約9年ぶりにリリースされたLillies and Remainsの新作、これが凄まじく素晴らしい。
彼らは知る人ぞ知る日本のポストパンク系バンドの代表格にして、海外にも一定のファンベースを持っている実は国際的に活躍しているバンドでもある。
歌詞も英詞で、音楽的な特徴も立っているので、世界中の好事家の耳に触れたのだろう。
1stアルバムでは、どういう縁かVampire Weekendの人がリミックスを手がけていた。
尤も本人たちも、事務所の力か知らんがびっくりした、とインタビューで話していた。
それはともかく、デビュー当時から音楽性は確立されており、彼らが一躍注目されるきっかけになったのは2ndアルバム『TRANSPERSONAL』(2011年)だったようだが、私はリアルタムでは聴いていなかった。
しかし、当時毎月読んでいた音楽誌にレビューも掲載されていたね。
聴くようになったのはその2年後くらいだろうか、きっかけはBo Ningenからその手の日本のバンドを掘り下げていた時期があり、そこで出会ったのであった。
まさにJoy DivisionやDepech Modeあたりのバンドにドンハマりした後だったので、強烈に突き刺さってしまったて以降、私のフェイヴァリットバンドの一つになっている。
過去の曲についてはまとめたことがあるので、よかったらこちらを。
その後2014年リリースの『Romanticism』はリアルタイムで聴いており、ちょうどShaftでフジマキも活動を再開した頃だったので、たまたま色々と重なったのだけど、ともあれなんか一気に自分の中で目覚めたような瞬間だったね。
それからしばらくは彼らはライブはやるものの音源リリースは遠ざかっていた。
さらにコロナにもなったのでますます彼らの音沙汰がなかったわけだが、21年になってようやくシングル”Greatest View”"Falling"が2作同時リリースされ、ライブも開催。
アルバムに向けて曲作りもしているよ、なんて言われていたのでそりゃ楽しみにしていたものだが、なにゃかんや時間が経っていた。
それから約2年、新たなシングル”Neon Lights”がリリースされた。
この曲もまたリリーズ節前回で、前アルバムのロマンティックな雰囲気をまとっており、歌でなく間奏部分ではギターではなくカラフルなシンセ音が鳴っており、そこのフィーリングがたまらない1曲だ。
そして、この曲のリリースライブでアルバムリリースが解禁、それに合わせてツアーも発表された。
最高。
ちなみに、この曲のPVに出てくる街並みは普段割とよく行くエリアでも撮影されており、なんか勝手に嬉しくなった。
そしてようやくアルバムとしてリリースされたわけだが、期待値を裏切らないどころではなかった。
私にとって彼らの音楽は、独自の美意識はずっとあって、クールでドライで、ちょっとキザな感じというイメージであったのだけど、今作もそのイメージは持っているが、一方でこれまでのどのアルバムよりもポジティブなフィーリングを持っている。
それが驚いた。
力強さみたいなものもあるし、曲自体が全部ポップ。
まず1曲目のタイトル曲がイントロのギターから最高。
公式が発表しているPVでは、歌詞が対訳付きで見ることができるが、内容としては自分の現状のありようをふと顧みながら、なんでこんなふうになってしまったのかと言いつつも、そこから一歩踏み出していくようなものだと思っているのだけど、それを黄色の帯で解き放っていくイメージを重ねているのかなと。
構成自体はシンプルなバンドの演奏場面を軸にして、女優さんが徐々にメイクアップして最後は一緒にバンドで歌っている。
それと同時に画面の黄色の帯は全てなくなっていくのだけど、自分のしたいように生きようよ、ということなんだろう。
2曲目”Muted”は2ndアルバムのようなアグレッシブなギターが印象的な曲で、硬質な彼らを感じることができる。
かっこいい。
3曲目は先行シングルの”Neon Lights”、アルバムのこの並びで聴くとまたムードも変わって響くのだけど、流れ的にも素晴らしい。
4曲目”Everyone Goes Away In The End”、タイトルはなんか悲しいけど、それに反して曲自体はポップ。
歌詞をざっと見た感じだと、親切に見える男に対して、周りはどんどん離れてく、というような内容だと思うけど、これは真に親切な人ではなくて、ひょっとしたら余計なお世話を繰り返す、今の世の中のありようについてなのかなと感じる。
あるいは、万人に同じように接する人は、詰まるところ誰かの特別にはなれない、というちょっとした皮肉なのかなと思えるが、果たしてどちらか。
いずれにせよ、イントロからベースラインがめちゃくちゃかっこいい曲だ。
ちなみに、このアルバムではThe Novembersの高松さんがベースを弾いている。
続く"Facus On Your Breath"は、曲調はRomanticismに収録の”Recover”にちょっと似ている曲で、この手の爽やかメロも実はいい曲多いのがこのバンドだ。
この曲も歌詞も、現代社会的なあれこれを踏まえて、まずは今この瞬間を、自分自身をじっくり見つめて、そこから身近にいる人たちに、と少しだけ世界を広げてみて、というようなシンプルな内容。
顔も知らない訳の分からんやつに振り回されないで、という感じかなと思っている。
続く”Spinning Away”は、穏やかで讃美歌のようでもあり、彼らのキャリアでもちょっと変わり種の印象の曲だ。
と思ったらこの曲はBrian Enoのカバーなんですね。
歌詞の内容は少し遠くから街を眺めているような風景を描いているのかなと思うが、空を飛ぶ飛行機や、蚊柱、車が道を走る姿など、そんなものを見つめながら、自分が何を求めているのか分からなくて、風景が漠然としていくような様だろうか。
私もたまに電車の中でも街の中でも、ふと自分がそこから遊離するような感覚に襲われることがあるんだけど、そんな感覚なのかなと勝手に思っている。
カバー曲でありながら、アルバム全体のテーマとマッチしているように感じる。
7曲目は”Greatest View”、この順番で並んでいるとこれもまた響き方が変わる。
改めて歌詞も読んでみると、ちょっと悲しい曲なのかという印象だ。
ここが私の探していた場所、それは誰も説明することはできない、あなたも私を求めているとは思えない、なんて孤独の描写ではないかと思ってしまう。
最後には、もういいやと吐き捨てる。
最高の眺めというタイトルは皮肉なのか、読み違いなのか。
ただ曲のフィーリング的には皮肉っぽく吐き捨てるしかやり場がない寂しさや切なさみたいなものを個人的には感じる。
そして続くは”Falling”、イントロのシンセが美しい曲だが、思いの外ロマンティックな曲のようだ。
自分の望むままに生きていける、壁があっても乗り越えていける、なんて力強さが謳われているが、ある人が現れた瞬間にどうしようもなくなって、ただ落ちていってしまう。
恋の比喩は落ちると言われるが、そんな瞬間を歌ったのだろうか。
曲のフィーリングも80年代感満載で、歌詞と併せて聴いているとなんか夕暮れの中で惚けてしまう姿が浮かぶようだ。
9曲目”Pass Me By”は、カレイドスコープ的なシンセではなく、エレクロな風味満載で、ギターも絡んで冒頭からアグレッシブで早い曲だ。
今いる場所から発って、新しい場所で振り返らずに向かうような意思なのかな。
全て話すことないし、名前を聞かれても嘘をつく、なんて言うわけであるが、アグレッシブな曲調も含めてやっぱり決意表明のような曲なのかなと思っている。
10曲目の”Passive”は、もう死んだふりなんて止めた、俺は自分の生きる理由を見つけるよ、という感じの歌詞だと思う。
曲はとてもストレートで、疾走感もあり、タイトルは直訳すれば受け身だが、そうして周りに左右されるのではなく、自分で切り開いていくよ、というこちらもそんな心持ちだろうか。
そしてラスト”New Life”の歌詞も前の2曲と同じテーマで、色々悩んでぐるぐるしていた自分から脱却して、新しく生まれ変わっていく、というような内容だと思うが、注目すべきはアウトロで、1曲目”Superior”のイントロがリフレインされている。
こうして歌詞にも目を向けていると、タイトルにもなっている1曲目が一つの結論で、そこに至る過程というか葛藤を描いているアルバムなのかなと思った。
成長というとちょっとニュアンスが違うけど、自分を悩ませるあれこれを振り払いながら、そこから突き抜けていくというような。
タイトルのSuperiorの意味も、上位の、より優れた、というような意味で、昔スペリオールガンダムという、めちゃ強いキャラがいたなと思い出したが、ともあれもっと最高な自分になっていこうよという彼なりのメッセージなのかなと。
シングルはリリースされていたものの、アルバムとしてうまくまとまらなかったということをインタビューで答えていた記憶だが、やはりこの曲ができたことでアルバムの方向性が固まった、とのことなので、全体の流れについてはあながち外れていなさそうだ。
ただ、そこまでポジティブなメッセージ可動かは微妙かもしれないが。
ちなみに、淡々としているが下記がそのインタビュー。
ともあれ、とにかくアルバム全体として名曲揃い、捨て曲なしで何回もリピートしてしまう。
最近会社帰りにはずっとこのアルバムを聴いているんだけど、肉体的にも精神的にも疲れている時に聴くととてもポジティブにしてくれる。
リリーズの曲はどれも好きだけど、根っこは問答無用にかっこいいと思えるところだったけど、失礼ながらまさか彼らの作品でこういうパワーをもらうことになるとは思わなかった。
そういうタイプの音楽ではないから、個人的にもびっくりする経験だったんだけど、ともあれファンとしては嬉しい限りだ。
9月のツアーも楽しみでしかない。
もっと多くの人に発見されてほしいバンドの一つである。