ここ数年の彼は非常にアッパーな曲が多く、しかも取っ付きやすさのある曲も非常に多い。
無料配布されたことでも話題となった「Slip」収録の"Discipline"などは、まさにそうした要素を凝縮したような曲であった。
ただ、それをNIN最高の、と言い切ってしまうのはやや納得しない思いが拭えない。
もっとも、どれか一つを選ぶと言う方が遥かに納得できないけど。
とはいえ、強いて挙げるのなら、"The Perfect Drug"であろう。
かの名盤「The Downward Spiral」に次いで出されたオリジナル作品にある訳であるが、サントラなど以外ではアルバム未収録なのはこの曲だけではなかろうか。
是非こうした曲群を集めた編集盤を、トレント自らの手で作ってほしいと願うが、まあ無理かな。
したがって、"Deep"なんかもわざわざサントラを買わないと行けないというのが厄介である。
この曲もちょうどこの頃なんじゃないかな。
で、件の"The Perfect Drug"だが、このシングルはオリジナルVer.と、リミックスVer.からなるシングルである。
前作で圧倒的な世界観を提示しただけに、次の言っては世界中が固唾をのんで待っていた。
そこで投下されたのがこのシングルな訳であるが、イントロのギターからして他の楽曲とはムードが違う。
派手な曲ではないが、じわじわと盛り上がる展開、そこからあふれる緊張感、サビでの爆発、音の抜き差しなどが絶妙で、とにかくかっこいい。
しかも、基本的には内省的なしが多い中、この曲はわりと純粋なラブソングとしても聴けるあたりが非常に特徴的というか。
もっとも「お前は完璧なドラッグだ」という表現はいかにもトレントらしいけどね。
すでにこの頃は完全にドラッグに蝕まれていたので、詞の表現自体はかなりリアルなんだろうな。
実際クスリがないとどうしようもない状況だったと言うのはここ数年のインタビューでも明らかであるが、そのときはすごくふにゃふにゃだったんだろうね。
それをなんとかしてくれるのはお前、なんとかできるお前は完璧なドラッグ、てね。
そう考えると、何ともダーティな曲でもある。
しかし、まあそれはあくまで裏側を知っていれば、と言う話であって、そうしたこと抜きにこの曲はかっこいい。
この曲のように、収録時間の前半部で歌パートは終わり、後半はインストのみで、かなり音で遊ぶという展開が、これ以降シングル曲に非常に多い曲の構造である。
彼なりのポップと言うのはやはり歌ありき何だろうけど、それだけじゃやっぱり面白く無い、というのが本音かも知れない。
「The Downward Spiral」以降は、リミックスアルバムはじめ本編とは少し違う、サントラやこうしたシングルなんかを出していた。
既に時代の寵児となり、タイム誌による「もっとも影響力のある25人のアメリカ人」にも選出されるほど、その存在は大きくなっていた。
そうした成功とは裏腹に、トレントはクスリと酒のアディクションが深刻な状態へと向かっていく。
この時期に、かつて無二の親友とまで言われたマンソンとの仲違いもあり、次第にどん底へ沈んでいくのである。
そのときの彼の葛藤であったり、苦悩であったりが、次のアルバムには大きく反映されることになる訳である(と個人的には思っている)。
既に90年代は終わろうとしているそのほんの僅か手前。
グランジ/オルタナという価値観は、既に過去のものになってもいた時期ですね。
と、言う訳で、続きはまた今度。