冬にもなればいい加減バリバリなハードコアよりはしっとりとした曲に耳を傾けたくなるのが人情というものであろう。
冬は物理的にも音が遠くへ届きにくく、また寒さで人も内の中に引きこもるため、静かな季節である。
学生の時分には、わざわざ寒空の下あったかい缶コーヒーなんぞをすすりながら、人気のない昼下がりの大学の中庭にて時間を過ごすのが常であった。
そんな風情が懐かしい今日この頃である。
それはともかく、そうして静かな季節であっても、まあ私バリバリなのも好きですから、そういうのも聴きますわね。
逆にそう言う音楽を聴いて血液の流れを良くして、体温を温めようという寸法である。
時代はエコロジー、出来る限り暖房器具のお世話にならない工夫は大事である。
で、まあ一言にバリバリといってもその内訳は多様を極めるわけであるが、誰にでもイメージしやすいであろうバンドといえば、ご存知モダンメタルの最高峰、Slipknotである。
グロテスクなマスクが目印の爆音集団、今年は新譜も出して来日も果たして、更には目覚ましテレビにまで取り上げられたので、一般層への認知度もいささか高まったのではないだろうか。
あんまり詳しくはないけど、たしか2000年ごろがデビューだよね。
当時はラップメタルやへヴィロックが完全に形骸化しており、ロックが半分以上死んでいたような時代といわれている。
メタルに関しても、音の密度や激しさは増すけど、核に何もないからただ暴れたい奴の行進曲が量産されていたことであろう(適当に言ってます)。
まあある程度煮詰まってしまった感はあったんだと思う。
そんな中で、明らかに色物集を放ちながら登場したのが彼らである。
憎悪と怒りと攻撃性だけが表に出たようなその音楽は圧倒的で、完全に一人勝ち状態であったと思う。
バンドメンバーが9人いるとあって、さすがにその音圧自体もすさまじく、また単なるメタルバンドと違い、パーカッションが二人いたりターンテーブルがいたりと、その編成もまた独自、たって普通9人もいないけどね。
そうした人海作戦も功を奏して、トンでもないことになっていたな。
まあ、ともすれば打ち込みなんかで済ましてしまうところをあえて生でやったところがよかったんだろう。
そんな1stはのっけからすさまじく、世界のへヴィロックファンを一気に魅了したのであった。
そんな彼らも、デビューからすでに3枚のアルバムを出して、今年4枚目を出したわけである。
それぞれのアルバムでテイストが違うため、ファンの中でもどれが好きかが分かれているようである。
そう言う意味では努力しているバンドだと思う。
で、もっと努力したのが今回の新作「All Hope Is Gone」である。
前作「Vol. 3」的なポップさがありながら、演奏や曲の幅は更に広がったし、一番マス受けするアルバムであるのは間違いないだろう。
当然のよう評価は割れた。
最高傑作とたたえる人がある一方で、このバンドは終わったといいう人もある。
HMVなんかのリスナーレヴューを見ても、ちょっとケンカっぽくなってたりもして、そう言うところにも暗にこのバンドに対する期待感とかも見えてきて面白い。
個人的には、悪いとは思わなかったし、かっこいいとは思ったんだけど、一方で今一だという評価を拭えなかった。
このアルバムの中には、差し迫るような凄みみたいなものを感じ取れなかったかったからである。
前作も確かにポップではあったが、前作は成長というような印象を素直に持った。
曲も粒ぞろいだったし。
ただその後のこのアルバムは、普通っぽくなっちゃったな、と思ったのである。
確かにヴォーカルは吼えているし、ドラムは高速、ギターもバリバリに走っている。
でも、Stone Sourを聴いてしまったものからすると、バラードなんかも挟まれるとどうしてもそちらのイメージが出てしまうし、実際曲としてもSlipknotでやる必要があるのか、というものが散見されて、ノリ切れなかった。
そんなわけで、2,3回だけ聴いてすぐにi-Podからは外してしまった。
むしろ過去のアルバムをもう一通り聴いてみたりしてね。
そんなテンションだからライヴにも行かなかった(いけたかも定かじゃないけど)。
ところが、最近改めて利いてみようという気になり、i-Podに復帰させてみた。
すると、いいじゃない、と思うのである。
買ったばっかりのときは、どうしても個人的な期待感や、次はこうあるべき、みたいなものを抱いていたから、上記のように思ってしまったんだけど、少し間をおいてもう少し客観的に付き合ってみると、いいアルバムであると思ったのである。
実際演奏やアレンジも凝っているし、アルバムと押して聴いたときにも通して聴けるし、素直にかっこいいと思えるのである。
すげえがんばってんなぁ、と思うのである。
メイキング映像なんかをみても、そう言うのが伺える。
まあそうは言っても、やはりSlipknotにしては大人しいんじゃない?とか、9人がフルには働いてないんじゃない?とか思う部分もあるんだけど、でもま、いつまでも「IOWA」なわけはないし、やはり状況の変化はどうしたって人を変えるものである。
それに、努力と勢いはある意味ではトレードオフだと思うしね。
でも、そのほうが健全なんだと思う。
けどまあ、一番好きかっていえば、やはりそうではないけどね。
むしろ今後の音楽的な方向性は多分定まったんだろうって気はするから、そこからいかに自部たちのアイデンティティを得るかという問題だろうね。
もはや過去の憎悪の化身、みたいな音楽はできないんだから。
それか、場合によっては解散もありえるんじゃないかと個人的には思うけど、ぜひ次も期待したいね。
そんなわけで、やっぱり来日いっときゃよかったな、しかもCoastだったのにな、とか色々思っている今日この頃である。
やっぱり悔いのない人生を送ろうと思ったら、ほんの一瞬でも「~したい」と思ったことには忠実であるべきであるようだ。
人生をつまらなくさせるのは、何よりも躊躇だね。