今の若者にはわからないかもしれないが、かつて世の中にはCDというものがあり、その表紙のデザインをジャケットと呼んだのである。
音楽を包み込むデザイン、まさにその音楽性を表現しているという意味において極めて重要なアートワークである。
単なる名刺ではなく、そこにも明確な意図があるからこそ単なる音楽以上のアートとして存在感を増すわけだ。
有名女優を使ってアイキャッチ、という今時の手法はこのジャケットも今では広告の一つ、という認識の表れなのかもしれない。
しかし、そんなデザインのものを見ても果たしてその音楽を買おうを思うのだろうか。
昔はそんなジャケットデザインを見てなんとなく買って、それが新たな出会いになることがよくあったのだ。
と、いうわけで、私が持っている音楽の中で個人的に印象に残っているジャケットを幾つかご紹介。
冒頭のジャケットは日本の伝説のアングラパンクパンド、INUの唯一のアルバムのジャケットである。
でも何より黄色バックのど真ん中でこちらを睨みつけるこのアートワークが何より強烈である。
これは、買いなジャケットだ。
顔のアップで有名なのはやはりこちらだろう。
King Crimsonの1st、『宮殿』のジャケットである。
ちなみにこの絵を描いた作家は、このアルバムが発売されて間もなく亡くなってしまったとか。
このジャケットを見て手に取らない奴は、ロックじゃない。
顔をつかったアートワークでは、Aphex Twinもよく自身の顔をコラージュしたものを使用している。
これなんかは気持ち悪くて実にいい。
子供達がみんなリチャード・D・ジェームス。
ちなみにこの曲はPVも気持ち悪い。
コラージュシリーズでは、「Window Licker」というEPもよくて、そちらではスタイル抜群のビキニ女性の顔が彼になっている。
大人はそちらを買われてはいかがだろうか。
なお、そちらの曲のPVも気持ち悪い。
こんな悪意の塊のようなものもある一方で、個人的に好きなのはこちら。
2人ともちょっとだけ綺麗になっている。
これだけを見たら別になんということはないのだけど、彼らの顔やキャラクタを知っていると妙に可笑しくて仕方ないのである。
別にイケメンになっているわけではないけど、でもちょっと綺麗になっている。
このさじ加減が絶妙である。
タイトルも含めて考えると、ある意味ではちょっと皮肉的な意味合いもあるのかもしれないが、でもやっぱりなんとなく思いついてやってみただけかもしれない。
最近の特にJ-POPでは先にも言ったように、女優さんとかタレントとかを起用した広告宣伝物的なジャケットが多いが、もっとアーティスティックなものもたくさんある。
比較的最近のものだが、これなんかスタイリッシュで素敵である。
私も大好きなMaximo Parkの1stアルバム。
白地にモノクロで人物がいて、赤い太めのフォントで描かれるタイトルが非常にシンプルながら印象的で素晴らしい。
人物の絵も動いがあって、センスを感じるよね。
彼らはアート系の学校を出ているので、ジャケットなどは一貫しておしゃれである。
ちなみにこの1stの頃のシングルなども同一のコンセプトで作られているので、それを並べてみるだけでもインテリアにもなりうる。
素敵。
有名絵画のオマージュではこんなものも。
マグリットのLoversをモチーフにしたと思われる作品だが、そこはかとない不気味さがなんとも印象的だ。
ちなみにこのジャケットはヒプノシスのもの。
ヒプノシスを知らない奴はロックを最初からやり直せ。
アート系との共振という意味では、多くの人が知っているであろうこちら。
Andy WarholによるVelvet Undergroundの1st。
当時レコード盤では、バナナの皮がむけるような仕様になっていたようで、非常に凝っている。
街中でこのバナナTを着ている人がしばしばいるが、彼らの一体どれだけがヴェルヴェッツを聞いたことがあるのか。
まあ、曲は退廃的という言葉がまさにしっくりくるダウナーな世界だが、裏のビートルズと言われるほど現代のアーティストに与えた影響も計り知れない。
聴け。
"Your Mirror"なんかは非常に美しい曲だしね。
直近ではこのジャケットもかっこよかった。
D.A.Nのデビュー盤。
シンプルでその音楽のイメージともばっちりあっていて、素晴らしいと思う。
絶対聞いた方がいいよ。
ぼんやりしたイメージ的なジャケットでは、Nine Inch Nialsのジャケットも好きだな。
このアルバムの音楽とこのジャケットも素晴らしくリンクしている。
面白いものだよ、こういうトータルな表現というものは。
このイメージに惹かれた人なら、音楽も聴いてみる価値はあるだろう。
最後はこちら。
Joy Divisionの2ndにしてラストアルバム『Closer』。
バンドの行く末まで予見させるようなジャケットは、ある意味究極である。
もはや魔法でもかかっていたのではないかと本当に思えてくる。
もしこのジャケットにひかれる人があれば、このアルバムについては聞かない方がいいかもしれない。
と、極一部を並べてみたけど、実際アートワークでピンとくるものはその音楽自体にもピンとくる可能性は高いと思う。
意味のない宣伝物ではなくて、世界観も含めて音楽を補完するのがジャケットの役割なので、そこに興味を持てるなら、ぜひ手に取ってみて欲しいですね。
伊達にジャケ買いなる言葉があるわけではない。
この3連休、特にやることがないな、という方は近所のCD屋へ出かけてみて、こうしたものを眺めるのも存外楽しいものである。
まあ、ギークな趣味だけど。