音楽放談 pt.2

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今こそNine Inch Nailsを聴け(後編)ーNine Inch Nails

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彼に一体何があったのか、誰しもつい訝しがってしまうのは彼の見た目を見れば仕方のないことだ。
 
90年代、暗黒王子と呼ばれていた細身で長髪、やや病的ながら鬼才という言葉のしっくり来る見た目だったのが、いつのまにかマッチョな短髪、髭面もすっかり板につくようになる2000年以降のTrent Reznorである。

 

少しだけその頃をおさらいすると、『The Fragile』はビルボードチャートでも初登場1位を記録し、その期待値の高さをうかがわせた一歩で、翌週には急落するという結果に終わった。

 

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リリースは1999年なんだけど、当時はいわゆるラップメタル全盛の時代、Limp Bizkidを筆頭に80年代のヘアメタルのようにいわゆる産業的な音楽が幅を利かせ始めたころだった。

 
音楽性の源流はRage Against The Machineだが、彼らから精神を抜き取って音だけを拝借したそれらは、今に至るも流行以上には語られないが、とはいえ今の30代くらいならかなり夢中になった人も多いだろう。
 
そんなチャートアクションもあり、トレント自身も薬物などの影響やその他精神的にも疲れていたためか、しばらく活動休止状態に入る。
 
私が聴き始めたのはその落ちついたすぐ後くらいのタイミングだったんだけど、その当時はすでにNINとしては活動しない、なんて話もまことしやかに囁かれていた。
 
余談だけど、当時すでにインターネットはあったけど、容量も今と比べ物にならないレベルのデスクトップPCであったな。
 
スペック的にはスマホにもはるかに及ばないレベルで、まだUSBもなかった気がする。
 
時代は流れたね。
 

■ターニングポイント、4th『With Teeth』(2005年)

さて、そうして時間が流れた2005年、6年ぶりとなるオリジナルアルバム『With Teeth』がリリースされた。
 
この頃はすでにStrokesが世に出て、ロックンロールリバイバルという価値観が世間を席巻している頃で、同時に80年代のポストパンクを参照したFranz Ferdinand なども1stがバカ売れしていた。
 
また一方ではDFAを中心とするディスコパンクと呼ばれるような音楽も注目も集めており、インディーという価値観が大きな力を持ってきているころだった。
 
2000年にリリースされたRadioheadの『Kid A』の影響も大きく、大きな変革を迎えていた時期だろう。
 
『With Teeth』はDFA的な音楽にインスパイアされて、それをNINに落とし込んだような作風で、それまでのイメージから少し距離を置いたすっきりとした楽曲になっていた。
 
素直にロック的な方向が軸になっているようで、この頃にはすっかりインダストリアルという言葉は彼の音楽を評価する言葉としてはあまりに一面的なものになっていた。
 
しかし、何より驚いたのはその音楽の向いているベクトルというか、歌詞のテーマである。
 
久しぶりにリリースされた曲はこれだった。
 
「飼い主の手に噛み付くのか、傅くのか」と迫る"The Hand That Feeds"のアグレッシブさ。
 
音的なところでは、こんなに縦ノリなNINはなかなかないし、何より言葉が外に向かっている。
 
ちょうどブッシュ政権が世界的に批判を浴びており、同時に9.11のテロも経ている頃である。
 
1人のアメリカ人として、という視点で作られた曲たちは、力強さとこれまでにはなかったメッセージ性まで帯びており、そこに何よりの変化を感じるところであった。
 
このアルバムは割とインダストリアル的な曲もあるのだけど、それよりも耳を引くのはそれ以外の抜けのいい曲とトレントのヴォーカルである。
 
アルバムラスト前のこの曲"Beside You In Time"。
 
そこはかとなくトンネルの向こう側へ抜けていくような前向きさを感じさせる1曲である。
 
当時のライブでは壁をぶち破るような演出もされていた。
 
何よりこの頃のトレント、すでにマッチョである。
 
この歳サマーソニックで来日をしているんだけど、彼がステージに現れた瞬間の会場中が一瞬「誰?」と目を疑ったのは今でもいい思い出である。
 

■表現の変化、5thアルバム『Year Zero』(2007年)

これ以降の音楽活動はしばらく政治的なメッセージを放ちながら、表現という意味でもより多面的になっていく。
 
音楽のみでなくインターネットやライブ会場でさまざまな仕掛けを行ってゲーム的な体験を提供するという試みも。
 
その中心にしたアルバムが『Year Zero』である。
 
先行リリースされた"Survivallism"、変則的なリズムに歌のメロディもだいぶ様変わりした曲である。
 
このアルバムは、主にトレントが当時見つけた音楽ソフトで制作されたため、打ち込みの強いアルバムである。
 
このアルバムはインダストリアル的な要素の多い曲が多数なんだけど、メッセージ含めわかりやすいのはこの曲”Capital G”であろう。
 
ラップっぽい歌い方ながら、サビではNINらしいメロディーの曲である。
 
ちなみにこのアルバムはリリース前に高音質でストリーミングで視聴できるようになっていて、そうした試みは当時まだ珍しかったはずである。
 
またCDのディスクも特殊な加工がしてあって、もともと真っ黒なんだけど、聴き終わってディスクを取り出すと真っ白になっているという仕様。
 
熱に反応するものなので、夏場はずっと白いという事態が起きていたが。
 
また歌詞カード始め、そこかしこにURLが隠れており、それを叩くとある暗号のようなものが提示され、次のヒントを探していくようなオリエンテーリングのような仕掛けをしていた。
 
リリース当時はそのアグレッシブでわかりやすい音楽に素直に喜んだけど、トレント自身音楽を本質においていないというか、それも含めたトータルな表現としていたこともあってか、このアルバムは個人的にはそんなに好きではない。
 
とはいえ、ますます元気な頃である。
 
ちなみに、この時のツアーメンバーのベースはマリリン・マンソンのツィッギー・ラミレズことジョーディー・ホワイトであった。
 

■趣味全開か、6th、7th『Ghost』『The Slip』(2008年)

『Year Zero』『With Teeth』から2年でリリースされたが、その後『Ghost』『The Slip』はなんとどちらも翌年にリリースされている。
 
ただ、『Ghost』は全編インストのアンビエントな作品で、この当時のトレントにしては純粋に趣味で作ったアルバムである。
 
Aphex Twinも大好きだったので、「こんなアルバムを作りたかった」と言っていたのだけど、このアルバムが今に至る彼の音楽性の一つの基盤になっていると言っていいだろう。
 
リリース当時は正直あまりピンとこなかったが、今にして聴いてみるとめちゃくちゃいい。
 
アンビエントな曲が主体ながら絶妙なギターがいいアクセントになっているし、2枚組と長いが気になるどころかもっとほしくなってしまう。
 
 
一方の『The Slip』は『Year Zero』の延長的な音で、40分ほどの短尺、かつほぼファンサービス的な1枚だろう。
 
先行シングルになった"Disipline"はNINのポップな要素をぎゅっと凝縮したような曲で、展開含めてある意味では一区切りにはぴったりな曲である。
 
このアルバムは無料で配られ、メディアはシリアル番号を入れて数量限定で販売されていた。
 
クオリティという意味ではさすがなんだけど、一方で彼らしくなく目新しさや新鮮さはない作品になっていると個人的には思っている。
 
 

■サントラ職人、『Spcial Network』(2010年)

このアルバム以降は機材も売り払って、トレント自身ソロワークが多くなり、その間に映画スコアでアカデミー賞を受賞するくらい成功を収める。
 
 
この頃は『Ghost』的なアンビエントトラックに生楽器を載せるというスタイルが軸になっている。
 
その後も『Girl With The Dragon Tattoo』『Gone Girl』など、David Fincher監督作品を中心に複数作品で担当し、評価を確固たるものに。
 
音楽制作以外では、アップルミュージックの開発に携わったり、多方面に渡って活動をの幅を広げている。
 
また結婚もして、その嫁とサントラワークで意気投合したAttika Rossとのバンド、How To Destroy Angelを始動。
Roxy Musicのカバーらしいが、これはこれで新しいトレントの音楽の萌芽が見て取れて、個人的にはアルバムもよかったし、結構自作も楽しみにしていたんだけど、結局短期間の活動で幕を閉じた。
 
しかし、ツアーで来日した時に3曲だけだけどそのライブが観れたのはとても嬉しかったね。
 
嫁を気遣うトレントが素敵だったな。
 
丸くなりやがって。
 

■キャリア更新、8th 『Hesitation Marks』(2013年)

そしてアルバムとしては目下最新作『Hesitation Marks』ではすっかり新しいNINを見せており、素晴らしいアルバムだった。
 
彼のキャリアを総ざらいしたような楽曲は、素直によかったね。
 
全体的には堅牢な構築性よりもファンク的な肉体性が心地よい感じで、ヴォーカルもしっかり歌っているしトレント自信が楽しんでいることが伝わってくるようなアルバムであった。
 
この年フジロックでの来日もあったんだけど、当時まだリリース前だったこのアルバムの"Copy Of A"で始まったあの大雨のライブ、今でも鮮明に覚えているくらいすばらしかったね。
 
いやあ、久しぶりに馬鹿みたいにはしゃいだ記憶だ。
 
とはいえ、ファンからするとかつての彼の音楽とはだいぶかけ離れた作品だけに、賛否はあっただろうな。
 
音楽的な完成度は随一ながら、この頃からますます離れたファンも少なくなかっただろう。
 
 

■止まらない3部作、『Not The Acutual Event』『Add Violence』『Bad Witch』(2017-2018年)

その後3枚組のEPをリリースしており、目下最新作はこちらになっている。
 
ロック色が強めな『Not The Acutual Events』、エレポップ+ノイズな『Add Violence』、ファンク色強めな『bad Witch』と大まかな印象で括ればこんな感じだが、もちろんその限りではない。
 
『Add Violence』収録の"Less Than”、エレポップ的な色の強いアレンジだけど、メロディが近年のNINのそれである。
 
3部作では随一ポップな曲を含むEPだが、ラストは10分近い、嫌がらせかとおもわせるノイズを展開するあたり、根本のひねくれ具合は変わっていないのだろう。
 
特に『Bad Witch』ではこれまでとはまた少し違う音楽も見せており、彼の創作意欲が全く枯れていないことが嬉しい限りだ。
 
2018年にはソニックマニアでの来日もあったわけだが、カッコ良かった。
 
すっかりサントラワークも板について忙しくしているのだけど、またNine Inch Nailsとしてのアルバムも期待したいし、やっぱり単独を見たいよね。
 
 
90年代組が何組も活動のペースを落としたり、あっちこっちしている間に彼はすっかり音楽家としても裏方としても評価を確固たるものにしており、ひょっとしたらオルタナ世代では一番の成功者かもしれないね。
 
相変わらず若手バンドにも毒づいて見せるあたりは少し大人気ない気もするが、まあ人間なんてそんなに変わらないし、それでこそトレントだ。
 
面白いなと思うのはNirvanaは多くのフォロワーを生んだし、多くのバンドは腐るほど類似バンドが生まれたけど、NINについては明確なフォロワーはほとんどいない気がする。
 
例えばインダストリアルという言葉の中で参照点とはされるけど、NINみたいなバンドは意外といない。
 
多分理由としては、トレントはエポックメイキングなアーティストというよりは、発展させていくタイプのアーティストだから、いわば職人的な仕事が多いから、真似しようと思っても難しいのかもしれないね。
 
ともあれ、ここ最近Sr. VincentやThe Horrorsが参照点にあげるなど、改めて注目されるタイミングだろう。
 
結構濃度高めな音楽だし、そもそもコアな音楽ではあるが、是非改めて聞いて欲しい音楽である。