ギャグという言葉がある。
シャレや冗談という意味であり、一発ギャグなんてものもある。
大抵の場合はお笑いの場面で使われる言葉である。
しかし、英語に変えるとGagとなる。
意味を引くとかなり意味は異なってくる。
例えば、SMなんかで声を出させないための口にくわえさせる器具をGagという。
また、吐き気を催す、というような意味もある。
日本語的なポジティヴなイメージに反して、英語ではややダーティな香りがする。
音楽を聴いていて、時に爆笑することがある。
歌詞が面白かったり、曲展開があまりにふざけていたりすると、いかな音楽と言えども笑える訳である。
例えば電気グルーヴの書く曲はしばしばそういったものがある。
あるいはBoredomsの1stを聴いたときは、また違う意味で爆笑した。
なんじゃこれ?と言った具合に。
最近奇妙なやつ、俗にいうアヴァンギャルドというやつが面白かったりする。
はっきり言って分けわかんないんだけど、その訳わかんなさが面白いのである。
さて、ロックというジャンルもすでに生誕50年以上を数えている。
死亡説が何度も流れるほどの時間である。
一言にロックといってもその音楽性はもはやカテゴライズ不可能なほどに多様化している。
ここ数年の新人も、さらに多様で聴いている方としては面白くてよい。
そういう新人の台頭の裏に、先達の存在も注目の的となっている。
こうした多様性が生まれる土台を作った、という意味で、かつては意味不明であったものも今では評価が180度変わっているものまである。
よくも悪くもね。
Canというアーティストはもともと評価は高かったが、昨今ではかなりその評価も一般性を持ってきている。
一方、いわゆるラジオスターのような連中は見事に過去の人と化している。
世知辛いね。
The Velvet Undergroundなんかは、当時はほとんど評価されていなかったそうだが、Strokesがその影響源にあげるなど、昨今その評価は不動のものとなっており、ビートルズとも並べられるほどである。
まあ、それでもロックというものをそれなりに聴いていいないと知らない人の方が多いだろうけど。
で、そのベルベッツの中心の一人が、巨匠Lou Reedである。
バンドでの活動期間よりもソロとなってからの方が華々しいキャリアとなっている。
もちろんヒットも多数で、歴史的名盤も数多く残しており、其の存在は唯一無二である。
ちなみに今は亡きJoy Divisionのイアン・カーティスのヒーローの一人が彼である。
そんなLouの歴史的名盤の一つが「Metal Machine Music」である。
知っている人は既に疑問符を抱いているであろうが。
このアルバム、聴いたものすべてをぶっ飛ばすくらいの凄まじい破壊力をもっている。
並の神経ではおそらく10秒が限界であろう。
ジャンル的にはノイズ系、ていうかノイズなんだけど。
そう、このアルバムはノイズである。
ひたすらノイズである。
60分以上、4部に分かれたノイズなのである。
ヴェルヴェッツも、特に2ndなんかはかなりノイジーで、すげえなあ、とか思ったんだけど、このアルバムはもはやぶっとんでいる。
一応内容を紹介すると、このアルバムには歌はなく、いわゆるインストである。
でも、メロディもなく、ドラムもなく、ベースもなく、あるのはギターとノイズのみ。
ギターはジャンガジャンジャジャン、みたいなんじゃなくて、ずーーーーーーーーーーっとキュウェ~~~ンみたいな音だけである(フィードバックギターってやつ)。
4トラックに渡り収録されているが、わざわざ分かれている意味が分からない。
約15分ずつ、ひたすらノイズである。
日本語にしたら雑音だよ。
途中、歌が入ってくるんじゃないか、とか、あれ、ここからメロディが始まったり?とか意味のない期待をついしてしまうが、そんなものはない。
これで金とるのか!!とびっくりの内容である。
ノイズ系のミュージシャンはマジョリティではないにしろ、結構いると思う。
そのノイズ系のミュージシャンのCDを自分で買っておいて「雑音が入っているんですけけど」なんていう間の抜けた問い合わせとする人が世の中にはあるそうだが、さすがにこのアルバムを予備知識なしに聴いたら事故だと思うだろう。
一応一通り聴いてみたけど、途中から果たしてこれは最後まで聴くべきものであろうか、という疑問が出てきた。
だって、なんの展開もないし、トラック変わっても実質何も変わんないし。
リスナーレヴューを観ると、すばらしい!!と大絶賛の人と、わからんという素直な人の2種類である。
私はずばり後者である。
これはわからんよ。
ただ、このアルバムについては内容面についてあれこれ言う事はナンセンスではあるが、一方このアルバムの存在そのもの、世の中に出現させたという事実は非常に重要だと思う。
音楽というものの概念はこのアルバムには存在しないと思うが、しかしこれは音楽CDとしてきちんと売られているのである。
これに触発された人は少なくなく、Sonic Youthなんかはその代表格だろう。
まともに聴いた事はまだないんだけど、ちょっと聴いたときに、確かにノイジーなギターが印象的であった。
また、影響されたかどうかは知らないが、Boredomsなんかは存在としては明らかに異質で、およそ音楽というイメージからは遠い印象がある。
このアルバムを聴いているとき、不意にボアの「Super ae」があたまを一瞬よぎったが。
これらのいわゆるオルタナ系アーティストに重大な示唆を与えた事は確かだろう。
そういう意味で、内容ではなく存在はやはり名盤であると思う。
ただ、世間的な評価としては歴史的悪盤である。
発売当初はすぐさま回収されたとか。
「雑音がするんです」という問い合わせがさぞ多かったのであろう。
無理もない。
彼のこの一つ前のアルバムはチャートの10位だかになったというほど売れたのだから。
そんな作品のすぐ後がこれじゃあ、ね。
でも、そういうアティチュードはかっこいいね。
こういう人をアーティストって言うんじゃないかと思う。
さすがウォーホールの友達である。
人にお勧めしない音楽?No.1であるのは間違いない。
まさにロック史に残る最高のGagである。