ここ最近は比較的新しいバンドを書いてきた。
私自身若いので、新しいバンドの方がコネクトしやすいのかもしれない。
でも、昔のバンドでも、あるいは既にベテランと呼ばれるバンドでも、良いバンドは良いのである。
面白いのは、音楽にもやはり年輪というか、熟成されるものがあるらしい。
殊ロックにおいては、それはさけられるべき事と言える。
それゆえ変わり続けるバンドはいつまでも若いと言われる。
いつまでも探究心を持ち続け、もっともっとと求め続ける姿勢が、いかにも若さらしい。
逆に同じことを繰り返すことは、いかにも年寄りが胡座をかいているようで、若い世代から観れば淘汰されるべき対象でしかない。
ローリングストーンズなどは、既に伝統芸能と揶揄されるバンドとなっている。
一方で好きな人はいつまでも好きなんだろうけど、先日彼らのライヴDVDを観たが、私には惹かれるところがなかった。
やっぱり若いということか。
ほっとした。
彼らほどのキャリアはまだないが、それでも全盛期と呼ばれることはもうなくなったバンドの一つが、一部では世界最重要ロックバンドとの誉れも高いのが、R.E.M.である。
個人的にも大好きなバンドである。
とにかく曲が良い。
声が良い。
歌詞が良い。
彼らはデビュー当時から基本的には変わっていない。
音楽的に大きな変化があったかと言えばそれはないし、何か激烈な個性を持っているかと言えば、そういう訳でもないだろう。
しかし、彼らのようなバンドや、彼らのような音楽を書くものは外には居ない。
オルタナティヴというムーヴメントの先駆けとなった存在として、その歴史的重要性を認識されるとともに、かのNirvanaのカート・コバーンが遺書を書きながら聴いていたというのが彼らのアルバムであるということで、思わぬところでバイアスもかかっている傾向にあるが、そんなものを取っ払っても彼らはすばらしい。
R.E.M.については以前既に書いているので、前置きはこれくらいにして、今回は世間的にはあまり評価の芳しくない「UP」というアルバムについて。
「GREEN」以降のアルバムはこれで全部そろったんだけど、このアルバムは最後になってしまった。
理由としては、やはり世間的な評価はあまり芳しくない様子だったので、後回しにしてしまったのである。
しかし、そういう判断はやはり馬鹿を見る。
このアルバムは非常にいい。
確かに派手さはないし、シングル向きの曲はないことはない程度。
しかし、メロディは綺麗だし、すごく穏やかで、やや靄のかかったような景色を見せるこのアルバムは、他のどのアルバムにもひけを取らない秀作である。
好みはあるだろうが、あくまで好みで評価は分かれる程度だろう。
ドラマー脱退後のシビアな状況下で作られた為、やや実験的な雰囲気がにじみ出てしまっている分ポップと言う視点があまり出なかったのだろう。
でも、それでも良いものを作れてしまうのだから、良いバンドですよ。
まだ全部聞き込めていないのだが、とりあえずベストの入っている2曲は文句なく名曲。
"At My Most Beautiful"のシンプルなピアノの戦慄と、静かな曲、そして何より優しい歌詞は随一である。
マイケル・スタイプの声も伴って、この曲は心洗われるような曲である。
"Daysleeper"は、これまた静かで穏やかな曲なのだが、この曲は一番靄がかかったような曲である。
気怠いような、爽やかなような、なんだか不思議な感じもするが、心地よい曲である。
この曲のPVには渋谷駅が登場する。
興味のある人は是非チェックしてみるといいだろう。
他にも、シングルでもなんでもないがPVも作成されている"Lotus"なんかも良い曲だしね。
音的には次作につながるややエレクトロなものが耳を惹くアルバムである。
そういった意味では新しいフェーズの導入であるといえ、新しい彼らであると言えるかもしれない。
しかし、何故かそういう印象はなく、彼らは彼らのままである。
とは言い条、前作はかなりロックテイストの強いアルバムであったので、どうしてもギャップはあるけど、個人的にはこちらの方が好きである。
昨年にも新譜をだし、しかもかつてないほどのアグレッシヴさを示し、未だ現役であることを世に示した彼らであるが、根っこの部分は今も変わらない。
世間と一定の距離を保ちつつ、かといって自分の殻に閉じこもらず、世間に対して働きかけつつ、自分たちであり続けている。
このバンドの一番の魅力とは、何よりそういった面ではあるまいか。
彼らはリスナー以上にアーティストリスペクトの高いバンドでもある。
その飄々とした力強さこそ、彼ららしさで、良い曲を書き続けられる理由かもしれない。
まあ、グダグダ言わずとも、本当にじんわりとしみる良い曲を書くバンドである。
一度は聴いてみてほしいですね、好みはあると思いますが。