあ、好みだからしたないんだろうけど。
でも、ここ最近でもっともダンサブルな音楽と感じたのは、!!!の3rd「Myth Takes」である。
密林の中から聴こえてくる原住民の民族音楽のような怪しげな雰囲気と、呪術的なヴォーカル。
これは一体なんていうジャンルなのだろうか、と思うような怪しさである。
もともとはポストパンク的な文脈から出てきたバンドだが、たしかハードコアを根っこには持っていたはずである。
Raptureらとともに新世代バンドとして捕らえられていたが、この3rdはそうした文脈とはもはや無縁とさえいえる。
うまく形容する言葉が見つからないほどの強烈な個性である。
1曲目"Mythtakes"からしてすでにヤバイ。
ベースとパーカッションで淡々とリズムを刻みながら、時に響く奇妙な音と空気を変えるギター。
密林の中を進むような不安とドキドキ、なにがあんにゃろかしら、なんて。
続く2曲目"All My Heros Are Weirdos"は打って変わって爆裂なテンション。
正直つなぎの部分がややぞんざいな気はしないではないが、打ち込み音とパーカッション(そう、やっぱりパーカッション)、混沌としたまでに乱打されるこれらが実に最高。
原住民のお祭りに遭遇したような気分である。
そして3曲目"Must Be The Moon"ではひとつのハイライトともいえる部分である。
月のせい、なんていう粋なタイトルであるが、男女のやり取りを歌った歌詞はユーモラスでもあり、それもいとをかし。
捨て曲一切なし、テンションも一切だれることなく"Bent Over Beethoven"まで強烈なダンスミュージックは鳴りつつける。
そしてラスト"Infinifold"はそれまでと一変して、その風情は祭りの後。
それまでの喧騒をあっという間に置き去りにして、夢から覚めたかのような後味である。
ダンスミュージックの本質は何か、といえば、それは自失、すなわちトランスを導くことにあるといえよう。
いわゆるトランスミュージックという奴が、べらぼうなBPMでミニマルな音楽であるのは、ハイな状態を一定レベル以上に保ち続けるためであろう。
ある程度以上のハイな状態が常態化し、他の刺激を一切排除することで忘我の境地となるわけである。
彼らの音楽は、BPMは速くない。
別にミニマルな展開に終始するわけでもないし、攻撃的であり続けるわけでもない。
しかしそれでも体は踊りだす、我を忘れて、楽しくて。
それでいて、最後はきちんと家に帰れるように忘我からたたき起こしてくれる。
静かで、どこかさびしげな音楽で。
まさに一級のエンターテインメント性を持ったアルバムである。
彼らの真価はライヴでこそ発揮されると評判である。
このアルバムが出たのは2007年、その年の3月に来日公演もあった。
しかし、当時就活中の身であったこの俺は、我慢してしまった。
猛烈な後悔。
フジロックなんて、卒論にも追われていよいよ行ってられない有様であった。
ああ、もう一回こんかしら、と切に願う。
最近は一言にダンスロックといっても、テクノ的であったり、ディスコ的であったり、もっとロック的であったり、もはやジャンクであったり、多様を極めている。
それでも彼らほどのオリジナリティを持っているバンドはそういるものではない。
まあ、真似しようたって出来るようなレベルでもないが。
こぎれいなダンスロックに飽きたなら、とりあえず彼らを聴いてみるといいさ。
ぶっ飛ぶぜ。