
日本の2代夏フェスを特集したクロスビートの特集号が発行されている。
以前は毎月発行だったが、今はこうした季節ごとに発行される季刊誌?になっている。
ずっと「伝説」「奇跡」の文字が踊ってばかりで、申し訳程度に他のバンドも紹介されていたが、およそ雑誌のコンセプト的に懐古主義しか感じられずに、読んでいて辟易するものだった。
いずれもロック史に残るバンドなのはよくわかっているし、例えばレディへの"Creep"がサマソニで披露されることへの期待感も理解していたが、とは言えこうも全力でそこに焦点を当てるのはいかがなものかという気持ちが拭えない。
どっちもまだ現役だ、何懐古主義に走った紙面作りをしているのか。
今を伝えろよ、と思うし、せっかく発行するのになぜ過去のインタビューを掲載しているのか理解できない。
なぜもっと次のバンドに紙面を割かないのか。
音楽雑誌が面白くない理由が集約されていたよね。
そんな前振りをしつつ、今日の内容は日本の伝説と言われるバンド、はっぴいえんどである。
わずか3枚のアルバムながら、その中でも代表作と名高い『風街浪曼』について。
毎年夏になるとこのアルバムを聴きたくなる。
大学時代の思い出も、大学の中庭でこのアルバムを聴きながら過ごしたのが今でも鮮明に残っていて。
そんな個人史もありつつ、音楽的にみても今の日本のインディシーンのバンドの曲を聴いても、その影響と思われる節は身受けらえる。
日本語ロックの原型を作ったとも言われるバンドなので、行ってしまえば日本語でロックをやるバンドがすべからく彼らの影響にあるとも言える、日本における伝説である。
今話題のシティポップと呼ばれる連中にも、少なからずその要素は見あたるから、それくらい評価されて当然のバンドだと思う。
さて、このアルバムについては本当に捨て曲がない。
1曲目から最後の曲まで、すべてが意味を持って鳴っている。
1st も素晴らしかったけど、フォークっぽいというか、ちょっとどろっとした旧来的な日本の音楽っぽい色が強い印象だったのが、このアルバムではそこ明るい純粋な日本のポップスであると同時に、ロックが鳴っていて、やはりブレイクスルーな作品だと感じる。
”風をあつめて”なんて未だにカバーされるくらいの普遍性があるし、”暗闇坂むささび変化”の遊び心も、すべてが素晴らしい。
”夏なんです”はイギリスの1Yuckというバンドがカバーしているくらいだ(メンバーに日本人の女ん子がいて、その子がヴォーカルを取っている)。
で、私が一番夏を感じるのは”花いちもんめ”という曲だ。
田舎の夏の風景のような感じが素晴らしい。
このアルバムの曲は、田舎の音楽だと私は思っている。
田園風景とか、何もないけど虫だけがうるさいとか、そんな感じ。
でも、日本というものを表現するときになんだかんだしっくり来る言葉は田舎だと私は思っていて、その日本的な感じがすごく出ているのがこのアルバムだと思う。
技術が最先端だとか、すごいVRがとか、そういうものが話題にはなるけど、それが話題になるっていうのはそれが田舎で見た夢の形だからじゃないかなと思うし、そもそも日本には都会なんて存在しなくて、その中で夢を現実にしていく思いがああいう成果に結びついているんじゃないかな、なんて思っている。
根本の民族性はこういう田舎風景だと思う。
私個人はそうだしね。
そういう日本のメンタリティを表現していて、曲としてもポップで普遍性があり、かつ当時の時代状況からすると最先端でもあったこのアルバムは、やっぱり一つの歴史の転換点だと思うし、それを実現たらしめたメンバーが結集したことは一つの奇跡だったと思う。
だからこのバンドは伝説と読んでいいと思う。
一方で、大滝詠一さんは残念ながら他界してしまったが、他のメンバーはまだ健在で、音楽活動に従事している。
第一線か、と言われればそうでもないのかもしれないけど、少なくとも彼らなしには日本の音楽は発展しえなかっただろうし、少なくとも遅れていただろう。
ひょっとしたらまだ演歌だったかもしれないぞ。
昔のバンドは古くさいから聞いても仕方ない、と思っている人も世の中には一定数いて、別に今の音楽で楽しいからそれで十分だという人の方が大勢だろう。
でも、その音楽が出来上がる礎に触れるのもいいものだと思う。
少なくとも彼らの音楽は今聴いてもいいと思えるものがあるはずだ。
だって根本だから。
季節はもう秋になってしまったけど、是非聞いてみてほしい音楽である。
”風をあつめて”