どこまでの波及力を持っているのかはわからないが、ともあれ世の中的にはラップはブームである。
発端はフリースタイルダンジョンで、私も最近は毎週録画してみているし、Youtubeで昔のフリースタイルの動画なんかもみている。
何が面白いって、やっぱりリズムのいい言葉の応酬と、その言葉の含蓄である。
例えば最強といわれるR-指定の場合、HipHopだけに限らず映画や本や、様々なものからの引用を暗喩に使いながら韻もしっかり踏んで耳心地も気持ちよく、言葉にしっかりと知性を感じるから単純にすげぇなって思うし面白い。
あるいは昔からやっているFORKという人は徹底した韻を重視したラップをするけど、しっかりと中身があるし彼の哲学を感じるし、言葉のトーンやフロウも腰が据わっていてかっこいい。
若手筆頭で言えばT-Pablowだが、彼の場合軽快なフロウと俺様な感じのわかりやすいスタンスが確かにスター性がある。
顔もかっこいいしね。
一方で私が好きじゃないのは、バカとかクソとか殺すとか、相手を中身のない言葉で罵倒するだけの人たち。
汚い言葉それ自体が悪いとは思わないけど、そんな誰でも言える事をでかい声で言われても面白くもないし、個人的には嫌いだ。
それがスタイルだと言えばそれはそれで結構だが、言葉にはその人の人間性や生き様みたいなものが出るし、それがHIp Hopというジャンルの面白さの根幹だと思っているから、知的な言葉の応酬を聞きたいと思ってしまうね。
ところで、20前後の若いラッパーはしばしばマイカフォン(Michrophoneのこと)や、スキル云々というワードをよく使うのだけど、誰か指標となる人がいるのだろうか。
そんなフリースタイルブームの中で注目されているラッパーの1人が呂布カルマという人。
ブームになる前からずっとやっているし、すでに音源も4枚くらい出している。
なんて言っても、私も知ったのはフリースタイルを見るようになってからだし、そもそもHip Hop自体そこまで聴いていなかったので、偉そうに言えるほどのことはないのだけど、興味を持ったきっかけは彼のニックネームというか、そういうところだ。
サイレントアサシンとかそういう系のが多いのだけど、彼のスタイルはパンチライン、言葉の重み、みたいな表現をされることが多い。
ラップといえば、韻を踏んだ言葉遊びの要素がやはり一番わかりやすいし大きな部分でもあるだろう。
その理由は、もともとストリートで言葉遊びとして生まれた音楽だからだろう。
ビートとかトラックがどの段階でついたのかはわからないけど、最初は言葉だけの応酬だっただろうし、そこでリズムを求める時に韻という概念が出てきたのではないかと想像できる。
それこそ日本の短歌や川柳、和歌でも一定のマナーがあって、日本人には今の時代にあっても五七五のリズムは染みついている。
冒頭にも書いたけど気持ちいいしね。
しかし、呂布カルマは韻を重視せずに内容を重視するスタイルと言われる。
フリースタイルバトルの場合、相手の弱みや痛いところをつく、いわゆるDisというのが基本的な攻撃方針で、その中でどれだけ相手の堪える事を言えるかというのをさして言葉の重みという表現をするのだけど、彼のDisはきついというわけだ。
「2度とやりたくないと思わせるのがバトルだ」というのが彼のスタンスなので、相手が言われたら嫌だなというところをバスバス着いて行くスタイルである。
また、Hip Hopでは印象的なフレーズをパンチラインと呼ぶわけであるが、彼のラップにはそうした印象的な言葉が多いという。
単にきつい事をそのまま言うだけでなく、それをどういう表現にするかがいわゆるスキルである。
一方で韻をあまり重視しないため、それを重視する人からすれば彼はスキルがない、なんて言われるので評価は分かれる人だけど、それでも色々な大会で優勝しているからスキルがないとは言えないだろう。
バトルでも韻を踏まない、というDisを展開する人もいるけど、呂布カルマはあえて韻を重視していないということはあちこちのインタビューでも明言していて、踏めないのではなく踏まないだけである。
そこを意識しすぎてダサい事を言うくらいならこだわらないという彼のスタイルである。
で、そんな彼の印象的なバトルでは、フリースタイルダンジョンの年末特番、そこでMC漢とバトルしたのだけど、通常よりも短いターンでクリティカル勝利。
かなりキッツイ事をぶち込んで、さすがの漢もかなり厳しい表情だった。
その時のステージングや、チンピラ臭全開の出で立ちも独特で、非常に印象的でしたね。
おっといけない、忘れてはいけないのはトリプルファイヤー吉田との一戦だ。
Youtubeでも密かに人気動画になっている。
ともあれ、そんなフリースタイルを通じて彼を知って、音源も買いました。
じゃあお前は何を言いたいんだと。
それで最初に買ったのは2ndに当たる『四次元Hip Hop』というアルバム。
リリースは2010年なので、7年前である。
どういう感じなんだろうと思ったけど、思ったよりもトラックも軽快でポップなものもあるし、ゴリゴリのHip Hopばかりでなく、ロックっぽいものやエレクトロっぽい曲もあったりと、初心者にも聞きやすさはあるだろう。
リリックは対象はシーンとか個人の欲望みたいなところに向いていて、つまんねぇ事やってねぇでもっとガツガツ行こうぜ、みたいな感じかなと思った。
それに音源ではバッシバシ韻も踏んでいるし、フリースタイルで見る物静かなイメージとはだいぶ印象が違う。
個人的には声の感じやフロウの感じが昔のTha Blue Herbとも似ているかなと思った。
テーマというか、精神性というか、そういうところは通じるところがあるようで、私は気に入っている。
一回聴けば口ずさめるようなキャッチーな曲もあるので、かなり意外ではあったけどね。
ところで、年末のブルハのライブでBossも言っていたし、この間ダンジョンのLiveのMCであえてR-指定も言っていたけど、ブームのおかげで広く知られるようになってきたというポジティブな面のある一方で、ブームにうまく乗っかったみたいな言われ方や、ぽっと出のラッキーみたいな言われ方をされるようなこともしばしばあるらしい。
しかし、当の彼らからしてみればブームはブーム(一過性のもの)として冷静にみており、チャンスとしては捉えているけどそれによって浮足立つようなことは全くない。
呂布はBossとも知り合いだからライブで一緒になったり近くにいると飲みにいったりすることもあるようだけど、そこでもそんな会話があるという。
呂布自身もインタビューで言っていたけど、「こうやって注目してもらえていることはチャンスだし、今のうちにしっかり音源作って名前を売っておこうとは思っている。名古屋でトップにいる自分がしっかり稼げるという事を示して、その土台を作っておかないとHip Hopシーンにも未来はないと思うし」みたいな意識を持っており、非常にシビアに状況を捉えている。
彼はもともと普通の仕事もしていて、つい最近までなんと塾長をやっていたというから面白い。
なんなら芸大卒で元漫画家志望、しかし努力よりも才能で稼ぎたいと言ってHip Hopの世界に来た。
これだけ書くとただの体たらくのようでもあるが、そこにも信念があるとなんだかんだ努力しているわけである。
なんでもそうだけど、ブームというのは一気に認知度を広げることができる分大きなチャンスもあるし、大きな金も動くようになる。
しかし、そのブームが過ぎた後に残るのはごく一部のものだけで、そこにどれだけ食い込めるかが渦中にいる人間の意識の問題である。
私も色々なラッパーを知るいい機会になっているので、また興味のある人の音源は聴いてみよう。
"俺の勝手"
画像のアルバムのトラックがYoutubeになかった。。。