今年も気がつけば年の瀬近く、街はクリスマスとてにわかに色めきだっている。
この時期になれば、やはり今年のベストアルバムを考えるのが個人的にも慣習となっているが、このごろはろくすっぽ記事も更新できていない。
出来ていないからと言ってCDを買ってないわけではもちろんないが、じっくり聴き込む時間がないのは確かである。
しかし、だからといって忘れる訳がない。
今年は何がよかったかな、とね。
今年は既に決まっている。
なんと言ってもBroken Social Sceneである。
聴いていてここまで心地よく包んでくれる音楽は他になかった。
圧倒的に良かった。
最高だったな。
今作はTortoiseのジョンがプロデュースした、という話題性もあったが、それ以上に音楽的な広がりの方がポイントである。
これまで以上に楽曲の幅もあったし、リズムも多彩で(ドラムがかなりパターン化していた感は否めないので)、初めて聴いたときは統一感が内容に思われて、いささか面食らった。
しかし、2回目に聴いたときはむしろそれが良かった。
また、個々の曲を見て言っても、非常に良い。
先行シングルとしてリリースされた"World Sick"はじめ、特に前半部にはアップテンポで一気に持っていける力強さもあった。
"Chase Scene"の切迫感も、"Texico Bitches"の楽しい感じも、"Forced to Love"のある種の神々しさも、どれも外れなく素晴らしい。
中でも個人的に出色だと感じたんは、女性ヴォーカルを前面に出した"All To All"。
ややニューウェイヴ的なリズムが印象的だが、ヴァースからブリッジ、コーラスの各パートの対比と、その連なり方が圧倒的に素晴らしい。
特に終盤の盛り上がり方は鳥肌ものである。
アルバム自体の構造は、従来のBSS印で、彼等らしい。
中盤の"Meet Me In The Basement"は、一般の人が映像をコラージュして作ったPVが話題となり、彼等も公式HPに公式PVとして扱っている。
この曲以降の展開もいかにも彼等らしいが、終わり方がちょっと違うかな。
"Me And My Hand"という静かな、そして少し悲しげな曲で幕を閉じる。
前作ではまさに大円団といった終わり方であっただけに、かなり印象を異にする。
彼等の作品の素晴らしいところは、キラキラした希望にあふれていながら、それが決して押し付けがましいものでも強引に前を向けと促すものでもない事である。
ただそっと寄り添って、自分の意志が前を向いたそのときにそっと背中を推してくれるような、そんな優しさを持っている。
以前、彼等のライヴに言ったときに、周辺にいた人が彼等の音楽を評して「大人の音楽」と言っていた。
なるほどな、と思ったものであるが、それは単に澄ました音楽だ、と言う訳ではない。
酸いも甘いも知った上で、それでも尚戦わなければ行けない現実を受け止める強さと、それらを知っているが故の寛容性というかな、そういうものを感じるのである。
現代という時代は何かと不安が多いし、音楽を観てもある種の現実逃避的な音楽が非常に話題になる事が多い。
それ自体が悪い事だとは思わないし、そういった世界が心地よく感じられるのも確かである。
しかし、一方で目の前の現実が消えてなくなる訳でもないので、いざ立ち返ったときに逃げ出したい気持ちばかりが出てきてしまう。
そんな逃げ出したくなるような現実に対して、真正面から受け止めつつ、ぐっとこらえなければ行けない要なときに、彼等の音楽は実に心強いのである。
彼等がポストロックと言う言葉で表現される理由と言うのはその辺りにもある気がする。
最後の曲に感じる一抹の寂しさと言うのは、この現実に対峙する事の困難さを表現しているようでも在る。
もっと良い世界の在り方があるはずなのに、てね。
と、音楽的な話をほとんどすっ飛ばしてしまったが、やはり素晴らしい音楽と言うのは単なる音の分析や、心地いい悪いだけの話では終わらない。
もっと様々なものを想起させてこそ、真の意味での芸術性と言えるのではなかろうか。
聴いているその瞬間だけが素晴らしいんじゃなくて、その後も含めて、世界を変えてくれるような気持ちにさせてくれることにこそ、音楽の真価が在るのではなかろうか。
そんな訳で、2010年のベストアルバムは、有無を言わさずBroken Social Sceneの「For Giveness The Rock Record」である。
以前数量限定で販売され、あっという間に完売と相成った為入手できず悔しい思いをしたが、密かに若干部数入荷されていたらしい。
誤って注文ボタンを押してしまったのであるが、どうやらそれが最後の1冊であったらしく、それ以降は完売の文字。
ラッキー!!
これもまた何かの思し召しだろうか。
最近凹む事の方が多い中で、こんな幸運をそっと運んでくれる。
今の俺に取って、彼等はまさに希望を感じさせてくれるアーティストである。
"All To All"