ネットの発達というのは今更ながらに素晴らしく、また配送網もしっかりと確立された現代においては表現者と呼ばれる人にとってはその表現の場が容易に得られる世の中である。
もちろんそこから見つけられることは容易ではないのだけど、既得権益のようなものがどんどん瓦解していく様は若い世代にとってはチャンスでしかないだろう。
もっとも若い世代だけでなく、これまでオルタナティブな世界にいた人たちが見つけられる機会も増えるから、それは素晴らしい事態だろう。
まぁ、裏側では今度は別の権益が生まれるわけだから、ポジティブばかりではない側面も確かにあるが、何も変わらないよりは遥かにマシだ。
世界はまたこれから作られていく。
最近ではベテランと呼ばれるアーティストも配信ライブをやったらYouTubeをやったりと、活動を着々と最適化している。
他方でそうでもない人もいるんだけど、そのそうでもない方の一つがmooolsだろうか。
YouTubeでもポツポツとライブ映像が上がってはいるが、そんなに数は多くないし、殆どがファンのあげたものだ。
このコロナ間でもたまに現場ライブはやっていたが、配信は皆無だったろう。
まぁ、メンバーの一人が育休だったかを取っていたので、タイミング的にはちょうど良かったかもしれないが、やはり少し寂しいものがあった。
そんな彼らは今日久しぶりのイベントでのライブのはずが、この状況を鑑みてか休止に。
しかし、嬉しいことに無観客で開催し、それを配信することにしたらしい。
夜酒でも飲みながら楽しもう。
そんなmooolsは酒井さんという人がほぼ全曲作っており、音的には90年代のUSインディと共振するようなオルタナサウンドだ。
他方で評価が高いのが独特の歌詞。
ふざけているだけとしか思えないものもあるが、非常に詩的な歌詞を書く。
かなりエモいものもたくさんあり、曲と相まってとても素晴らしい。
詩集も出てるしね。
そんな酒井さんが満を辞してソロを発表。
The Juicy Looksという名義で、これまでライブなどで余興的に演奏されていた曲だったり、なんとなく思いついたのかなというものだったりを集めた作品を作ったのだが、建て付けとしては音源付きTシャツ。
なんじゃそりゃ?
付録のCDには歌詞カードはないが、インナーには曲をSNSなどで拡散して何かあっても知りませんよ、と半ば冗談みたいな添え書きがあるのだけど、内容を聞けばなるほどひょっとしてこの形態でリリースした背景もこういうことかしら?と推察するところもあるが、ここではあえていうまい。
ともあれ1曲1分半くらい、いずれもラフな録音で、大喜利みたいに思いついたことをポコポコと録音したようなそんな小品集となっている。
歌詞にも意味があるのかないのか、おそらくないであろう不可思議な世界を展開している。
ひとまず一聴した感想としては、楽しんでるなということ。
プリンセスプリンセスのパロディ?的な”プリンセスとプリンセスの対話”などは、「ダイヤモンドだね、そうだね。堅いものといえば、ダイヤモンドだね〜」と、婆さんの会話としか思えない脱力なやりとりが展開されている。
なんの意味もない世界だ。
個人的には”ウィンウィン音頭”は、かつてSNSでライブ現場の映像で拡散されたことがあり好きな曲だが、その他の曲も実に深いんだか意味ないんだかわからない曲満載だ。
全34曲。
中にはfeat.もあるのだけど、ちょいちょい音楽的にも遊んでいるのが面白い。
まるで四畳半フォークのような熱量の演奏をヴォーカルで何も言っていない”来客用のスリッパ”とかね。
おそらく普段J-POPとかしか聴かない人だけでなく、真摯だと言われるアーティストを聴く人からすれば、最初から最後まで意味不明な作品だろう。
その意味では、こうしてTシャツと抱き合わせでリリースされた形も却って幸福だったのではないだろうか。
あくまでこの音楽は、やっている人たちが面白がっている様を面白がることが一番の価値だろう。
Tシャツリリース記念イベントも開催されるということで、とりあえず予約しておいた。
メッセージ性の高い音楽も好きだけど、こういうただ楽しんでいるだけの音楽ってこれはこれで面白いんだよね。
そもそもジャケットも酒井さんの七五三の写真だという。
このあたりのセンスが酒井さんらしくていい。
肩の力なんて入り用もないこんな音楽も、たまにはおすすめである。
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