多分これが今年最後の記事になるだろう。
最近邦楽バンドの中でも特によく聴いているバンドで、かつ聴くたびにあれこれ考えさせてくれるアナログフィッシュの最新作『最近のぼくら』。
意味のある歌詞って何ぞや、という話はあるわけで、別にテーマは恋愛でも日々の日記でもなんでもいいのだけど、それが自分にとってどんな意味があるのかが重要である。
私にとって意味のあるのは、なんでしょうね。
割とパーソナルなテーマのものが好きで、恋愛絡みってあまりピンとこない。
聴くとしても恋愛模様とかではないかな。
まあそれはいいとして、アナログフィッシュには2人のソングライターがいて、それぞれに色が出ているから面白いのだけど、このアルバムではそのうちの下岡さんの曲が大半で、佐々木さんの曲は2曲だけである。
このアルバムは3部作の最終作と位置付けられていて、明確にプロテストソングとして作られたアルバムの一つである。
第1部『荒野/On The Wild Side』はかなり社会性が強く、かつ直接的な内容の詞であった。
音的にも一番挑発的で攻撃的だったと思う。
”Phase””Hibrid”のような聴く者につきつけるような曲が印象的で、一方で次作につながるような”Texas”なんかも味わい深い。
”戦争が起きた”については、日本社会で暮らす人の姿をよく表していると思うしね。
続く『New Clear』は、震災後ということもありタイトルが挑発的。
描かれる世界観はどこか喪失感を漂わせるようなものが多く、社会をよりメタ的な視点で眺めているような印象である。
アジカン・ゴッチのやっている雑誌(新聞?)でフリー配信された”抱きしめて”なんかは人が人に求めるものの本質があらわされていると同時に、やっぱり今という時代にこそ聞かれるべき言葉だったと思う。
個人的には"ゴールドラッシュ"は明るい曲調に反して、なんか悲しい感じの曲だと思えてしまう。
ある日突然いなくなった彼女は何処へ行ってしまったのか、それはわからないけど今もきっと元気にしているさ、と信じ続ける姿は、単に失恋の悲しみのようでもっと大きな悲劇も思わせるところがあるけど、いなくなった彼女の所在を確かめる方法のない今となっては、自分にとっていいように解釈することが一番の解決策のような気がしてね。
社会的なコンテクストがあって解釈の仕方は変わると思う。
そんな作品に連なる今作は、社会的なコンテクストはむしろなくて、もっとパーソナルな世界である。
1曲目のタイトル曲は、電車の事故を巡る恋人同士のやりとり。
眼の前に広がる日常のありふれた悲劇にあってもどこか他人事で、そんなことよりも彼女の機嫌を気にする男と自分のわがままを通す彼女の姿だけ。
ダイヤの乱れに舌打ちする人々の姿が目に浮かぶが、しばらくすれば何事もなかったかのように、またいつも通りの日常。
一定のリズムで淡々と刻まれるベースとドラムも非常にいい味わい。
個人的な意見なのだけど、以前仕事中に営業で電車に乗った時に、行く途中、隣の路線で人身事故が起こって、横を通りかかった時には現場はビニールシートに覆われて騒然としていた。
しかし、わずか2時間かそこら経ってまた同じ場所を通ると既にすべてが片付いて、いつも通り人々が行きかっている。
すぐそこでつい2時間くらい前に誰かが死んだかもしれないのに、そんなことはもう誰も知らない。
まあ、電車が日常的にせわしく走り回っている環境にいないとなかなかピンと来ないと思うけど、そういうことは本当に日常なのである。
そのあとに続くのも、今まさに恋の真っ最中、輝くあの子しか目に入らない、幸せなフィーリングにあふれたダンサブルな曲、″There She Gose (La La La)”。
能天気なほどわかりやすいラブソング。
そして作者たる下岡さん本人も「今一番聞きたかった曲の感じ」といった″Nightfever″。
人生というものを1本のロープになぞらえて、真夜中に不意に襲ってくる不安のような思念が通り過ぎていく。
「行先もなく出口もなく答えもないただ張られたロープの上で・・・」、10年前も、20年前も同じものを求めていて、生きている間に何かを手に入れたように日々感じていたけど、本当にそうなのか?
「CPUは誰も愛さない、確率は今を知らない、時間は待ってはくれない、他人は変わらない」というラインが私にはひどく印象的だった。
色んなノイズがあって、せわしなくあれこれ求めるのだけど、結局そこにいてほしいのはたった一人でも大事だと自分が思える人なんだろう。
そんなことをとめどない思念の果てにはたと気が付くような曲。
そのあとに続くのが"はなさない"は、不意に襲われたにわか雨のせいでアイアイ傘状態で一緒にいる彼女を、ただ愛おしく思うだけの歌。
あれこれ考えてみても、ずっと一緒にいたいな、という素朴な思いこそが人生で求めるたった一つの者なのかもしれない。
いつまでそう思えるのか、明日になったら気持ちは変わっているかもしれない。
でも、そんなことはわかるはずもないし、考えても仕方なくて、今はただ彼女の手を握るだけ。
そんなことしかできないから。
曲はミニマルで同じフレーズが続くのだけど、それが日常なんだろうね。
続くは健太郎さん作の"Kids"。
ソロ作のテーマとも地続きな感じで、いつの間にか迷うようになった自分を振り返って、子供の葛藤を謳っている。
いつの間にか要請される「あるべき姿」、自分の好きなことをすればいいと言われたはずなのに、いざそちらを目指すと急に態度を変える大人たちや環境。
お前のためだ、なんて言われたってわかるはずもない。
でも、自分を信じてみろよ、なんていうメッセージかなと思う。
続くは『Rock Is Hermoney』に収録されていた″公平なWorld″のリアレンジ。
原曲よりもどこか不穏になされたアレンジが歌詞の意味すらも変えるような印象。
いつか知らない所から手紙が届いて、その日からルールを守ることを強いられるようになる。
その手紙の内容は人によって違って、いかにもあるべきとされる価値観が公平に通底されているかのようだけど、実は公平さなんてありはしない。
守るべきルールは違って、でもそのルールがどんなものかは他人にはわからない。
そんあ現代社会の見えない、認識もされないやるせなさを暴露するような内容かなと思う。
続く"Moments″はなんか物悲しい曲。
「悲しみの窓からしか、幸せは見えないの?」という問いかけに静かに逆らう・
違う。
本当は日常の中にささやかな幸せはあふれていて、でもそれにはなかなか気が付かないから、打ちひしがれたときに限って他人の幸せがやけに目について悲しくなる。
悲しいこともうれしいことも、本当は同じだけ起こっている。
そんなことに気が付いた時に、失ったものの大きさをふと改めて思い知る。
何かを期待して街に出てみると、街はいつも通りに穏やかに人が流れて、いい天気なのに、なんだか違って見えるのは、大事なあの人が今はもういないから。
「この街の中で僕を知る人は君以外にはいないのに」という歌詞がなんだかグッとくるのですね。
これも個人的な経験によるけど、今年は別れた人が多くてね。
私も何事もない年末を今年は迎えているのだけど、それはさておき。
思い出に浸っていると、触れ合うたびに彼女を発見していく喜びと、同時にそこはかとない不安が覆う。
正直何を謳っているのか今一明確にわからないのだけど、"不安の彫刻”てのは何だろうね。
ジャケットの謎の彫刻たちのことかな、と思いつつ。
穏やかで静かな曲とタイトルの不一致感がすごくて、幸せの裏返しってことかな、と思うけど。
色んな思念に駆られつつ、でも星空を目にして、何かを伝えたいけどまだ言葉にはならない。
まとまりそうでまとまらない、何を伝えたいのかは明確な感じなんだけど、なんて伝えていいかわからない。
だけど、わかってもらえるとうれしいな、みたいな"Tonight"。
佐々木さん作なので佐々木さんが歌っているが、謳い方が非常に優しい。
言葉がとまらないもどかしさに反して、どこかすっきりとした曲調がこれまでのもやもやを払い落してくれるよう。
そして最後は″Rerciever"。
結局何も解決していないし、何かが変わったわけでもない。
ただ、窓を開けたら空が広がっていて、外に出たくなった。
答えはまだだけど、外に出れば何かがある気がする。
良い事も嫌な事もあるだろうけど、結局前に進むためには行くしかないしね。
このバンドのポジティブさはこういうところに出てくるよね。
3部作を通して聴いた時にも、社会に大きな問題があって、自分の周りにも何か問題があって、自分の中にその本質はあったのかもしれない。
だからこそ、何かを変えるには自分で動き出さないといけないよね、という事がこの一連の作品を通しての一つのメッセージかな、と思うよね。
随分長ったらしく書いてしまったけど、これだけ考えさせられる歌詞ということですよ。
私の個人的な今の状況と鑑みても、いろいろと考えさせられるところがあったから余計に長くなってしまったけど、どんなに環境が変わっても結局世界は自分の中から始まっている。
自分の外にばかり期待するよりは、自分自身が変わっていく、変えていく方が大事だし、今求められるのはそういう気持ちなんじゃないかと思う。
社会にも他人にも選挙にも事件にも無関心なのに、他力本願な価値観がいかにも普通な事として蔓延している現代、結局それぞれの個人がどうするかだけなんだよね。
アナログフィッシュの好きなところが、個人的に勝手に解釈する余地もありつつ、でも曲だけで聞けばそんな面倒なこと考える必要のないポップソングとして響いてくる。
このアルバムも、全体のムードとしては少し暗いけど、″はなさない″"抱きしめて”なんかはt純粋に素朴なラブソングとして聞けるしね。
必ずしも共感する必要なんてないから、素直な耳で聴いてみてほしいアーティストですね。