生きていくうちに人は変わっていくものである。
それがいい方向に向かう人もいれば、残念な方向へ向かっていく人もいる。
良し悪しの判断は一概にはできないし、ある程度相対的な価値観になるからあれを善、これを悪と断じることはその態度自体は絶対的に悪だと思う。
もちろん枠組みを事前に設けていれば、その中での判断はできるけど、それが一般的な話ではないことはちゃんと理解した上で発言できないと、テロリストの思想と変わらない。
なんて大げさに話を始めてみたが、今日のトピックはそんなことではなくて、もっと個人の価値観に紐づくところ。
今年もサマソニ深夜枠で開催されるホステスにて、Deerhunterの出演が決まった。
昨年も決まっていたのだけど、直前でメンバーの体調不良だか何かでキャンセルになってしまい残念な思いをしたのだけど、今年は今の所無事に来るようだ。
大阪ではSavagesとの2マンでやるらしいね。
彼らのライブはホステスのウィークエンダーの頃に見たことがあって、音源との違いに驚いた記憶がある。
私が彼らの音源を聴いてるのは『Halcyon Digest』からであったけど、その頃はどこか暗い影が付きまとうような音楽で、音楽誌では絶賛の嵐、私も好きなアルバムではあるんだけど、人に積極的に進めるか、といえばそうではないというのが正直なところだった。
曲自体はポップな曲も多いし、美しいと感じるアルバムなのだけど、死ぬ一歩手前の全てを受けいれて静かに待っているような状態というか、そういう感覚がどうしてもしていたのだ。
その前の『Microcastle』の方もそんな影はあるけど、まだポップさの方が全面に出る感じはあるが、総じてどこか浮世離れした浮遊感があって、そういう意味ではドリーミーと言える部分もある。
さらに前の『Cryptograms』はもっとアグレッシブで彼らのロックっぽさみたいなものが強く出ている。
当時もてはやされたニューゲイザーというこ言葉には一番はまっていたようにも思う。
怪しげな雰囲気はあるが、この頃は別に暗い感じはしない。
時間軸が前後するけど、『Halcyon~』の後の『Monomania』は一気にムードが変わって、ある種やけっぱちな猥雑さといった風情であった。
一番ノイジーで激しいアルバムだったけど、ひょっとしたらその前のアルバムまでになされた種々の評価に対する彼らなりの意思表明という意味もあったのかもしれない。
サマソニで来日した際にも、ライブ前にわざわざ「僕らはロックバンドです、踊って楽しんでください」というアナウンスを日本語で入れたというし。
そしてホステスの時のライブが客席とのやり取りを楽しむように見えて、演奏からは全くそんな人懐っこさはなくて、突き放されるような感覚があったのがすごく印象に残っている。
ヴォーカルのブラッフォードは生まれつきの病気があって、そのため体が病的に細い。
しかし彼自身はサイン会でもにこやかだし、非常に人懐っこい。
インタビューを見るとどこか冷めたというか、ひねくれたような側面もあるのはかいま見えるけど、決して悲劇的な感じはしないから一層表現の中に出てくるそういった要素は彼の本質なのではないかという気がする。
さて、すっかり前置きが長いのだけど、そんな彼らも昨年新譜を出しており、そのアルバムがまた一皮むけたような内容で、非常によかった。
先行シングルで発表された"Snakeskin"がこれまでにない曲で、わかりやすく言えばダンサブルなリズムで、一体どんなアルバムになるのかと期待させた。
で、1曲目から何か毒が抜けたようないい意味での軽さがあって、さらに2曲目のタイトルが"Living My Life"である。
曲調自体も非常に明るく希望にすら溢れている。
アルバム全編通じてこれまであった底暗い印象はなくて、彼らのポップさやドリーミーさ、心地よい浮遊感が全面に出たアルバムになった。
残念ながら世の中的にはそれほど話題にならなかったけど、彼らのキャリアにおいては非常にキーポイントになるんじゃないかという気がする。
そんなアルバムを出した後のライブになるので、一体どんな感じになるのか非常に楽しみである。
前回私が見たときのあの突き放されたようライブから、今はどんなライブをするのか。
もちろん変わっていないかもしれないし、劇的に変わっているかもしれない。
行ける人は是非見てみてほしいバンドである。
ちなみに下に貼り付けるライブ映像も、音源とは違うアップリフティングなアレンジになっているので、今回のライブはたのしいものになるんじゃないかな、と個人的には思っている。
"Living My Life"