音楽放談 pt.2

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アイドル舐めんな -ヒップホップで見えるアイドル論

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フリースタイルダンジョンの後釜の番組として始まったフリースタイルティーチャー、芸能人が指導を受けてラップバトルをやるという企画ものである。

 

スタート当初はお笑い芸人などかれあ始まって、直近のシリーズではアイドルが登場してラップバトルを繰り広げていた。

 

出演者の度重なる不祥事もあって終わってしまった番組ではあったが、元々の目的を考えればこのベクトルは間違ってはいないと思う。

 

ただ、正直そこまで面白い企画にはなっていないなというのが正直なところであった。

 

言って終えば、見ていて痛々しい部分の方が大きかったし、なまじヒップホップ好きでそこそこラップができてしまうキャストが出た段階で、ちょっと興醒めしてしまったのは実際だった。

 

ただ、意外にも個人的に面白かったのが直近のアイドルシリーズだった。

 

私は昔からアイドルにはあまり興味がないし、可愛いとは思うけど楽曲を聞くこともなければ別に好んで見ることもない。

 

そもそも私は自分を徹底的に見せつけるような表現の方が好きだし、だからプロデューサーがいて、演じることを求められるアイドルという存在が、イマイチピンと来なかった。

 

しかし、このシリーズは個人的にはすごく面白くて、毎週録画して見ているがなんとなく消すのが惜しくて今の残しているのはこのシリーズだけである。

 

中でも、特にこのシリーズで優勝したえいたそと、勝ち星には恵まれなかった恋汐リンゴはなんだか妙に印象に残った。

 

この2人は出演者の中でもヒップホップとは程遠い、いわゆるアイドルっぽいアイドルの2人だろう。

 

他の出演者の子達もそれぞれに必死さもあって良かったけど、ある意味ではスタイルとしてのヒップホップが良くも悪くも染み付いていて上手いが故に企画としての特異性が生かせなかったり、あるいはあえてそれっぽくしようとして本来的な良さが出てないんじゃないか、なんて思えてしまう子もいる中で、この2人はアイドル×ヒップホップの面白さが見事に体現できていたのではないかと思ったのだ。

 

 

まず恋汐りんご、 バンドじゃないんもんというグループらしく、このグループ名自体は見聞きしたことはあるが、ぶっちゃけ数多あるインディアイドルの一つ程度の認識であった。

 

口調もおっとりしており、ゴスロリな衣装も相まって一番ヒップホップ的なイメージから遠かった。

 

ただ、それは本人も自覚しており、必死に練習して、自分なりにどう闘うかということをかなりしっかり考えていた様子なのが最初に刺さったポイントだ。

 

実際本場でも辿々しさは明らかだったし、可愛らしいというよりは純粋にラップに向いていないのではないか、という印象だったけど、そんな彼女が思いの外善戦する。

 

ラップスキルは多分出演者の中で一番低かったかもしれないが、彼女の発したラップは終始一貫していて、言うなれば丸太でひたすら城門を叩き続けるような愚直なスタンスだった。

 

言葉のバラエティも、表現の幅もあったとは言い難いけど、だからこそ彼女の信念みたいなものは強く響いてきた印象だった。

 

競技的に評価されるイベントなので、それでも彼女が勝てなかった理由は別に異論はないが、唯一勝った相手は信念もラップスキルもなかった(というより示せなかったというべきか)相手というのが何よりではないだろうか。

 

ちなみに、その子は1勝もできなかった子だけど、この子は単純に指導者との相性がよくなかっただけだろう。

 

それはともかく、そんな彼女の中でも印象的だったのが、彼女自身も憧れというえいたそとの試合だった。

 

聞いていて、本当に尊敬しているんだろうなということが終始伝わってきて、多分彼女が主張してきた価値観の全てが彼女の影響下にあったので、言えることが逆に限られてしまった結果だろうなという印象だった。

 

その点が彼女の素直さだと思うし、強みでもあった愚直さだったのだろう。

 

でも、少なくとも私は彼女の試合は非常に印象的であった。

 

まあ、あの大きな目でまっすぐ相手を見据える絵面の強さもあったけどね。

 

 

そしてそんな恋汐りんごの憧れでもありこのシリーズでの優勝者となったえいたそこと成瀬詠美、失礼を承知でいうがぶっちゃけ顔面だけ見ればそんなに可愛くはない。

 

だけど、この一連を見ていて思ったのは、ああこの子はアイドルだと思った。

 

同時に、アイドルのアイドルとしての凄さみたいなものはなんか思い知らされた思いだった。

 

だから、この子に憧れる子は多いんだろうなと思うし、多分どのジャンルと戦っても一目おかれるだろうなと思った。

 

ラップという表現自体への順応性もさることながら、表現そのものを自分に取り込んでいくさまは、見ていて本当に面白いし、上記のように見た目や色々に対するディスに対する対応も、全てにおいて子は本物だし、それなり以上の覚悟を持ってやってるんだな、ということが伝わってくるから、もはや舌を巻くしかないのである。

 

何よりもアイドルという存在そのものを体現するように、相手を落とすことはせず、叩かれてもそれでも私は輝くぜ、みたいなスタンスが、ヒップホップ的なセルフボースティングと相まって、アイドルヒップホップ的なものをしっかりと見せていたことが何よりだろう。

 

これは明らかに才能のなせる技以上に、何より強い信念がないとここまではできない。

 

アイドルを舐めちゃダメだなと勝手に反省してしまったくらいだ。

 

 

そうかと言って彼女らの歌を聞くかどうかはまた別だけど、少なくとも見る目は変わるよね。

 

どんな世界でも、本物と呼ばれる存在はそれぞれに信念を持っているし、それは誰かが否定するようなものではない。

 

私はプロレスも好きでよく見るのだけど、好きな理由はエンタメという虚構の中にそれぞれの本当が垣間見える瞬間があるからである。

 

最近は女子プロレスラーでも元アイドルの子が増えているけど、みんな必死でやっているから見ていて面白いのだ。

 

どんな世界であっても、信念のある人はそう簡単には揺らがないし、人を集めるのもそういう人だろう。

 

いずれにせよ、このシリーズでの成功例はこうしたものではないだろうか。

 

次のシリーズがどうなるかはまだわからないが、表現ていうのは面白いよね。