音楽放談 pt.2

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開かれた密室の音 ―Pretty Hate Machine

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新年である。

2009年という事で、まあ、時間の経過の早さを感じる今日この頃である。

さて、そんな新年1発目、何を書こうかと考えたが、ちょうどいい機会である。

ここでようやくNine Inch Nailsについてようやく書こうではないか、と思う。


Nine Inch Nails(以下NIN)は、私のもっとも好きなアーティストである。

90年代のオルタナティヴの代表格であるバンドの一つである。

きわめてコアな音楽性と、陰鬱な世界観で、いくら楽曲に親しみやすいメロディやキャッチーさがあるとはいえなぜこれがそこまでのマジョリティを獲得したのかがいささか疑問ではあるが、少なくとも私にはガツンと響いた。

おそらくそう感じた人間が一人や二人でなかったという事である。

まさに時代の病理を体現した存在でもあるのだろう。

自分もそんな病理の一部、と思うと少しつらいものはあるが、それでも彼らの音楽は大きな意味を持っている。


NINは、バンドというフォーマットをとってはいるが、実質一人の男によるプロジェクトという色合いである。

その男の名はTrent Reznor。

彼が本格的に音楽を作るようになったのは、実は20すぎてからという、意外と遅いのである。

幼少の頃からクラシックピアノの教育を受けていた事もあり、それまではスタジオミュージシャンとしてキーボードを演奏していた。

その当時の映像は、なんとYouTubeにアップされているので、ぜひ見ていただきたい。

まあ、全然わかんないけど。


当時名もない1スタジオミュージシャンに喰っていけるだけの稼ぎなんてあるはずもなく、楽器屋なんかでバイトしながら生活していたようだ。

当時便所掃除をしながら、他人の陰毛のついた便器を掃除しながら、「クソッタレ、いつまでもこんなことやってられるか!!」と思った彼は、決意、曲を書き始める事になる。

自分の音楽的才能に対してまだ懐疑的であったようだが、逆にそうした不安が彼のモチベーションになっていった事もあるようで、そこの精神に既に彼のカリスマ性を感じる、気がする。

「もし俺が成功したら、別に社長の息子じゃなくてもかまわないって事の証明になるんじゃないか」と語っている。

彼の音楽性に関する一般的なイメージから考えると、彼がこのような前向きな正確であったというのがいささか不思議にも思う。


さて、こうして制作された1stアルバムが、「Pretty Hate Machine」である。

このアルバムはギター中心のロックとは違う、いわゆるインダストリアル・メタルが大きな示唆を与え手いる訳であるが、その代表格であるMinistryやSkinny Puppyらのような無機質さは受け継ぎつつも、一方で彼らにはないポップ性は群を抜いていた。

とはいえやはり変わった音楽であるという印象は拭えない。

かのアルバムのリリースは90年代のわずか手前、89年なのだが、Nirvanaスマパンなんかとほぼ同時期である。

この時代に一貫した自己嫌悪や社会に対する敵対心などは同じテーマではあったが、表現としてはやはり特異な存在であった。

奇妙な電子音?で始まり、空っぽの倉庫に鳴り響くような乾いたドラムが続く1曲目”Head Like a Hole”は、今に至もライヴの最終曲を飾る、彼の最も強い哲学が現れている曲である。

「I'd rather die than give you control」というフレーズは、今も力強く響いている。

彼は基本的に引きこもりである。

自分の中に世界を展開していくタイプで、多くの人間とハングアウトして生きていくタイプではない。

もちろん仲間は大事にするけど、要するに個人主義的な傾向の強い人間である。

そういう性質もよく現れているし、たとえ顕在化していなくても彼の音楽にはそうした、なんというか、色、ていうかな、が現れてくる。

密室的な感じっていうかな。

そうした性格は万人に理解できる感覚ではないだろうし、それゆえ彼はコアである、と言われるのである。


このアルバムに収録されている曲の中には彼の代表曲と呼べる曲が多数収録されている。

今もライヴで演奏される曲は、"Terrible Lie"、"Something I Can Never Have"、"Sin”、そして"Down In It"なんかもたまに演奏されている。

どの曲もライヴの要部分で演奏される事が多く、特に"Something I Can Never Have"はキャリア通じてあまりないタイプの曲であるため、特に重要である。


本来なら全曲について書いてしまいたいぐらいであるが、字数の都合上どうしても切り上げなくては行けない。

まあ、前半はバイオグラフィー的な事を書いているからよけいになんだけど。

このアルバムはリリース当時はベスト200にも引っかからなかったそうだが、精力的に行っていたライヴにより反響が広がり、ついにはプラチナを獲得するにいたる。

彼らが一気に注目を集めるのは、より攻撃性を増した次のEPからになるのである。

このアルバムはやはりどこかまだ青臭いというか、若々しさがある。

瑞々しさというべきか。

でも、彼の実験的な要素と素朴なソングライティングが一番出ているアルバムでもあり、そういう意味でも必ず聴かなければ行けない1枚といえよう。


ところで、このアルバムの日本版のライナーには面白いというか、興味深いエピソードが載っている。

トレントは好きな事だけやっていればいい、という、あの当時のバンドの多くが思っていた事と違い、純粋な成功への欲求があった。

幼少期に父親に連れて行ってもらったイーグルスのコンサートを見て自分でもこういう事ができたらなあ、と思った事があるという体験もあるし、また影響された音楽(Pink FloydやKissなどのいわゆるスタジアムバンド)によるところも大きい。

けだし彼の曲にあるポップ性や、アルバムとしてのコンセプト性はこうした事からの影響であるのは間違いないだろう。

実際に評価もあがり始め、次第に成功の陰が見え始めた頃、ライヴの前に楽屋にある男が尋ねてきたそうだ。

彼はもはや余命いくばくもないない状態であったらしいが、その男にとってはPretty Hate Machineが唯一の救いになっているらしく、それに感謝したい、と言われたそうだ。

そういわれてトレントはかなり苦悩したらしい。

死を目前に迎えている男にとって、自分の曲が救いになっているというのは表現者としてはあまりに大きな賛辞と言える。

一方で、彼はそんなつもりで音楽をやっていた訳ではなかったので、そんなこと言われても自分はどうすればいいかわからなくて、ただ黙るしかなかった、と言っている。

そこで影響を与える事の責任感の様なものを強く重し知らされるような体験をさせられたという訳である。

真面目な男である。

この体験は、きっと彼の90年代の成功と苦悩の時代に強く影響したんだろうと思う。

1stはたしかに他のアーティストに比べれば明るくはないが、それでもキャリアの中では明らかに輝きを放っている作品である。

以降の攻撃的で絶望的なまでの暗鬱なトーンはまだない。


と、まあせっかくのNINのレビューがこんななおざりでいいのか、と自身を戒めたい気持ちになるが、残念ながら彼らをもっとうまく評価できる言葉を私は持っていない。

申し訳ないが、私にとってもあらゆる世界観が一番コネクトできるアーティストは彼らのみである。

客観的な評価よりも主観的な体験や感覚が優先してしまうので、うまく表現できないのです。

とはいえ、彼らの動向はいつでもチェックしているし、次にどんな曲を持ってくるのかは最大級の関心である。

まあ、へたくそで申し訳ないが、今後も時系列にそって彼らのアルバムを紹介できたらと思うので、よろしくお願いします。

なお、バイオなどのソースはWikipediaやライナーなどからの引用も結構あるかと思いますので、興味のある方はまずそちらを参照するとよろしかろう。

何よりもまずは聴いてみる事が一番なんだけどね。