2000年代初頭に新しいアーティストが一気に台頭してきた時期があったわけであるが、あり方は今それぞれに異なっていたりする。
変わらず音楽を続けている人が大半だけど、活動の仕方も変わっていたり、音楽性が変わっていたり、その是非はあるにせよ変化を感じるわけである。
Strokes、Coralは活動を続けているし、当バンド以外の活動や客演も多く、音楽業界でちゃんとやっている。
Libertinesも再結成以降新譜をちゃんとだしたし、なんやかんや活動しているのだろうか。
Musicは解散して、Streetsも解散?して、2人でD.O.Tをやっているが、1st以降音沙汰がない。
White Stripesも解散、TV On The Radio、Liarsはアルバムも出している。
LCDは今後どうなるのだろうか。
そんなバンド達とともにシーンの顔役の一つだったのがYeah Yeah Yeahsだろう。
女性ヴォーカル、Karen Oの派手でぶちじれたようなヴォーカルと、超絶テクでアンプを2台使用するギタリスト、文系顔でビル・ブラッフォードみたいなスティックの持ち方で坦々とリズムを刻むドラムのスリーピースバンドである。
アートパンクなどと呼ばれていたように、パンク的な粗暴さんの中に知性とセンスの光る楽曲が素晴らしかった。
1度だけ単独ライブを観たけど、何と言ってもKaren Oの艷やかさというか華やかさというか、フロントウーマンとしてものすごくパワーのある人だったのが今でも印象に残っている。
そのヴォーカル自体の存在感もさすがで、その横で演奏する2人はことさら主張はしないけどしっかりと支えているのがこのバンドのバランスなのだろう。
アルバムは4枚、EP数枚とそれほど多作な方ではないが、ある程度コンスタントに出している。
ただ、直近2作は正直個人的にはあまりピンとこなかった。
エレクトロを大胆に導入した『It's Blitz』はアルバムのムードとしては非常に快活というか、アップリフティングな感じがあって悪くないし、多分一番メジャーな音になっていると思う。
なんだけど、逆にクリーンすぎる感じがこのバンドに私が期待するものと違ったのだろう。
その次の目下の最新作『Mosquite』は、なんかパッとしなかった。
やや初期作の色に近づいたとはいえ、曲そのものがパッとしなかった。
それから3年経っているが、Karen Oがちょくちょくヴォーカルで客演はあるものの、音沙汰がないのは寂しいことだ。
別に初期作を期待はしないけど、何かまた彼ららしいアルバムを聴きたいものである。
そんな彼らの代表曲は、1stになってしまうけどやはり"Maps"だと言えるだろう。
この曲はどちらかといえば静かな曲で、構成としては彼ららしい楽曲だし、Karen Oの歌も艶やかさと爆発するくらいの感情を無理やり押さえつけているかのような風情があって非常に素晴らしい。
曲のテーマはラブソングの一つなのだけど、女の慕情というべきか、独占欲とかそういう少しドロドロした感情をこうも見事に表現している曲はそうそうないだろう。
言葉は断片的ながら、コーラス部分の「Wait, They don't love you like I love you」というフレーズが前後の文脈と伴って、ちょっと怖いくらいでもある。
ちなみに曲のタイトルはMy Angas Please Stayの各頭文字をとったもの、Angasは当時彼女が付き合っていたLiarsのメンバーで、双方ともにバンドが注目されるようになって忙しくなる中で、ツアーに出かけて長期不在になる彼への思いを歌っている。
あまり表に出すことが本来であれば憚られるような感情を、その部分も含めて表現されているのが素晴らしいのである。
Karen Oのヴォーカルとしての力量が如実に出ているとともに、影をあまり感じさせない力強さが魅力で女性が憧れる女性というようなランキングでは一時常に上位にいたのだけど、その彼女のとても女性的な部分が、あからさまというよりはにじみ出てきてしまう(抑えきれない)感じがすごいのだ。
まさに感情の歌である。
あのトレント・レズナーもかつて「別に俺は彼らのファンでもないし特に好きでもないけど、あの曲は名曲だ」という発言をしていた。
White StripesやArcade Fireなど他のバンドにもかなりカバーされている。
そのカバーに対するコメントを見ると「この曲をちゃんと表現できてない!」という厳しいものもしばしば散見されるが、曲のメロディとかテクニカルな要因とは別の歌の表現としての評価というところであろうか。
この曲自体はもう10年以上前の曲だけど、名曲はいつまで経っても名曲である。
そろそろまた新譜も期待したい時期になっているが、過去の曲を改めて聴きながら、気長に待っていよう。
"MAPS"