人間の感覚は一定の刺激にさらされると、すぐに慣れて感覚が鈍るという現象が起こる。
例えばどれだけ大きな騒音でも、しばらくすると当初ほど気にならなくなったり、ライブ現場でもその音になれる感覚は音楽を聴く人であれば経験的に想像できると思う。
他にも、例えば落ちる滝をしばらくみていた後に静止した景色を見ると、その景色が上に流れていくように感じられたり、腕をぐっと指で押すとしばらくすると触っている感覚も薄れていくというのもある。
眼球もREMという細かな眼球運動をしているのもきちんと視覚情報を捕らえ続けるためのもので、ある実験でコンタクトみたいな感じで眼球にあるものをくっつけてしまうと、その対象が見えなくなるという現象が起こることも確かめられてる。
刺激は抜き差しがあって初めて刺激になるということである。
これは感覚だけではなくて、気持ち的なところも同様の事態になると言われている。
毎日同じことを繰り返すだけの生活は退屈だし、時に浮気や不倫といったことに走るのも、そうした一定の刺激にさらされ続けることによる感覚の鈍化ゆえかもしれない。
人と一緒に暮らすのなら、いかにマンネリを打破するかは大きなテーマである。
さて、一般的に迫力のある音楽といって多くの人が想像するであろうものが、音密度高めで爆音で激しい音楽ではないだろうか。
例えばメタルみたいなのとか、最近でのEDMみたいなものもそうかもしれない。
聞いた瞬間にバンッと耳に入ってくるのでそういう印象になるだろうし、そういう意味でわかりやすさがあるのはそれらの音楽のいいところでもある。
一方で、ドスの効いた音楽というと、どういうイメージだろうか。
ドスが効いている、という表現も迫力があるという言葉の類型の言葉だと思うが、こちらの方が腰が据わって力強い印象のある言葉だと思う。
人によってはやや暴力的なニュアンスを持ってイメージする人も多いと思うけど、とりあえず只者ではなさを感じ取ることはできるだろう。
ある界隈には伝説的に語れる日本が世界に誇るハードコアバンドだ。
また日本ではZazen Boysも、実は彼らの音楽にかなり影響を受けているとか。
一時向井はメンバーと一緒にやっていた時期もあったようだけど、その中でZazen Boysの構想ができて、彼らにこういうことをやろうと思っている、と話を通したという。
偉そうにあれこれ書いているけど、私が彼らを聴くようになったのは去年くらいからで、町田康の小説を映画化した『けものがれ、俺らの猿と』で使われており、サントラにも1曲収録されていて、さらに名前をたまたま何がで目にしたことでちゃんと聴いてみようと手を出した。
そしたらまんまとハマった。
彼らの音楽の私の印象は、ドスの効いた音楽だなというものだった。
メンバーはギター、ベース、ドラム、ヴォーカルという最低編成、音密度も高くなくむしろスッカスカ。
音楽的には抜き差しが絶妙で、そこに英詞でほとんど何言っているかわからないがやたら存在感のある歌が乗っかって、強力な個性を醸し出している。
醸してる、ていうかもう溢れまくっているのだけどね。
先にも書いた通り、彼らの音楽は音の抜き差しが絶妙で、ギターを激しくかき鳴らす部分とベースとドラムがメインでなっている部分とのコントラストが素晴らしくて、それでメリハリができている。
もちろんいろんな曲があるのでそういう構造の曲ばかりではないけど、まさに引き算の美学というべきその音楽は、かっこいいんですよ。
私は最近ドラム、ベースのリズム隊のパートに注意してきくのが楽しいのだけど、このバンドのリズム隊ときたらどっしりと腰を据えた演奏を見せてくれるので、これが彼らの音楽の「ドス」を担当しているのかもしれない。
やっぱりどっしりしたリズムがあると、楽曲として土台が安定して聞こえるのだろうね。
それこそRage Against The Machineも、トム・モレロのトリッキーなギターとザックの高音・高速のラップが生えるのも、ベースとドラムの安定感があってこそである。
聴いていて全然うるさくないのにこの存在感と、つい体が動きだすグルーヴ感。
圧倒的な濃度ゆえに大きく売れる理由はないけど、この手の音楽が好きな人にはたまらないはずである。
そんな彼らのアルバムはジャケットは全て白地に墨汁で書かれたデザインで、そこもコンセプトが明確なのだろう。
ちなみに1stはこんな感じ。
絵柄は違うけど全アルバムわりとこんな感じで、ワンポイントのイラストにバンド名が書いてある程度。
もっとも、このジャケットを見ただけではどんな音楽かはわからないし、一歩間違うと仏教の経典とか流れてきそうな感じがするけど、流れてくるとは音密度低めで濃度高めなハードコアである。
バンドはすでに活動休止状態のようだけど、比較的最近ではヴォーカルの人が狂うクルーのアルバムでゲストヴォーカルやっていた。
他のメンバーもきっと何かやっているのかもしれないが、やっぱり一度はライブも見たかったな。
日本のインディ界隈には独自な音楽をやっている人は多くて、国内よりも海外の方が評価が高いことがよくある。
売れる音楽の市場規模としては日本はそれなりに大きなマーケットなのだろうけど、より音楽的な受け皿というか、音楽性がコアに慣ればなるほど、人口比率的にもアメリカとか海外の方がそこに共振する人の数は多くなるのだろう。
また、爆発的に売れることはまずないし、経済的にはどうしても苦労はしてしまうだろうから、そういう意味では日本の市場ってそんなに大きくないのかもしれないよね。
彼らの活動期間的にはインターネットで音楽が拡散する一歩手前くらいのタイミングだと思うけど、もし今の時代だったらもっといい思いをしていたかもしれないよね。
ともあれ、ぜひ一度は聞いて見てほしいバンドである。
ハマる人はどハマりするし、ダメな人は1音でダメだと感じるだろう。
"Life"