先駆者という奴はやっぱり偉大である。
仁和寺の法師も言っているが、そうして先達があれば自分の行くべき場所を教えてくれる訳である。
素敵じゃない。
別に今いる奴らがみんなそうだ、という訳ではないけど、ニューウェイヴリバイバルという一つの流れの最先端にいたのは、間違いなくThe Faintであろう。
たってリアルタイムでは聴いてなく、昨年ようやく追いつくことができたんだけど。
過去の作品もやっとこすべて手に入れて、今はそれらをじっくりと聴いている。
さすがのメロディセンスも光るし、2nd以降のエレクトロニクスの導入はやはりこのバンドを全く違うものに変えているのがよくわかる。
これはもはや必然である。
そんな彼らの出生作は、なんといっても「Danse Macabre」である。
このアルバムが発売された2001年当時といえば、形骸化したヘヴィロックと大衆向きのメランコリックな大作ものが全盛であったろう。
そんな中でこのアルバムのもつ音楽性は、同時代的にはかなり異質であったに違いない。
そうした音楽性が隆盛極めるのは2004年以降である。
そこを通過した耳には、そうした音楽群として括ることもできるが、逆にこれがそんなに前にできていたことがすごいと思う。
今聴いても圧倒的にかっこいい。
曲もメロディも歌詞もアレンジも、最高。
まず1曲目の"Agenda Suicide"からもう最高。
ベースから入ってドラムが入って電子音が入ってギターが入る。
イントロだけでも鳥肌ものである。
歌詞のモチーフは現代社会における労働者という立場に対するやり切れなさ、みたいな感じかな。
働いて働いて、小さな家を建てることがいかにも幸せで理想的であるかのような一つの幻想。
"Agenda Suicide"とは、計画された自殺、となる訳であるが、なんだか社会というもの姿を浮かび上がらせるようである。
ちなみにこの曲のPVでは、サラリーマンの通勤風景が描かれており、満員電車に揺られて仕事に通う毎日の中で、ついに電車に身を投げる、という結末を迎える。
年末、年度末は本当に電車の人身事故が多くてね。
その度に電車は遅れるんだけど、そういう状況に遭遇する度に婚曲のPVが頭をよぎる。
どんな感情が籠っていても、結局彼の死は舌打ちでしか迎えられないだろう。
ちなみに、昨年の来日のときはこの曲から始まった。
場内が暗転した瞬間にあのイントロが流れ出しただけで一気に会場のテンションが爆発したのをよく覚えている。
しかも、ライヴだと少しアレンジが変わっており、サビのブレイクのところでドラムが乱打され、その音に合わせて照明が瞬く演出も伴って、あれはめちゃくちゃかっこ良かった。
2曲目"Glass Dance"は、かなりフロア映えのする曲で、サビといえるような部分はつまみのうねるような音が奏でる。
ヴァースの部分はかなり静かなため、その対比が非常に鮮やかな曲である。
喧噪の中での行き場のなさのようなフィーリングであろうか。
「乳児はダンスしようとする、成長して、そして死ぬまでの間」というラインが非常に印象的である。
めくるめく回り続ける世界の中で、人は踊り踊らされ一生を終える。
それを振り返るときの虚しさを感じるくらいなら、いっそ一行で語り尽くせるくらい簡略化されてしまう方が良いのに、ていう感じかな。
ちなみにこの曲はライヴでも最後の方で演奏されることも多いようだ。
ロックバンドのくせにダンスアクトのような盛り上がりをする、その代表的な曲でもあるだろう。
3曲目"Total Job"は、いまでいうセレブレティというものについての歌かな。
批判的というよりは、むしろ社会の中で地位が高いとされる職業への羨望のような感情と同時に、「金銭的な成功はなし、完全なる仕事をするためには」と言った具合に、それでも満足できない人生の虚しさ、という風に思える。
この曲は曲調も地を這うような感じで、暗いという訳ではないが、一方で水面下であがくような苦しさもあるように感じられる。
続く"Let the Poison Spill from Your Throat"は、歌詞はかなりしっくり来るものはある。
個人的にね。
建前であったり、それに対する本音であったり、それを社会の中で放出してしまうことの意味であったり、そういったことが唄われているのだろう。
この曲は曲調は非常にポップでアッパーなんだけど、その裏側には悪意ではないけどそれに似たニュアンスの皮肉めいた感情が見え隠れする。
彼らの楽曲の特徴である独特のダークなフィーリングはそう宇土頃に由来するように思う
そして5曲目"Your Retro Career Melted"は、アルバムのピークの一つ。
非常に断片的な言葉で紡いだような詞なので、その意味するところは結構難しいんだけど、タイトルからして「昔俺はすごかった」とかいいたい奴に対する皮肉めいた感じかなと思う。
現在の姿を見るにつけ、およそリアリティのない与太話をし続けてしまう、いわゆる過去の人をマネキンに例えて、そうしていつまでも過去にすがるしかない姿の虚しさを表しているのだろう。
「破片は即座に組み立てられる」というラインが良いね。
続く"Pose to Death"は、特にサビというサビのない曲。
その部分はずっとコーラスのような声のみ。
死んだ振り、とでも訳せば良さそうなタイトルであるが、クライマックスは濁して、そこに至る家庭を鮮明に描写したような曲で、すこし物語タッチな内容である。
そして"The Conductor"は、まさにニューウェイヴを彷彿させるリズムの曲である。
彼らの曲の中でDepech Modeの影響を強く感じさせる。
この曲の詞はかなり異質な感じである。
或るオーケストラの指揮者の姿を描写したような歌詞で、[Control]という言葉が非常に印象的である。
非常に情景描写が鮮やかであるが、この歌詞は一体何を意味しているのか、正直まだ全然解釈できてないので、もう少し考えてみます。
曲は文句なくかっこ良く、詞のないように合致するように嵐の吹き荒れるような展開は、ハイライトである。
8曲目"Violent"は町にあふれる暴力を、ある一人の青年の視点から描いている。
ダウンタウンにいってもアップタウンにいっても、どこにいっても暴力はあふれていて、しかもその被害者になるのは女子供という弱い連中ばかり。
奇妙に静かな展開と、終盤の強烈な変調が何ともいえないかっこよさを出している。
でもその展開が、ものすごく不安感をもあおってくるようで。
詞の内容は結構怖いのですよ。
そしてラストの"Ballad of a Paralysed Citizen"は、非常にやるせない内容の歌詞である。
ある正義感をもった青年が、その正義感故にとんでもない目に遭い、精神を砕かれてしまうというもの。
プールで子供が溺れていた。
その場に偶然居合わせた「僕」は、必死にもがき苦しむ様の子供助けるべく即座に飛び込んだ。
しかし、そのプールは浅い子供用、この子は溺れた振りをしていただけ。
浅いプールに必死に飛び込んだ「僕」は、プールの底に叩き付けられ、背骨がくだけ、半身不随になってしまう。
傍目から見れば、はっきり言って馬鹿な話で、ギャグのようなものである。
しかし、彼は本気で子供が溺れていると思い、必死の思いで飛び込んだのである。
もし彼が正義感など持ち合わせていなければ、こんなことにはならなかった。
しかも、彼のこのけがは、完全な犬死にのようなものである。
誰よりも後悔し、やり切れなさを感じ、ばかばかしいと感じているのは彼自身である。
その早合点のせいで、その子の家族にまで余計な迷惑をかけるはめになってしまった。
彼は悪くない、むしろ賞賛されるべき精神なのに、結果はただの間抜けである。
今の社会というのは、しばしばそういう風潮がある。
風潮というよりは、システムというべきかもしれないけど。
いわゆる正直者が馬鹿を見る、というかな。
もちろん詞の内容は極端ではあるが、ある種の正しさを信じて行動するものを落胆させるあり方が多いのである。
誰もが「その考えは正しい」と認めているのに、それを実行した瞬間「お前は馬鹿か」といわれる不条理さ、というかな。
そういう場面のやるせなさが曲にも現れていて、重たい内容である。
これを最後に持ってくるあたりが、このアルバムがより内容的にも機能的にも優れたものにしているといえよう。
このアルバム通じて、社会というシステム、構造の中にしばしば現れる不条理感、それに直面したときの無情感や無力感と言ったフィーリングが強い。
アルバムタイトルを直訳すると「死の舞踏」となる。
生けとし生きるものすべては、死に向かっている。
その死を迎えるまでに、一体何をするか。
それが人生であり、生物のしての一生である。
そういう人生観を前提としながらこのアルバムの歌詞を読むと、社会というシステムのなかでその一生を一生懸命過ごそうとするときにぶち当たる一個の存在としての虚しさのようなものを感じるね。
特筆すべきなのは、どこか客観的に描かれていること。
特に感情はないんだよね。
まあないってこともないんだけど、単に観察結果を記したようなタッチであるので、それが乾いた世界観を与えて、それ故に却って誰でもコネクトしやすいようにもなっていると思う。
ただ、歌をあえて楽器の一部としてとらえてしまえば、音楽としての機能性はメチャクチャに高い。
特に英語の堪能でない日本人からすれば、この曲を聴いたら踊らない訳にはいかない、そんな曲である。
本当に、コンセプトから何から本当によくできたアルバムである。
9曲とトラック数も少なく、時間も多分30分ちょっとであろう。
その短い中にこれだけの要素を詰め込みつつ、しかも何度も聴きたくなるような構造も秀逸である。
発売当時、世界に衝撃を与えたという理由もうなずけるであろう。
同時にかのNINがリミックスを依頼する気持ちもなるほどと思う。
なんのかんの言っても、彼らのキャリアの中では、このアルバムがダントツに最高傑作であろう。
もちろん他のアルバムも大好きだし、まあどれもかなりクオリティは高いんだけど、トータルな完成度でいえば、これにしくはない。
音楽性の好みはあるから、嫌いな人は嫌いかもしれないけど、一回は聴いてみてほしいな、と思う。
こいつらは、本ものだよ。