音楽放談 pt.2

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声は響く、冷たく深く ―Portishead

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去年の再結成、復活組の中でもっとも成功であったのは、おそらくPortisheadであろう。

90年代の半ばに登場して、その独自のサウンド空間を叩き付け、かのRadioheadの「OK Computer」にも絶大な示唆を与えたというデビュー盤「Dummy」は、今なおその価値は衰えるどころかいつまでも遠くでそこにあり続けるかのようである。

最新作「Third」では、より生楽器の比重が多くなり、また違った側面をみせたような作品であるが、世界観は相変わらずのもので、各誌でも軒並み評価は高かった。

ただ、一方で1stのような音空間を期待していた人にとっては、やはり手触りの違う印象がいささか不評気味ではあったが、それは仕方あるまい。

なにせ1stは圧倒的な傑作だから。


ジャケットだけ見ると、非常におっかない感じがする。

なにせホラー映画の一場面のような腐乱死体?の写真である。

あんまり部屋に飾っておきたくないデザインである事は間違いないだろう。

しかし、音を聴けば、やっぱりなあという感じ。

一言で言ってしまえば荒涼とした寒風吹きすさぶような音である。

崖の下で一人震えるような孤独感。

内に向かうしかないほどの孤立感。

それを音に表現すればこうなるんじゃないだろうか、そんな音楽である。

そんな音楽がなぜそんなに世間に衝撃を与えたかと言えば、そこには普遍性が確かにあったとしか言えまい。


世間的には明るく前向きなものが重宝される。

それが生きる希望につながると信じているからであろう。

したがって、反対に暗く陰鬱なものは嫌われる傾向にある。

そんな暗いものを聴くんじゃないと。

世間の価値観も明るい、外交的を良しとし、暗い内向的なものを否とするものが植え付けられている。

私はそういう一面的な価値観に染まりきったやつを見ると本当にむかつくんだけどね。

まあ、自分が暗いからだけど。

でも、そういう側面は誰でも持っているし、だからこそこの音楽には大きな意味があるのである。


1曲目"Mysterons"の冒頭の一節は「あなたは本心を表していない」である。

曲のテーマ全体をあ表すフレーズかと問われれば必ずしもそうでもないかもしれないが、観念的な詞である。

解釈は自由度があっていいと思うしね。

いきなり世界から切り離されるような曲と歌詞は強烈そのもの。

こういう曲というのは、ヘッドホンで一人静かに聴くものであるが、そうしていると必然的に内に向かわざるを得ない。

Dod You Really Want?」とささやくように歌う声は、静かに、しかし深く突き刺さる。


全般的に、他者、あるいは自分に何かを問いかけるような歌詞が多く、言ってしまえば暗い思索の吐露
といった感じである。

しかし、これを無視できるようなやつはそういないはずである。

そんな言葉を聞きたくないと、強く思うひとほどより強く深く刺さるはずである。

自分の中にある不安や猜疑心、罪悪感や人生そのものに対する疑問といった、できれば目を向けたくないものがあらわにされるような感覚である。

およそ多くの人はこの種の事には目をつぶっている。

それを考える事は、たしかに大きな意味はあるが、しかし下手をすればそこから二度と這い上がれなくなる恐れさえ孕んでいるのである。


およそ歴史に名を残す、偉大と言われる哲学者というのは、ある種の問題を抱えた人種であると思う。

ほとんどの人が考えなくても一生を終える事ができる類いの問題にかられた人たちである。

そういう人たちに、少しでも共感できる感性を持っていれば、かなり大きな反響を生むはずである。

一方、彼らの抱く問題、それに関する解決に対してナニをも思えない人は、多分わかんないと思う。

ただ、一度は聴いてみるといいだろうと思う音楽である。


このアルバムは、絶望的な暗さを持っているとともに、わずかながらにあたたかな希望を残している。

前半から中盤、後半に行くに従ってそうした流れがあり、そういう意味でも傑作の誉れは高いのだろう。

ラストの曲のタイトルは"Glory Box(栄光の箱)"である。

詞の内容も,次第に変化してゆくし、曲調に伴ってヴォーカルの声の響きも変わってくるような気がしてくる。


このバンドの曲の大きな特徴の一つは、ヴォーカルのベスの声であろう。

独特の声をしている。

すこししゃがれたような感じであるが、きれいな声をしている。

それほど自分を強調しないが、存在感が抜群である。

この声でなければ、ここまでの評価にはならなかったと思うくらい。

無機質で冷たい音世界の中で、唯一感情的なのは彼女の声である。

ある意味ではFeistの声の印象に似ていると思う。

この声は今も健在である。


この種の音楽って言うのは、聴いていると言うと、本当にみんな怪訝な顔するんだよね。

だけど、別に明るい音楽だってもちろん聴くし、馬鹿みたいのだって聴く事もある。

むしろ馬鹿みたいのばっかとか、明るいのばっか聴いているやつの方が、俺にとっては不自然である。

人間はそんな一面的でないし、それゆえ求めるものだって画一的であるはずがない。

もっとも音楽にナニを求めるかにもよるんだけど、少なくとも「音楽を聴いている」と言うやつであれば、聴くべきである。


ところで、私がこのバンドを聴こうと思ったきっかけというのは、The Coralというバンドである。

彼らの3rdをプロデュースしたのが、Portisheadのジェフたちであったのだ。

その3rdがまた傑作であったため、彼らのも聴いてみようとなった訳である。

触手をのばしていると、本当に興味は尽きない。