大人の音楽という表現をしばしばされるアーティストがいるわけだが、それってなんだろうか。
落ち着きがある、起伏がそんなになくまったり聴ける、とかまあせいぜいその程度の印象だろうか。
あとはおしゃれなカフェで流れていそうみたいな話もあるかもしれない。
なんだ、お洒落なカフェって。
それはともかく、私なりに考えてみると、高校生の頃は激しい音楽が好きだったし、ギターギュンギュン鳴らして重低音をブンブンベースで効かせて、ドラムを激しく打ち付けるような音楽がかっこいいぜ!とか思っていた。
では今聞かないかと言えばそんなことはもちろんなくて、今でもその他の音楽は好きだ。
また昔は静かな音楽を聞かなかったかと言えばやはりそうでない。
ふと考えてみると各アーティストの数やジャンル的な意味での幅は広くなったと思うが、実は本質的には好みは変わっていないような気がしている。
色々と知っているものが増えていく中で、自分の中の好みのマッピングの粒度が上がっただけというか。
だから、好きでないものはいつまでも好きでないし、ピントないものはやはりピンとこない。
大人っぽいとかそういうのも所詮ステレオタイプの一つなのだろう。
さて、私の中でうまく言語化できていないけど、気がつけばふと聴きたくなって、アルバムもひとしきりそろえているバンドというのがいくつかある。
好きなバンドって、ほんの一曲でも自分の中の何かしらのエピソードだったりその時の状況だったり感情だったりとリンクする瞬間を味わったが故に、というのことが多いのだけど、そういうわけではない、でもなんか聞いていると自分の中の何かをこちょこちょとくすぐられるならような感覚にさせられる音楽というのがある。
そんなバンドの一つがSpoonというアメリカのバンドである。
一部音楽好きの間ではすでに有名な存在だが、そうでない人にとっては認知されているとは言い難い、いわばインディなロックバンドだ。
私もだいぶ後追いで知ったバンドで、日本では2007年の『Ga Ga Ga Ga Ga』というアルバムで多くの音楽雑誌でも扱われるようになった記憶で、私もこのアルバムで初めて知った。
耳の速いファンにはその前の前のアルバムくらいから注目されていたらしいが、日本盤の流通も当時ほとんどしていなかったので、プロモーション目的のない雑誌掲載はやはりなかなかないよね。
ともあれ、当時騒がれている理由がすぐにわかったかといえばそんなことはないし、めちゃくちゃ新しいような印象もなかった。
ただ、ボーカルの少ししゃがれた声と、派手さはないが抜き差しのバランスが絶妙な曲や、そもそものメロディがポップでかっこよかった。
こういう声質に憧れがあるんですね。
それ以降はなんとなく気に入ってリアルタイムでアルバムは聴いているし、過去作も遡って入手していった。
そういう人は結構いたんだろうね、ひとつ前のアルバム『Gimme Friction』(2005年)もデラックス版とか言ってリイシューされたからな。
まだ実験的な雰囲気というか、プロダクションの問題なのかもしれないけど、そんな印象も受ける。
ともあれ、その後のアルバムもそれ以前のアルバムも、改めて聞いているといいんだこれが。
一部の音楽好きだけが喜んでいるにはもったいない。
というわけで、私には彼らを正しく評価するだけの言語はないので、せめておすすめ曲を聞いてみてくれ、というわけだ。
とは言っても、私は『Kill The Moon Light』(2002年)以降しかわからないから、そこは勘弁してくれ。
まずはポップでかっこいい曲から。
『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)のアルバム収録の"Japanese Cigarette Case"。
日本人て、こういうの好きでしょ。
ともあれ、渋くて味わい深い一曲だ。
こちらもどうアルバム収録の”Don't Yu Evah”、リズムも弾んでいてかっこいい曲だ。
そして昔の曲ではこんな曲も。
『Gimme Friction』(2005年)収録の"My Mathematical Mind"。
実験的な印象の強い曲だ。
まあ、正直広く聞かれる音楽ではないかな、というのがこの時点での率直な評価だとは思うが、でもかっこいいよね。
こちらはさらに前の『Kill The Moonlight』(2002年)収録の"Small Stakes"。
典型的なロックバンド的な音とはのっけから印象が違う。
キーボードを駆使して、不思議なポップさを持っている。
彼らのアルバムは、ソングライティングのアルバムとプロダクションのアルバムの大きく2つに分かれる、と表されることがあるが、そのプロダクションの評価と言われるのが初のセルフプロデュースとなった『Transference』(2010年)である。
"Mystery Zone"という曲だが、このアルバムの中ではかなりポップな曲だと思うが、淡々とした展開なので、初めて聞いてすぐにぴんと来るかと言ったそうでもないかもしれない。
とはいえ、このアルバムもなんとなく聴きたくなるし、聞いているとあっという間に時間が過ぎていく。
まさにMystery Zoneに入ったような気分だ。
個人的には初めて聞く人には先の『Ga Ga Ga Ga Ga』か、もしくは『They Wont My Soul』(2014年)である。
このアルバムは先の二元論で言えば中間的なアルバムと位置付けられるらしい。
全体に曲はポップだし、ロック的な高揚感も満載、一方でライブでどう表現するのかと思うような曲もあり、私も愛聴している。
このアルバムからは、Voのブリット・ダニエルもお気に入りというこの曲を。
"Inside Out"という曲だが、打ち込みも多くロックバンド的な曲かと言えばそうではないかもしれないが、独特のムードもあってなんだか聞いてしまう曲だ。
このアルバムはいい曲が本当に多くて、
"Do You"という曲だが、冒頭からしてなんだか可愛らしさもありながら、落ち込んでいる時に聞いていても元気が出そうだ。
PVは摩訶不思議で、聞いた後に謎の余韻を残してくれるが。
彼らの目下の最新作は『Hot Thoughts』(2017年)だが、この時はプロモーションのみの来日があり、私はサインをもらった。
こちらがタイトルトラックにして1曲目だが、楽器の展開が面白い1曲だ。
このアルバムはまたプロダクションが高く評価されているアルバムで、リリース当時玄人筋を唸らせていた。
私は残念ながら素人筋なのですぐに良さがわからなかったが、確かにヘッドホンで聞いていると音の鳴り方とかが非常に面白い。
曲自体は全体に渋めではあるが、このアルバムも長く聴けるものであるのは間違いない。
と、このバンドを評価するには私いはあまり語彙が少なくて申し訳ないのだけど、まあ難しいこと言わなくてもとりあえず曲はいずれもかっこいいし、個人的にはこういう少ししゃがれた渋みのある声は大好きなんですね。
The Nationalほどくたびれた感じもないし。
一応言っておくが、The Nationalも、よくわからないけどなんとなく聴いてしまうバンドの一つである。
いい曲あるんですよ。
ともあれ、派手な分かりやすさだけが価値ではない。
どうせ家にいる時間も長いので、こうしてじっくり聴いていく中で発見が生まれるような音楽もぜひ聴いてみてほしい。
シンプルに彼らはいい曲を書いているので、もっと広く聞かれて欲しいという思いもあるけどね。