多くの人にとって、ロックはただのファッションだろうね。
それはともかく、最近で言うヒップホップ同様、かつては日本語をロックのメロディにのせる事の可能性について本気で議論されていたのである。
自分が生まれたときにはとっくにあったし、物心ついたときにはJ-POPのなかにあったので、そんな議論自体が不思議であるが。
先駆者の努力は偉大である。
そんな日本語ロックの先駆者にして最大の功労者たる一つがはっぴいえんどである。
其のメンバーだけでも信じられないくらいのビッグネームが並ぶ。
大滝詠一、鈴木茂、松本隆、そして細野晴臣である。
誰しも一度は其の名を聴いた事があろう。
この人たちはみんな、日本のポップシーンにおいてきわめて大きな地位を占めている。
70年代のフォーク、テクノポップ、80年代のアイドル歌謡曲、90年代のトレンディドラマ、そしてジャニーズ曲まで。
もちろん今も現役で、ばりばりである。
例えば、「幸せの結末」という曲はみんな知っているであろう。
YMOもしょっちゅうテレビで其の曲が使用されている。
ガラスの少年時代って曲は知っているだろう。
聖子ちゃんだってそうだぞ。
これだけでもどれだけすごい人かはわかるであろう。
というか、そんな連中が同じバンドにいた奇跡にまずびっくりだ。
そんなバンドの曲がよくない理由はない。
彼らはわずか3枚のアルバムを残して解散してしまったが、その3枚が3枚とも名盤なのである。
今回はそのうちの3枚目、既に解散を決めてから作られたアルバムである。
セルフタイトルをちょっとだけ変えたこのアルバム。
楽曲はバンドとして、というよりは、個々人のソロ的な感じで作られたそうである。
それでも、やはり其のクオリティは半端ではない。
1曲目”風来坊”は、細野作。
あの人らしいのんびりとした田舎風情の似合う楽曲である。
歌詞についても肩の力が抜けていて、大好きである。
ほとんど風来坊風来坊いっているんだけど、メロディも伴ってこれがいいあんばいである。
2曲目”氷雨月のスケッチ”は詞;松本、曲;鈴木の作品。
ややセンチメンタルなやさしい歌詞は、いかにもらしい1曲である。
「ねえ、もうやめようよ、こんな淋しい話」というフレーズが非常に印象的で、切なさの中に優しさを垣間みる思いである。
3曲目”明日あたりはきっと春”も、詞;松本、曲;鈴木の作品。
静かで、アップテンポではないが光輝くような明るい曲である。
「冬がだんだん遠くなっていく」「明日あたりはきっと春」というフレーズが大好き。
まだ少し時期的には早いけど、冬に聴きたくなる1曲である。
4曲目”無風状態”は細野作。
ちょっと気取ったような歌詞がいかにもらしい。
この人のこういうセンスは好きなんだよね。
粋だよ。
ブレイクのときのベースもすごくいいんだよ。
5曲目”さよなら通り3番地”は再び松本&鈴木。
歌ももちろん入っているが、インスト曲のような印象で、演奏が一番よく聞こえてくる曲である。
これまたミドルテンポの心地よい曲である。
ギターの遊んでいる感じもグッドである。
短い詞に目を向けても、やっぱりこの人らしいセンスである。
この人の核ラヴソングは優しい詞が多くて好きである。
6曲目”相合傘”は細野曲。
この人のこのアルバムにおける歌詞は、結構単語のつなぎ合わせのようなものが多く、思いの断片をちりばめたような印象である。
それがこの曲では瑞々しさを生んでいてすごくフィットしている。
また、演奏の隙間も非常に効果的である。
それほど強くない雨に期待と不安をにじませるような(「すっかり晴れたら離れなくちゃ、もっと降れ降れ」)、そんあ心理がなんだか微笑ましいね。
7曲目”田舎道”はアルバム中もっともアップテンポな曲。
松本&大滝のコンビのこの曲は、小学生の夏休みみたいな曲である。
やたら無邪気で、元気で、観ていて微笑ましい光景が広がるような、そんな曲である。
8曲目”外はいい天気”は、引き続き松本&大滝のコンビ。
淋しい人を励ますような、あるいはそっと見守りつつ外へ出ておいで、という曲。
メロディに潜む暖かさと少しの淋しさが秀逸である。
そしてラスト”さよならアメリカ、さよならニッポン”は、はっぴいえんど名義の曲である。
やや実験的な色合いあるこの曲は、ヴァン・ダイク・パークスという人が其のメロディだかを気に入って、そこからコラボレーションによって生まれた曲である。
アメリカ、ニッポンがいずれも片仮名表記で並列化されているあたりがこの曲の面白さであろう。
歌詞は「さよならアメリカ、さよならニッポン、ばいばい、ばいばい」というリフレイン。
ヴォーカルも加工されており、音自体も結構いじっているようである。
これを最後の曲にチョイスしたあたりが、この人たちのセンスを表している気がする。
この人たちの曲は、現在J-POPで第1線級で活動しているどのバンドよりもポップで、それでいて演奏も非常にこっているし、聴きやすくて、暖かくて、まさに名曲であり名盤である。
その他の2枚についてもまた書くが、どれもこれもいいんだな。
最近昔のものがフィーチャーされる機会が増えているが、いい機会なので一度聴いてみるといいと思う。
時代が経ようと、流行や時代とは無縁に独自の時間の中でなり続ける。
本当の名曲ってのはそういうものだよ。