冒頭は前回の記事と内容的にはかぶるんだけど、デジタル配信の件ですね。
日本ではまだ音楽がビジネスとしてある程度は成り立っているし、なんのかんの言ってもCDというメディアが完全に淘汰されてしまうことは、少なくとも当分はないだろう。
日本人と言うやつは、国民性の中にオタク性を宿しているのか、そうした物質の収集にこだわる傾向が強いと聴く。
かくいう私もものを集めるのは大好き。
CDも、パッケージとしてきちんととっておきたいから、少なくとも好きなアーティストのものは余すところなく買ってしまう。
とはいえ、そういう世代はやはり旧世代であることは変わらないようだ。
国内J-POPでも最近ではDVD付が当たり前のようになってきている。
avex系のアーティスト(と言うよりは大半がタレント)は特にそのようである。
あるいはジャニーズはじめアイドル。
まあアイドルの価値は、ほとんどがあの肖像であるからこれは当然と言えば当然なのかも知れない。
そうしないと、CDのみとしての価値は見いだせないのだろうね。
と言うよりも、最近はなんでもすぐに飽きられちゃうから、今日ネット、もしくは着歌とかで一回配信されたらもう若い子はメディアなんて買わないだろうね。
別に音楽を聴きたい訳でもないだろうから。
海外に目を向ければ、一昨年のRadioheadの「In Rainbow」の配信が大きな起点となったかのように、ネットでオフィシャルな無料音源配布が次第に広まりつつある。
実際にはそれ以前からちょくちょくあったようだが、あれほどの大物が動いた、と言うことで一部業界では大騒ぎとなったのである。
しかし、おそらく日本人のばかり聴いている人にとっては、そんなことあったんだ、くらいの認識であろう。
日本はまだまだ良心的なのかもしれない。
そういえば浜崎あゆみだかが、デジタル配信専用に録音した、とか言ってニュースでやってたね。
そんなこと、かなりどうでもいいんだけど、今後はデジタルが主となっていくのは、間違いないのかな。
さて、こうしたネットによる無料配信が広まる背景には、やはり業界とアーティストの軋轢のようなものが非常に大きく関係しているようである。
そうした問題に非常に表立って異議を申し立てるアーティストは昔からいるが、最近ではNine Inch Nailsの話が一番耳新しいかな。
彼は、オーストラリアにて自身のアルバムが他のアーティストに比べ高く売られている現状に疑問をもち、会社に問い立てたそうだ。
すると、熱心なファンならそれでも買うから大丈夫、という回答が来たそうだ。
それに激怒したトレントは、メジャー契約を破棄、現在はレーベルという形態ではないにしろ、完全自営にて活動をしているようだ。
このトレントは、Radioheadが無料配信をしたときにも、一定の評価を示しつつ、反面否定的な見解も示していた。
Radioheadは、配信方法として、2つの選択肢を設けていた。
一つは無料だが、音質は劣悪なもの。
もう一つは、音質はCDと変わらないが、いくらかペイしなくてはいけないというもの。
自身の音楽の市場価値を問いただすと同時に、リスナーに対しても非常に挑発的ともいえるアプローチであり、そうした問いかけも大きな波紋を呼んだ理由の一つである。
音楽ビジネスと言うものが、いまだ成り立ちうるのか、というようなことかな。
もっとも当人たちはそんなつもりはなかった、なんて発言したようだが。
で、トレントはそういうインディペンデントな態度はすごく評価していたんだけど、いくら無料とはいえ劣悪な音源を配ること自体、非常に失礼と言うか、フェアじゃないというような批判をしていた。
彼の人柄と、完璧主義の性格が非常に見える出来事であったと思う。
トレントは既に「Year Zero」の段階で、無料配信に近い形態を撮っていた。
発売数日前から公式サイトではフルで試聴できて、しかもその音質はかなり高級なものであった。
トレントは、あくまできちんとした形の試聴という手段を提供した後、買う価値のあると判断したものは買ってくれ、という態度であったのである。
その後は今に至るまで、様々な音質で無料配信をしている。
新作「The Slip」を、アルバムすべて「プレゼントだ」といって無料配信したのには驚いたね。
パッケージ版もちゃんと出ているけど、太っ腹なことで、この音源は今でもDLできるので、良かったらnin.comに言ってみると良いですよ。
で、このリリースの以前から、トレントなりに様々な実験をしていた。
その最初に当たるのが、彼自身の作品ではなく、彼がプロデュースしたSaul Wiliamsの作品であった。
リリース方法はネット配信なんだけど、ここではRadioheadのとった手段を参照しつつ、音源は金を払っても払わなくても同じ高音質を提供したのである。
「もしこのアーティストを支援したいと思ったら、それをきちんと形に表せて、しかもレーベルを介さないからそのお金はすべてアーティストにちゃんと届けられる」というコメントが確か載っていたね。
ちなみにこのときの結果は、払わなかった人が大多数で、その結果にトレントはがっかりしたようだ。
ただ、一方でCDの売り上げが若干ではあるが伸びたらしく、その結果には非常に大きな希望というか、見いだしたようである。
彼の音楽リリースに対する考え方に非常に大きな示唆を与えたのは間違いないだろう。
と、ずいぶんと音楽とは直接関係のない話を書いてみたが、こういった現状を知っている人はどれくらいいるだろうか。
むしろこのことを非常に危惧する人のほうが興味はあるが。
それはともかく、今日はSaul Williamsについて書こうと思ったのですよ。
私はトレントをがっかりさせた一人なんだけど、このアルバムはトレントの手腕も光りまくりな事もあり、非常にかっこいいアルバムである。
Saul Williamsという人自体全く知らなかったんだけど、ヒップホップ界では実は結構有名であったらしく、1stではSystem Of a Downのサージ、それにRage Against The Machineのザックも参加していたと言うから、自ずと彼のスタンスは見えてくる。
同時に、決してフェイクじゃないんだな、と言うこともわかるよね。
私はヒップホップてのは基本的に聴かない。
日本の騒ぎたいだけのおめでたいフェイクも面白いともなんとも思わないし、ましてMTVとかで流れる奴って、歌詞はわかんないけどどれも女といちゃついているPVばかりで、はっきり言って俺には関係ないとしか思えないし、興味もわかないんだよね。
どうせ金とセックスのことしか言ってないんだろうと思うし。
まあ、それは仕方ないし、ある意味ヒップホップのルーツってそういうところにもあるんだろうし。
黒人さんの音楽ですので(彼らは非差別の代表のような存在であったため、成功に対する欲求はすごく強かったはずである)。
今でこそ大分良くなっているだろうけど、それでも人種問題は根深いようだしね。
Saul Williamsも黒人である。
でも、おそらく彼のテーマはそういう欲求よりも、もっと大きな視点で、かなり政治的な立場を表すようなものなんだろうと思う。
なんせサージとザック、そしてトレントの目に留まった男である。
従って、本来であれば歌詞にこそきちんと目を向けるべきなんだけど、わかんないのですね。
そのうちちゃんとどっかで拾ってこようと思うんだけど。
でも、曲だけ聴いても、トレントがプロデュース兼一部唄ってもいるので、音的にはかなりロックで、トレント好きなら引っかかるものがあるはずである。
また、確かそうだと思うけど、U2のカバーもやっている(”Sunday, Bloody Sunday”)。
この曲も相当かっこいい。
また、softbankのCMでも、実はイントロだけだけど彼の曲が使われていたはずである(”Bang and Blow Thruogh”という曲、ドラムが非常に印象的なイントロなんです)。
犬じゃなくてブラピの出てたヤツでね。
それに気づいた奴なんて、俺以外にいたら是非教えてほしいね、フっ。
とにかく、いわゆるヒップホップっぽい感じはあまりないので、そっち系のはちょっと...という人にもおすすめの作品である。
基本的にかっこいいですから。
現在は既に無料配信は終わっているがCDが出てますので。
最近改めてまた聴いているんだけど、迫力もあるし、ノリもあるし、これは素直にかっこいいな、と思ったのですよ。
これが無料でとはね。
申し訳ないなあ、なんて。