音楽放談 pt.2

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ベタゆえに -佐々木健太郎

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私は好きな漫画家は誰か、と尋ねられたら、とりあえず答えるのは2人いる。

1人は以前も書いた『無限の住人』の作者、沙村広明さん、もう1人は『ARMS』『スプリガン』の皆川亮二さんである。

初めて読んだ皆川さんの漫画は、小学生当時連載していた『ARMS』だった。

何をきっかけにか忘れたけど、サンデーを買って、せっかくだからと全部の漫画を読んでいる中で見つけたのであった。

ちょうどレッドキャップスのガウス・ゴールが藍空スタジアムで主人公・高槻涼にウイルスの弾丸を打ち込む回だったのだけど、初めて読んだ私には設定もストーリーもさっぱりわからず、読んだところで全然面白みなどわかるはずもなかった。

それでもやけに気になって過去の話を遡ってコミックスを買ったり、以降も読み続けて未だにファンだと行って憚らないのは他でもない、彼の画力が凄まじかったことだろう。

緻密な背景と精緻なスケッチ、その一方で微妙なゆるさのあるキャラクタとグロテスクなくらいの展開。

ナンジャコリャ、と思ったのであった。

『ARMS』はコミックス全巻持っているし、その前の作品は全て遡って読んだし、以降の連載作品もっ全部コミックスは買っている。

基本的に彼の漫画の展開はそこまで大きな違いはない。

『ARMS』は長編漫画で、全巻通して一つのストーリーになっているが、他の漫画は割と読み切り型のものが多いため、余計に彼の基本フォーマットのようなものが明確で、そのわかりやすさはあるものの面白いし、彼の漫画に出てくる登場人物の温度感とかキャラクタがとても魅力的なのだ。

唯一読んでいなかったのは『D-Rive』という漫画だけど、それは私が乗り物に興味がなかったからなんだけど、また改めてこの週末に読んでみようと思っている。

ちなみに今は『海王ダンテ』が絶賛連載中だ。


で、なぜこんな話を突然しだしたのかというと、つい先日この人の特集本が出て、それを買って今ちょびちょび読んでいるからである。

各作品の紹介や、彼の漫画を描くにあたっての価値観とか、そういうものをインタビューなども交えて書いている、要するにマニア本なんだけど、それを読んでいてまたふと読みたくなって今全作品を読み返しているのである。

その本の中のインタビューの中の発言で印象的だったのが、「基本的にはベタが好き」ということ。

そして、作品を作る上でもベタな展開を割と重視していて、それがエンターテインメントだ、という価値観がとても強いということであった。

確かに彼の漫画は、展開などは割とベタなものが多いし、テーマも普遍的だったり、主人公が特殊能力を持っていたりと、いろいろベタな設定が実は多いし、所々に出てくるコミカルパートも基本的には似たような展開である場合が多い。

それでも面白いのは、その大枠の設定であったり世界観であったりが魅力的だし、やっぱり圧倒的な画力は大きな要因である。

私自身、ひねくれてはいるがベタなものは結構好きだしね。

なんだかんだ伝統芸能的なものというのは魅力的だし、ベタと呼ばれるものにはそれなりに理由がある。

しかし、一般的にベタなものが面白くない、と思われている理由の一つは、ベタが故に難しいからである。

ありふれたものをありふれてないものにするためには、何かしらの突出した力とか魅力がないと如何しようも無い。

ベタなものをおもしろくするのは生半可ではないのである。

それをわからずにバカにするような人は、是非とももっと勉強して欲しいと思う。

皆川さんの場合は、圧倒的な画力や世界観の構築力、そして身近に感じられるキャラクタづくりがあると思う。

世界観を作れると言うことは、それだけ作家性の高い証だし、その中に引き込むことは実力がないとできない。

だから、ベタは難しいけど、ベタな分引き込まれるとやっぱり楽しんだよね。

そんな魅力が彼の漫画にはあるのである。


で、ベタつながりでいうと、最近聞いていてなんかほんと好き、と思ったのがアナログフィッシュ佐々木健太郎さんのソロ作品である。

アルバムについては以前書いたけど、最近聞いているのはデモ的な作品『真夜中の発明品』である。

彼のソロツアーなどで販売しているのだけど、これらがのちにアルバムになっていくという本当にデモ音源的なものである。

デモとか言いながらクオリティは高く、普通に売って遜色ないレベルである。

もともとメロディは素晴らしいし、朴訥な歌詞も好きなんだけど、音感触もラフな分余計にそういう本質が明確になって、それがしみて仕方ないのである。


今私が聞いているのは『Ⅲ』というやつで、あるイベントの時に買って以来ずっと聴いている。

4曲と短い収録内容なんだけど、とにかく曲も歌詞も素晴らしいのである。

全て普遍的なラブソングで、言葉のチョイスとかがそこまで特殊でもなければとんがっているわけでもない。

それこそ下岡さんみたいな感じでもないのだけど、これがしみて仕方ないのである。

要素を上げようと思えば無理やり上げることはできるけど、言葉にした瞬間に、でもそれって他にもいっぱいあるじゃん、とか思うんだけど、だけど明らかに違うのである。

聞くたびにそういう不思議さと驚きもあって、飽きずに聞いているわけである。

難しくない言葉と、シンプルなアレンジでなんでこんなにいいんだろうと毎回思うんだけど、それってやっぱり才能なんだろうね。

もちろん価値観として共感しやすさみたいなものもあるのかもしれないけど、彼の曲が最近本当にしみるのである。


先の話に照らして考えるとすると、ベタなテーマを魅力的にするには何かしらの圧倒的なスキルや能力がないと難しいわけだけど、では彼に見るそれってなんだ?という話である。

それって、彼のまっすぐさかなと思っている。

曖昧なものを拠り所にしたけど、そうとしか思えない。

歌は上手いし、演奏も上手いと思う。

曲もいいし、言葉のチョイスもいいと思う。

でも、何より彼が歌うからこそ響くものがあると思っていて、それによる違いはやはりその本質である。

漫画で言えば絵が表現の最大のアウトプットであるのに対して、音楽では楽器の音か声である。

歌って不思議なもので、単に音階が取れているとか響きが綺麗とか、そういうのも上手の指標だけど、一方で上手い下手ではない響く歌、というのが確実に存在する。

それは声の魅力とか、歌い方とかいろいろあるけど、根本は声に乗ってくる感情とか思いとか、そういうものだと思っている。

それを指して歌心というのだと思うけど、そういう魅力が彼の歌には確実にあって、その声がベタな歌詞を載せてやってくるわけだけだから、そりゃ刺さるよね、という話である。

ちなみに、ベタと言っているけど詞そのものに面白みがない、という話では全くない。

むしろ彼の書く詞自体も大好きなんだけど、そこに説得力を持たせているのは彼の歌声である、という話である。

いい歌っていうのは、やっぱり歌詞やメロディだけじゃなくて、全体で訴えかけてくるものなのである。


今はバンドとして制作期間ということでライブ活動は休止しており、目立った報はないものの、10月10日前後にはツアーも決まっている。

新譜が出るとはまだアナウンスされていないけど、多分出る。

そちらはそちらでもちろん楽しみなんだけど、一方で彼のソロ2作目もやはり期待したいのである。

素直に聞ける数少ない音楽なので、今後のリリースに期待だ。

今聞いているデモ音源的な曲たちも収録されるだろうし、何にしても楽しみがいっぱいである。


”クリスマス・イブ