音楽放談 pt.2

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健全にして充実 -Hesitation Marks

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今日、Nine Inch Nailsの新譜が出た。

ひとまずデジタルリリースが先行で、メディアはあとからになるようだが、日付を超えた時点でDL。

早速聞いたのだけど、この書庫では時系列に追っているのでひとまずアルバムとしては今の所最新の『Hesitation Marks』について。

リリースから既に3年くらいになるのか、と思うとびっくりするが、変わらず音楽活動を続けているトレントは、すっかり健全な音楽家になった。

フィルムスコアの仕事がすっかり板について、最近はAttica Lossとの仕事を楽しんでいるらしく、ついに彼もNINの一員となったらしい。

How To Destroy Angelsはどうするのだろうか。


それはともかく、『The Slip』リリース以降機材をオークションに出したり、サイトも沈黙したりとすっかりおやすみモードに入っていたのだけど、その後はまさに『Social Network』などの映画スコア業に精を出す日々になっていた。

その間に先のHTDAなんかもやっていたのだけど、アンビエント+オーガニックなピアノ・生楽器の掛け合わせという昨今のトレントの得意技のベースが完成したといっていいだろう。

元々Aphex Twinが好きだし、『Ghost』を出したときにも「ずっとこういう音楽をやりたかった」などと発言していたので、そっち方面へ行くのはまあ納得であるし、元々電子音と生楽器というのは彼の音楽的な特徴の大きなところでもあったからね。

そんな活動と、ロックバンドとしてのNine Inch Nailsの音楽がいい感じで結実したのがこの『Hesitation Marks』だろう。


音的にはこれまでのNINらしさはふんだんに感じる一方で、それまでの作品と明らかに異なることがあった。

彼の音楽の大きな特徴であり、私としても心惹かれたものの一つが堅牢な構築性だったのだけど、新作からはその「堅牢な」という枕詞がなくなっている。

相変わらず完成度は文句のつけようもない素晴らしさなのだけど、やはり制作に向かう精神性の問題だろう。

明らかに音がオープンになっているし、純粋に音楽的な要素を楽しんでやっているのが伝わってくるような音になっているのだ。

ここについては感覚の話なのでうまく言葉にできないけど、要するに重くなくて聴きやすいという話である。

かといって別に中身がなくなったという話ではなくて、彼の音楽的な才能がいい感じにあふれているという話である。

もはやインダストリアルという言葉よりは、もっと高次にNINの音楽と言えるものになっている。

突き抜けたというやつか。


歌詞についても、どこか晴れやかな印象のある言葉というか、いい意味で自分に拘らないようなものが多いように思うし、FreeとかHighとか、あんまりトレントっぽくないワードが多い。

序盤の曲は自分の内側から出る一歩手前のような感じだけど、それ以降は開放感がある感じがする。

英語のままで読んでいるので、事細かに意味を拾えていないけど、それでもだいぶ視点は違うように思われる。

しかし、ラストの曲が"Black Noise"というインスト曲で、電子ノイズな曲で終わるのが印象的である。


アルバム自体は1時間を超える長尺なのだけど、一気に聴き通せるだけの構成力はやっぱりトレントだ。

精神性自体は変わったとはいえ、音楽的なところについては楽しませてくれるので、ファンとしては嬉しい限りだ。


ちなみに今年の頭に「2016年中にNINとして、何か出すよ」みたいなことはいっていたのだけど、このまま何もないんかしらと思っていたらEPの発表となったわけだ。

といっても6曲入りなので『Broken』と同じサイズだし、前作のアウトトラック集というわけでもなく新たに作られたものなので、アルバムといってもいいのかもしれない。

かといってこれでツアーを回るとは思えないけど、ロスがNINに加入したことも考えると、この方向性でやりたいことが明確になったということだろうし、おそらく本格的にアルバム作りに向かうのではないかな、と思っている。

早ければ2017年中にはまた新作も聞けるかもしれないから、また楽しみに待っていよう。

年齢的にもまだまだツアーを回るだけの体力はあるだろうし、何より音楽活動にがっつり集中しているようなので、期待に応えてくれるに違いない。


90年代から活動しているアーティストの中では、一番コアな音楽性であったにも関わらず、結果的には一番成功して健全に音楽家として活動の幅も広げているのは、実は彼なのではないかと思う。

アカデミー賞で音楽賞も取って、ちゃんと結婚もして、相棒もできて、Apple Musicなんかにも関わってみたり、音楽を中心としながら自身のライブ、音源制作だけじゃないのはひとえに彼のプロデューサー的な視点ゆえかもしれない。

また楽しみにしていよう。

"Came Back Haunted "