音楽放談 pt.2

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壊れている正常者 ―Broken

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オルタナティヴなムーヴメントが次第に顕在化するにつれ、その中にあるアーティストが急激に脚光を浴びるようになるのはいつの時代も同じ事である。

そうなると、商業主義者はそれらを如何に金にするかを考える。

それに素直に従う奴もいれば、冗談じゃないという奴だっている。

社会としては前者の方が求められるのかもしれないが、人間的に信用できるのは個人的には後者である。


Nine Inch Nails、Trent Raznorも、そんな目にあってしまった一人である。

1stアルバムの思いもよらぬ成功により、当時所属していたTVTレコードと摩擦が生じ始めた。

レコードの過剰な干渉が入るようになったのである。

それをよしとしないトレントは契約解除のために裁判に投げ込まれる。

いくらアルバムセールスが伸びたとはいえ、まだまだ新人、裁判に金をかけてばかりではすぐさま破産してしまうであろう事は目に見えている。

それでも戦いを選んだ彼は、ツアーによる資金調達をしていたとか。

自由のために戦い、ツアーをして金を稼ぐ。

すこしばかり複雑な状況であった事は有名なエピソードの一つである。


ようやく裁判に区切りがついたタイミングで、彼はミニアルバム「Broken」を発表する。

裁判中に密かにレコーディングされた今作は、キャリア史上もっとも攻撃的で、最も激しい作品となった。

僅か6曲ながら、その存在感は圧倒的である。

1stの打ち込み主体の非常にポップな作風に対して、このアルバムはギターが前面に出たロック色の強い作品で、インダストリアルメタルという一般的なジャンル分けにもっとも当てはまりやすい作品であろう。

ライヴでの定番曲も多く、ファン人気も非常に高い上、当時グラミー賞まで獲得した、いわば彼らを一般層にまで認知させるきっかけとなった作品といえよう。

もっとも、そうした状況とは逆に、トレント自身はどんどん独自の世界に没入していくきっかけににもなっているであろう。


さて、収録曲についていくつかかくと、まずSE的な"Pinion"で幕を開ける。

2005年のサマソニもそうであったが、この曲は導入部に頻繁に遣われていたものである。

暗転してこれが流れ出すと、もう一気にテンションがあがり始める。

そして続く"Wish"こそ、まさに彼らの攻撃性とポップ性の同居した凄まじ破壊力の曲であり、レイヴ的なノリもありながらで、幾多のインダストリアル勢とは一線を画する傑作である。

ノイジーでヘヴィーで歪なギターリフと、スッと雲間から陽が射すようなサビの晴れやかさの対比がすばらしすぎる。

「リアルなものを、本当のものを願う」というフレーズがすごく良いね。

疾走感も抜群なので、ライヴでは鉄板中の鉄板。

マジにかっこいい曲である。


続く"Last"は、また複雑な展開の曲であり、かつヘヴィな曲。

サビの部分で急に転調し、それまでの叫ぶようなヴォーカルから一転してささやくようなヴォーカルへの変化も鮮やかである。

続く"Help Me I'm in Hell"も、しばしばライブで曲間にSE的に挟まれる曲である。

地を這うようなギターとベースの、構造自体はシンプルながら、このアルバムにあっては異質な曲である。

それまでの怒濤の爆音の中にあるから、余計に前後の狂気を際立たせる。

そして”Happiness in SLavery”は、次作にもつながるようなノイジーな曲で、色々曰く付きな曲でもある。

ミニストリーとかの直下的な音作りではあるが、打ち込みの使い方がやっぱり破格のセンスだと思うよ。

ちなみに、この曲の曰くであるが、この曲にはPVが作成されている。

しかし、そのPVというやつが、即効で放送禁止に追い込まれた内容である。

当時MTVなんかが話題のバンドのPVをしょっちゅう掛けていた訳であるが、そうした商業性に対する彼なりのアンチ宣言であったのかもしれないが、それにしても悪趣味というものである。

ある中年の男が機会でばらされてミンチにされるという、聴いただけで嫌な気分にさせられる内容である。

興味のある人は、まあ、探してみてください。

「Closure」というビデオ作品(改めて書きます)に収録されています。

YouTubeじゃあみれないんじゃないかと思うので(エグすぎて)。


そしてラストを飾るのが"Gave Up"である。

イントロのドラムラインが最高にかっこいい。

高速ドラムと、歪んだ静かなヴォーカルで幕を開けて、サビ一歩前での爆発がたまらない、反則のような曲である。

ノイズや電子音の挟み方がめちゃくちゃ効果的で、クレイジーで最高である。


最高って言葉遣いすぎなんだけど、このアルバムは一番聴きやすいし、わかりやすくかっこいいのである。

もちろん聞き込めばそれだけの発見もあるのはさすがで、そうした深さとキャッチーさを持っているという意味でインダストリアル・メタルアルバムとしては最高家作だと思う。

個人的にはこれ以降のキャリアはインダストリアルというタームは遣いたくないので。

ちなみに、このアルバムには6秒程度の空白トラックが約90曲?続き、ラストに"Phisical""Suck"という、カバー曲なんだけど、収録されている。

これらは本編とはまた違った色合いではあるが、当時のトレントの音作りに沿ったものなので非常に興味深く、また問題なくかっこいい。

特に"Suck"はライヴでも頻繁に演奏されるほど本人も気に入っているようだ。

ボーナストラック言うにはあまりにもったいない曲である。


このアルバムは、トレントの感情がまだ外に向いている印象があるし、比較的最近のモードに近い感じはする。

若さと狂気の入り交じり方も、あるいはPVにみられる彼の姿も、アグレッシヴでマッシヴで、クレイジーでノイジーで、何故NINがインダストリアルにくくられるかが一番わかりやすい作品でもある。

彼らの音楽性のポップ性と特異性が程よくミックスされている感じも良い。

なによりジャケットから何から当時の心情をよく表しているあたりに彼の正直な人間性を嗅ぎ取る事ができよう。

彼が今なお信頼される理由も、ここにあると思うな。

現在完全にインディとして活動している彼の今のモードは、やはりこの頃と一番近いのであると思う。

ま、何はともあれ、そんじょそこらのヘアメタルなぞ軽くぶっ飛ばすくらいの破壊力をもったメタルアルバムである。

とりあえず、聴け。