まだ全てのアルバムは聴けていないけど、本当に素晴らしい歌を届けてくれる。
最初に聴いたのは最新アルバムでもある『Newclear』であった。
このアルバムに入っている”抱きしめて”が特に好きで買ったアルバムだけど、アルバム通して非常にいい曲ばかりだ。
歌詞のリアリティ、日常性、親近感、示唆性、文学性、訴求力、音楽としての機能性、全てにおいてこんなレベルの高いバンドが何故こんなにインディーズなのかがわからないくらい素晴らしい。
歌詞に込められたメッセージも表面的な意味合いも、いずれにも本当に素晴らしい。
温かくて、鋭くて、現代的でどこか懐かしい。
本当に素晴らしい音楽をやっているバンドだと思う。
そんなアナログフィッシュのメジャー1stはこの『KISS』というアルバム。
広義での愛のあふれる歌であふれている。
1曲目は”リー・ルード”。
彼等のロックンロール愛と世界愛があふれている。
疾走感もあるロックンロールだ。
続く”スピード”はアニメのタイアップにもなったこれまた理想的なまでのストレートなロックンロール。
タイトル通り面倒なしがらみを全て振り切ってひた走る爽快感が素晴らしい。
続く”Hello”は世界と対峙しようとするときの勇ましさと無力さを、それでも明るく決意表明のように歌った歌だと思う。
「狭い世界が笑う、巨大な僕の妄想、狭い世界が笑う、小さな僕の声」というラインからは、彼らのロックンロールが聴こえてくるようだ。
そこで静かでパーソナルな”いつの間にか”を鋏んで、一つのハイライトだと個人的には思っている”Town”である。
この曲は現在に至るも彼等の(というか下岡さんの)テーマである都会的な孤独感を見事に表現している。
町中を歩きながら孤独感に凍える青年が、遠くにいるであろう大切な誰かを思いつつ孤独感を抱えている様が目に浮かぶ。
毎日を必死に行きているのだけど、その中で必死に生きている姿がいかにも現代的だ。
この曲を聴いていると切なくて仕方ないね。
その後もいずれ劣らぬ名曲だけど、何よりこのアルバムのレベルをグッと押し上げているのは最後の2曲である。
佐々木さん作の”僕ったら”と下岡さん作の”ナイトライダー2”である。
前者はとにかく歌詞がすごく奇麗。
端的な言葉の中に刹那さがあふれている。
「恐らく末永く君に振れるその手、大切にしましょう。恐らく君が愛すこの顔で鮮やかに笑おう」という、間接的に相手を思う温かな気持ちの後に「僕ったら泣き出しそうさ」と続く。
愛しい、大切な相手はただ感情の変化の中で離れて行ったのか、あるいは何かよんどころない事情に夜かはわからないが、大切な何かを失った時の悲しさを見事に表現されている。
そして最後を飾る”ナイトライダー2”だが、この曲の素晴らしさはこれまで歌われてきた色々なしがらみや悩みや苦悩などを全て振り払うように夜の闇を突っ切る疾走感を歌詞で表現しているところが見事である。
曲のテンポは早い訳でもないし、派手なサビがあるわけでもない。
むしろ静かに、夜の高速道路の誰もいないパーキングエリアで一人決意を胸に固めて、ただひたすらにアクセルを踏み込むような、そんな力強さもある。
今まで言い訳のように気にしていた全てを振り払うようにただひたすらに加速し続ける。
曲そのもののBpmを上げて疾走感を表現する、ということは常套手段だしよくある話だけど、この曲はそれを歌詞の表現で行っているのがなにより素晴らしい。
色々な内的課題を疲労しつつ、最後は高速で走り去って先へと進んで行くような余韻を残してアルバムは終わる。
音楽的にもすごくポップで独自色のあるメロディ、歌詞も批評性もパーソナルな共感もあり言うことなし。
これがデビューアルバムというのだから恐れ入る。
こんな素晴らしい音楽をやっているバンドはそうそうない。
意味のない刹那的な感情をありふれた言葉で闇雲に歌っているだけの自称アーティストとは明らかに異なる音楽性。
これが本物のミュージシャンというものではないだろうか。
最近の作品はいささか社会性が強いため、聴く人によっては受け入れにくい人もいると思うけど、このアルバムはもっと素直に音楽として楽しめる要素が強い。
まあ、実際最新の『NewClear』も表現のレベルは明らかに高いので、普通のポップソングとしても十分楽しめるはずである。
このバンドがあまり知られていないという事実自体が音楽業界として意味不明だし、かといって本質とずれたところで売れてしまうのも非常に勿体ない。
これがインディーズと言うべき素晴らしいバンドである。
いや、ホント、さっきから胡散臭いくらいに絶賛しかしてないけど、国内外含めても本当に素晴らしいアーティストだと思う。
これが海外で売れるかといえばそんな事はないと思うけど、日本人として大事にすべき音楽はここにあると思えるね。