「本当のことを言って欲しい」「腹を割って話そうぜ」「なんでも言い合える関係になりたい」なんて言葉は世の中にありふれているし、それが人間関係においては極めて大きな価値であると思われている。
それはある面では事実だと思うし、そうであれば本質的な信頼関係に繋がるだろうけど、反面決定的な亀裂にも繋がる可能性のあることでもあるはずである。
心理学用語に自己開示というものがあるが、要するに自分について人に伝えることをいうわけだけど、ある実験では自己開示はする側よりもされる側に大きなストレス(必ずしもネガティブな意味ではなくて、心理的負荷という意味で)があるという結果が出ている。
つまり、受け止める側の器量がものすごく問われるのである。
実際、開示した側からすれば、期待する反応って否定でも肯定でも是正でも共感でもなくて、ただ受け止めてくれれたら嬉しいという場合が多い。
この手の自己開示を受ける側の大きな勘違いだと思っていることの一つが、相手は共感して欲しいんだと思っている点である。
共感って相手のことじゃなくて自分のことだから、「わかるぅ〜」とか言われた瞬間にその話題の中心が相手ではなく自分に行っていることを忘れてはいけない。
自分ごと化の表明っていう意味で、相手の話を促すための自覚的な表現として使うのであればそれは否定しないけど、その次の瞬間「私も〜」と語り出すのは、その瞬間に相手の話を聴いていないことになるので、相手の自己開示を切っていることになる。
とはいえ、そうした反応をする人が常に自分のことだけを考えているわけではなくて、先に書いたように自己開示は受ける側の方がストレスが大きいから、せめて開示者の気持ちに答えたい、でも自分の理解が相手の伝えたいことに適っているかわからない、そういう不安から答え合わせ的に話している可能性もあるので、全部を否定するような話でももちろんないんだけどね。
私は基本的に自分を語るということが得意ではない。
このブログでは、音楽的なトピックを介して色々と書いてはいるけど、普段この手のことを人と話すことは滅多にない。
理由は、ある時期の経験から、自分の言っていることをちゃんと理解してくれる人、もしくはせめて理解しようとしてくれる人は世の中にはあまりいないと思っているし、むしろ面倒臭がられるだけだと思っているからである。
私なりに真面目に、正直に話したつもりでも、相手にしてみれば本当のことかわからないと言われることはいまだに多い。
照れ隠し的に表現することは私自身の問題かもしれないが、それにしてもなぜこうも誰の口からも同じことを言われるのかが不思議で仕方ない。
ただ、最近解ったのはそういうことをいう人は、本質的にその人自身があまり人に興味のない人である場合が多い。
私がこのブログで音楽を一つのトピックに書いていることの一つは、結局自分語りでもある。
半分は自分のなかの考えとか価値観の整理という側面もあって、人に話せない分ここで発散している側面がある。
そんな私が好んで聴いているポッドキャストが、Sportifyで連載されているPoplife Podcastという番組である。
悪評も多い音楽評論家、田中宗一郎とモデルをやっているという三原勇希さんがホストで、ゲストを読んでポップカルチャーを軸にフリートークを繰り広げている。
ちなみについタナソーを初めに書いたが、番組タイトルは三原勇希さんが頭にきている。
私もこの番組は割と初期から聴いているんだけど、特にこの三原勇希さんがとてもいい。
見た目に綺麗な子なんだけど、良い意味で変な気を使わないし、率直にものをいうのもいいし、かと言って相手は否定しないし、まずは相手の話を聴くという感じが、聴いていて実にいい。
そうした単純な耳心地だけでなくて、内容的にも面白い。
出演者の人は結構率直にいうし、強めの意見もいう。
相手のいうことに反論もするし、そうじゃないと思うということもある。
しかし、とてもいいなと思うのは、まず相手を否定しないことである。
そうじゃないと思うという時も、相手のことを間違っていると指摘するわけではなくて、私はこう思ったんだけど、という視点で話すので、ちゃんと議論になるのである。
議論ではあるけどディベートではないから、相手を打ち負かすようなことはしないし、過剰に共感パーティになるわけでもない。
ただいろんな、それぞれの視点が文化という側面から提示されていて、それがいい。
そうした議論の中で、図らずも浮かび上がってくる構造みたいなものもあるがそれに対しても自己批判的な回もある。
登場するのも、タナソー周辺の人が多いので宇野維正さん、柴那典さんなどの音楽ライターや、過去はYogee New Waves、シャムキャッツのメンバー、Superorganismのオロノなどのミュージシャン、さらに三原さんつながりのあっこゴリラや長井優希乃さんという人など、ちょっととんがった人たちなので、単純に彼らの価値観を垣間見るだけでも面白い。
テーマは映画、音楽、漫画など様々なだけど、トピックは政治、社会問題、差別問題、LGBTQなど全てに及んでいくわけだけど、そうした全てのものから受けている影響も見えてくるし、人の価値観がどうやって形成されているのかが浮かび上がってくるのが非常に興味深い。
お互いに仲がいいとはいえ、時に意見がぶつかることもあるけど、彼らの仲がそれで違うことはないのは、とても幸福な関係性だと思う。
彼らは、お互いが違うということを前提にしているし、だから無理な共感よりも受け入れるというスタンスだからだろう。
音楽や映画でもそうだけど、人によって好きなものも表現も違うのは、受け取る側の人が違うからに他ならない。
自分自身の価値観を見る鏡みたいな側面もあるので、そうした文化、人文科学的なものに興味のある人にはおすすめの番組である。