音楽放談 pt.2

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ゆるさの向こうに ―Almost A Rainbow

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12月も早後半にさしかかった。

年を取るごとに時間の経過が早くなる、なんて話しは以前から聴いていたけど、本当なんだね。

まあ、別に無為に過ごしているわけではないからいいのだけど、やっぱり多少焦るところもあるし、頑張らないとな、なんて思う事も多くなった。

年下の方が増えていくと、そんな事を良く思うのである。

そうはいっても、私もまだ年齢的な若いと言われる部類だと思うけど、でも30だからやっぱり若くはないよね。

しっかりしないと。


そんな私が今年年間ベストに上げたのがアナログフィッシュの最新アルバム『Almost A Rainbow』である。

前作から1年と空けずにリリースされた訳だが、出来映えはラフでもデモでもなくてこれまでのキャリを総括しつつ、初期のような瑞々しさと成熟とを魅せる見事な出来映えだったと思う。

社会派3部作、なんて位置づけで発表された近作に比べても歌詞の表現も普遍的で、全体に明るいヴィヴィッドな音楽になっているので、素直に楽しめる作品なのではないかと思う。

作った彼等自身も、自分達の名刺代わりです、と言えるくらいの自信作だしね。

これに伴うツアーもあった訳だけど、今のバンドの状態が非常に良い様子が伺えたね。


私は最初聴いた時には結構びっくりした。

1曲目は健太郎さん作の"Baby Soda Pop"という曲なのだけど、イントロからファルセットのトゥルットゥ~みたいなコーラスとシンセのキラキラした楽曲で、アルバム間違えた?と思ったほど。

歌詞は男女の出会いの瞬間を描いているのだけど、ちょっと視点が捻くれたところもあるけど、それが却って瑞々しさというか、所謂純粋な感情の表現になっていて、なんだかすごくほっこりするような思いをさせられる。

街で流れる流行のラブソング、そんな歌詞にちっとも共感できない男と、話題の恋愛映画にピンと来ない女の子、2人は共に「自分は恋を知らないんだ」なんてちょっとため息まじりに思うのだけど、そこで出会った2人は今度は「恋に落ちてる」なんて実感してしまうという。

非常に王道なのだけど、出会ったその瞬間こそが恋のきらめき、ていうかそういう出会いそのものが恋であると言えると思うから、その瞬間を切り取ったこの歌詞は、30過ぎの男が描くにはあまりに、瑞々しくて。

目映いぜ。


2曲目は下岡さん作のちょっと皮肉っぽい曲"F.I.T"。

流行を必死で追いかけてしまう人の姿を軽快な曲に載せて、「Fitする私はどこにいる」とあてどもない。

「あのセレブのモデルの再従姉妹(はとこ)のペットと同じの飼わなくちゃ」なんて、SNSで情報収集して振り回される忙しなさが見事だと思う。

3曲目は健太郎さん、"Will"と言う曲なのだけど、これまたすっごいアップリフティングな曲である。

ギターが鮮やかで、すごくシンプルな曲なんだけど、敢えてこれだから良いのだろうね。


そして4曲目がキー曲の一つ”No Rain (No Rainbow)"。

下岡さん流日常ラブソングで、私の好きなタイプの表現なのだけど、この曲はいい。

夫婦か恋人かは明確にしていないけど、何気ない夕暮れの帰り道に2人で歩きながら繰り広げられる何気ない会話の中で愛の本質について語られる。

「僕はバカだから傷つけなきゃわからないんだ」「そんなあなたを選んだ私に見る目がないのね」、そんな関係に幸せを見出す男は、一方でそれが少し不安になってしまう。

「幸せの代償に僕は何を支払うんだろう?」、其れに応えて彼女は言う「何も支払う必要なんてない、これはサービスじゃなくて、ただ好きなだけだから」。

曲のタイトルは「雨が降らなければ虹はかからない」とかいうどこかのことわざから取ったらしいけど、解釈の仕方は少し違うらしくて、嫌な雨が降った事の対価として虹がある訳じゃないよね、というところがミソである。

この曲についてレビューされている記事で、非常に見事なキャッチコピーだなと思ったのが、愛はコスパじゃない、というもの。

それでもこの曲の最後に男は「だけど、君に何かしてあげたいと思うよ」と括られる。

淡々とした日常の景色として描かれるさりげなさが、すごく好きである。

ロマンスも大きなイベントもないけど、幸せってそういうものなんじゃないかな、なんて思う。


後半は少し静かなというか、トーンの低い曲が続く。

歪ながら其れ故にうまくかみ合う2人を描いた"Tired"、都会の喧噪を独り歩きながら妙にポツねんとして、現実感が遊離してしまう”今夜のヘッドライト”、この曲の情景ってなんかすっごいわかるんだよね。

街中で横たわるホームレスに夜の人がまばらな電車の中とかね。

女性の太ももの白さだけが妙にリアル、というのもいい。

"Walls"は運命について、"Hate You"は心を開いてくれない(と感じる)彼女への不安感なんかを歌った感じかな。

そんな彼女を嫌いだと言いつつ、「Love you, Believe you...」とも言う。

続く”夢の中で”は、「誰かの夢の中で暮らしてるような気分」というなんとも不可思議な感じを歌っている。

部屋を飾るものや色んな趣味が、本当に彼女の趣味なのか、それとも誰かに感化されているだけなのか、いつの間にかまた違う景色に変わっていて、ただ視点はその当人なのか、向かい合う誰かなのか、第3者の何者か明確ではない感じなのだけど、それが更に他人の夢感を出している。

続くは一気に明るい曲”こうずがわからない”なのだけど、この曲は歌詞も全てひらがなで書かれている。

色んな問題があって、どうしたものかわからない状況でとりあえず対処するという、明るい曲調に反して皮肉っぽい曲だと思う。

こうずがわからない、という言葉の中に一体何が問題なんだ!わけわかんねぇよ!という叫びが聴こえるようだ。

とりあえずきょうはねむれそう、なんて終わる辺り結局何も解決してないんだよね。

まさに今と言う時代である。


ラストは”泥の船”、穏やかな曲調で歌われるのはこの世の中で生きる事の不安感だろう。

前に進むほどに崩れる泥の船を、少しずつ泥を補いながら進み続けるという状況は、先行き不安しかないからね。

それでも「オールは握っているかい?まだ諦めちゃいけないよ」と歌われる。

下岡さん作の曲なのだけど、彼自身「諦めないでっていうのは、正直書いていいものか迷った」と語っていたけど、それでも歌われるのは彼なりのメッセージなのだろうね。


彼等の曲は基本的に日常の観察に根ざしている。

その中からにじみ出てくる情景や色々の感情を描くところに彼等の作歌性があると思うのだけど、このアルバムはそうしたメッセージ性みたいなものから距離をとっても、純粋に綺麗なラブソングやポップソングとして響くから、固くもないしうっとうしくもない。

とはいえ、都会的な情景についてが多いから、そうでない環境の人にはピンと来ない表現も多いかもしれない。

また私のような地方出身者の方が、余計に感じるところもあるのかな、とも思う。

でも、難しいことをさておいても素直に楽しめる普遍性もあると思うから、是非聴いてみて欲しいアーティストである。


"Baby Soda Pop"