
私は基本的にオリジナルアルバムで聴くのが好きなので、ベストアルバムはよほど好きなアーティストでなければ買うことはない。
いわばお布施である。
各アーティストのその時期の状態がパッケージされているのがアルバムの良さだとしたら、ベストはそれを解体して味気ないものにしている、と昔は思っていたんですね。
ただ、最近は少し見方も変わっていて、曲そのものを文脈から切り離して聴けるので、改めて発見があってこれはこれで面白じゃないかと思うようになり、以来割とベストもそれとして聴くようになった。
世の中的にはあまり話題にならなかったが、個人的に嬉しかったのはThe Faintのベスト盤である。
当時全く話題にならず残念であったが、とはいえ新曲も収録されているそのアルバムはテンション上がったね。
元々は後追いで聴くようになったバンドだが、アルバムも全て持っているし、新譜が出れば発売日に入手している。
今でも聞くし、何度聞いてもやっぱりかっこいいと思う。
曲の持っているムードとかフィーリングとか、そういうのも含めて私はこのバンドが、音楽が、好きなのである。
アルバムは6枚出しており、間にデラックス版なんかも出しているし、割と定期的に出しているから現役バリバリである。
今でも少しずつチャレンジングに新しいことを取り入れていたり、アルバムごとにカラーを変えたりと、ファンとしては嬉しい限りだ。
元来私はベストアルバムってあんまり好きではないというか、そんなに聞くことはないのだけど、こうして色々やっているバンドがベストアルバムとしてどうまとめるか、どんな曲をチョイスするのか、それがどう響くのかというのはそれはそれで興味があったのでね。
今回のベスト盤では、さすがに1st『Media』からは1曲もなかった。
しかし、彼らのスタート地点なので紹介しておこう。
エレクトロ前夜、個性の手前の『Media』(1998年)
彼らの代名詞といえばエレクトロパンクとでも呼ぶべき打ち込みとアグレッシブなギターの混交したサウンドだが、1stでは言うなれば普通のオルタナ系ギターバンドという色が強く、曲もよりメロディアスというよりは感傷的な印象さえある。
ヴォーカルもどこか中途半端というか、要するにこのままだったらうだつも上がらずとっくに解散していただろうなという感じもある。
一応フォローすると、これはこれで曲も悪くないしいい曲もあるのだけど、ことさら彼らを選ぶ理由にまでなったか、というと疑問であるということである。
ところで、先ほど1stと書いたのだけど、彼らの英語版wikipediaをみていたら、なんとこのアルバムは2ndで、実は1995年にデビューアルバムをリリースしていたようだ。
知らなかった。
どうしたら入手できるのか、これから探していこう。
ちなみに『Media』の曲は、そこはかとなく同郷Cursiveっぽさもあるように思う。
まさにブレークスルー、彼らが武器を手に入れた3rd『Blank Wave Arcade』(1999年)
やはり彼らが彼ら自身も「これだ!」と感じられたのは、3rdアルバム『Blank Wave Arcade』だろう。
さすがにまだ実験的な色は強いものの、そのエレクトロのセンスはすでに半ば以上完成していると行っても過言ではないくらいにはまっていて、今でもライブ定番の曲もある。
このアルバムからは2曲入っている。
"Worked Up So Sexual"
日本でいうサビ的なところで展開するエレクトロに彼ららしさが溢れている。
ん~、素晴らしい。
ただ、ヴォーカルが今ほどいい感じにドライさがないのが発展途上という感じだよね。
音源は流石に金かけていないので、音質がよくないのが残念だが、かっこいいのは変わりない。
時代の寵児に、ポストパンクリバイバルの急先鋒『Danse Macabre』(2001年)
そして出世作となったのが4thアルバム『Danse Macabre』からは5曲、アルバム未収録ながら同時期に作られたとも割れる曲も含め6曲収録と、やはり多くなっている。
このアルバムはアルバムとしても素晴らしいし、曲もどれも素晴らしい。
特に1曲目収録の”Agenda Suicide”は彼らのキャリアの中でも指折りである。
イントロのエレクトロなベース音からギターっぽいベースが入って、ドラムインしてジワジワと上がっていく展開と、終始漂う不穏さが実にかっこいい。
その他New Wave風味満載の"The Conductor"とか、全部名曲だ。
"Agenda Suicide ~ Glass Dance"
コーラス部分でのドラムが音源とは違うアレンジになのだけど、これがかっこいいんだ。
過剰に詰め込み過ぎた多ではなく、1曲の中でも抜くところはしっかりと抜いているのがやっぱりセンスだよね。
ちょうど2000年代前半って、引き算の美学、といった価値観が大きかったのだけど、その先駆けでもあったのですね。
デジパンクに派生、5th『Wet From Birth』(2004年)
5thに当たる『Wet From Birth』は私が初めて手にしたアルバムで、音楽的にはパンク色を強めた攻撃的なトラックが多いアルバムだった。
ヒット作の後なので、かなりプレッシャーや期待値も大きかったため、評価はだいぶ別れているが、そのアグレッシブさとかロックバンドという意味ではこちらの方がその色が濃いと思っている。
このアルバムからは5曲、人気曲だけをピックアップした感じだ。
"Paranoiattack""Desperate Guys""I Disappear""Drop Kick The Punks""Southern Bells In London Sing"と、いずれもアグレッシブでかっこいい。
私はこのアルバム自体も好きなので、これらの曲はやっぱり上がるよね。
"Paranoiattack"
やっぱりかっこいいな。
ちなみにこの年はサマーソニックにも出演しており、日本でも一部の音楽ファンを熱狂させたとか。
彼らのライブは本当に最高にかっこいいのだ。
貫禄すら感じる6th『Fasciinatiion』(2008年)
5枚目『Fasciinatiion』は、すでにポストパンクリバイバルというものがブームとして去った後、彼らもすっかり注目されなくなってしまってからのアルバムになるが、そのできはやっぱりさすがだったね。
彼らとしても少し方向性に迷ったのか、リリースまでにこれまでで最長の4年を要している。
音的にはエレクロの比重を強めて、前作のような感じよりはもっとドライな感触である。
歌詞の内容は現代のセレブレティ文化に対する批判的な内容になっていて、そちらも注目である。
ちなみにアルバムタイトルもあえて綴りがちょっと違うのだけど、確かこれもそういう現代のちょっとしたバグみたいな、そんなことを表現するためだったかと思う。
とりあえず、意図的にやっている。
このアルバムからは2曲だけであるが、全体に落ち着いた曲と完成度という意味では最高峰ではないだろうか。
パンク色を再び強めた7th『Doom Abuse』(2014年)
次のアルバムにはさらに時間を要して6年後だったが、そのアルバム『Doom Abuse』からも2曲の収録である。
当時はこのアルバムが最新作だったわけだが、このアルバムは5枚目の方向性で、再びエレパンクというべきアグレッシブさの溢れるアルバムである。
彼らにしてはかなり性急な印象のある曲群ではあるけど、これはこれでかっこいい。
でも、個人的には逆にちょっと物足りない印象もあったというのが正直なところである。
"Evil Voices"
次への期待値も込めて
そして、ベスト盤には新曲も3曲収録されている。
最初に公開された"Young & Realistic"は、彼ららしいエレクロポップな曲である。
まさに彼らに期待してしまうタイプの曲で、いい感じのドライさがある。
次にアルバム前に公開されたのが"Skylab 1979"という曲で、この曲もまた素晴らしい。
ヴォーカル含めて加工されているので、よりエレクトロなロックという感じだ。
音密度は彼らの曲の中では高めの方だろう。
そしてアルバムと共に公開となったのが”ESP”という曲だが、この曲もかなり打ち込みの要素が強く、こうなるとバンドというよりは完全にエレクトロである。
かなり派手さもあるので、その意味でまた新機軸な印象もある。
まあ、なんだかんだ言っても要するにカッコよくて、私はやっぱり彼らが好きだなと改めて確認してしまったわけである。
"Young & Realistic"
"Skylab 1979"
"ESP"
こうやって聴くと、次回作はやっぱりエレクトロの要素が多くなってくるのかな、なんていう気がしてくる。
感触的には5枚目に近いのかもしれないね。
今はGang Of Fourとツアーをしているようだけど、日本にもまた来て欲しいな。
このBpmを上げなくてもこれだけダンスミュージックとして機能するんだぜ、ということを示せる音楽ってやっぱりセンスだと思うし、そこにロック的なダイナミズムとかパンク的な疾走感とかが合わさってかっこよくないわけないしね。
ちなみに、2019年にアルバムをリリース、予想通りエレクトロ比率高めのアルバムになったが、アグレッシブさとクールさが戻ってきて、彼らの衰えないセンスを見せつけるいいアルバムである。
音楽的なトレンドはすっかり変わって久しいが、かっこいい音楽はいつまでもかっこいい。
今でも彼らの音楽を聴いていると、つい踊りたくなってしまう。
決して古びない、彼らの音楽は、引き続き多くの人に聴いてみて欲しいと思うね。