毎年年末には各音楽誌がその年の年間ベストアルバムを発表している訳であるが、同時に来年の音楽業界の予測、というか、こいつらが来るぜ、というのを打ち出す事もある。
Cross Beatはそういうのは次の号に持ち越しているし、どちらかと言えば新譜関連の記事をまとめて、その中で新人バンドを数組列挙するという形が、ここ数年の傾向か。
Rockin' onについては、あんまりそういうのをやってない気がする。
その代わりかどうかは知らないが、毎号巻頭で新人をバーッと挙げている。
どうしても保守的というか、新しい奴が突然台頭するよりも、一時低迷した奴が巻き返すような構造が好きな傾向にあるように思う。
それらと比較して、悪名高きSnoozerでは、毎年どかんと日本での知名度のない新人バンドを一組押してくる。
一昨年はKlaxonsを表紙にし、大々的にフックアップし、しかも見事にその年の音楽シーン、更には今日に至る流れまでかなりよく予測していて、すごいなあと思ったもんだ。
それほどまでに自信満々に押してくるのなら聴いてみようと言う気にもなるしね。
音楽誌としては、やっぱり出せば売れるような奴をよいしょするよりはこういう事の方が大事だと思うね。
で、そんなSnoozer誌が昨年ベストアルバムに選んだのが、まだ日本盤の出ていないバンドであった。
海外では既に出ていたので、NMEだかがベスト10圏内にランクインしていたが、日本ではまだ無名といってもよかっただろう。
それがMetronomyである。
バンドの中心人物は、既にリミックスワークなどで結構有名な人であったようだが、正直私はリミックスってあんまり興味ないので、全然知らなかった。
それに、Metronomyとしては既に2ndでああったらしいね。
とりあえずインタビューを読んだんだけど、それが面白くてね。
なので、とりあえずCDも買ってみたのであった。
非常に独特で、ヘロヘロながら、これは結構癖になる音楽である。
「Nights Out」というタイトルで、テーマはずばり世遊び。
買ったのが洋盤で、歌詞カードもなかったので内容が全部わかる訳でないけど、アルバム通して物語になっているようである。
インストもありながら、なんとも不思議な音楽なのですね。
音の密度は低いのでスカスカなんだけど、ならすときには一気に鳴らしているため、音圧は結構あるようにも感じられる。
1曲目のドローンとした雰囲気の後の2曲目のアップテンポが非常に心地よい。
快活なドラムも非常によいし、ヘロヘロな音ながら妙にわくわくさせられる。
3曲目でようやくヴォーカル曲なんだけど、そのヴォーカルも裏声でふざけたような調子である。
展開もコミカルで、"Radio, Ladio"というこの曲は、多分内容的にもちょっと漫画チックというか、そんな感じだと思うんだよね。
私の目を奪ったあなたの名前は?というやり取りが続くんだけど、彼女の名前はRadio, Ladio。
ちょっとした言葉遊びの要素もあるんだと思うけど、PVとかから考えると結局彼女は架空とまでは言わないけど、なんだか実態のない夢のような存在でした、ていう感じなのかな。
前半は割と希望にあふれたような曲が多くて、ほんとにわくわくっていう言葉がしっくりくるんだよね。
でも、"Heartbreaker"あたりからは少し切なさもある。
ハートブレイクしちゃったんだろうね。
PVではそんな友人を慰めるべく、男3人でプチ傷心旅行ってな風情ね。
女々しくないけど。
で、シングルにもなった”Holiday”という曲があるんだけど、この曲は「ポップな曲」を目指して作られた必殺チューンである。
これは面白いよ。
ふざけているとしか思えないし、いわゆるポップソングな感じはしないね。
ポップには違いないんだろうが、ちょっと視界がサイケデリックに揺らぐような音世界は、理解できない人も結構いるんだろうが、一方で奇妙に癖になる曲でもある。
だから、この曲が好きな人はきっとアルバムも好きになれるだろうし、そういう意味では非常にポップな曲であるといえよう。
調子の外れたようなコーラスと、ギター、電子音など、ほとんどすべてにおいて不気味ででもキュート、ベリークール。
続く"Thing for Me"は、PVがすごく面白い。
曲の展開はわりと王道的というか、わかりやすいんだけど、やっぱり癖のある曲である。
この曲以降は既に内に帰ってきて、やかんでお湯を沸かしながら、一夜の夢が静かに終わっていく。
こうしてアルバム通して聴いてもあっという間だし、非常に音楽自体にストーリー性があるので、具体的にはよくわからなくても、そうした側面からも割と楽しめる。
何回でも聴きたくなるようなテンポの良さだね。
ここ数年だと、アークティックス以降はギターロック、Klaxons以降は打ち込み主体の雑食ジャンク、と言った具合に、ある種のシーン的なものが音楽で増える。
それはまあ売る側がそういうバンドばかりを引っ張ってくるからなんだろうけど、このバンドではまた違う音が鳴らされている。
感覚的にはMGMTとかに近いかもしれないけど、精神的にはずっと連なるUKの若者の文化であろう。
Arctik Monkeysはリアルを描いて、Klaxonsは夢を描いて、そしてMetronomyはその狭間を描いていると言った感じかな。
だから、ある意味では人生の流れのなかに一番組み込みやすい者なのかもしれない気がする。
まあ私にかぎったことかもしれないけど、時に現実の場面であるにも関わらず、不意に自分が遠ざかってしまい、まるで世界を第3者的目線から客観視しているかのように感じるときがある。
すっごく楽しいんだけど、あれ?みたいな。
過ぎ去ってしまった後は、何の形跡も残さずに、ただ漠然と現実を目の当たりにしている時の非情なまでのリアリティ、ようわからん。
とにかく、そういう中間的な不安的で、でもすごく気持ちのいい感覚があるような感じがするんだよね。
音自体のペナペナ感もさることながら。
とにかく騒ぎたいぜ、という人には向かない音楽、むしろ引きこもりのような奴の方が好きになりそうな気がするな。
切なくも楽しい夢心地なアルバムなので、せっかくなので是非聴いてみると良いと思うよ。
ところで、既に文中でちょこちょこ書いているんだけど、こいつらのPVはどれもすごく面白い。
"Thing For Me"、"Holiday"、"Radio, Ladio"、"Heatbreaker"にPVが作られているが、どれも曲の雰囲気と非情に合っているし、微妙に安っぽい作りなのが全体的なムードにも合っている。
コミカルながらドラマ性もあって、何気によくできていると思う。
最近J-POPで有名人をわざわざ起用して、本格的なドラマ仕立てのものが流行っているが、あんなものは勝負にならんよ。
若干意味不明な部分もあるけど、すごく面白いのでYouTubeでチェックしてみてください。
それにしても、シーンとしてはアメリカのインディの方がすごく面白いんだけど、単発的に出てくるアーティストとしてはイギリス系の方が突然変異みたいな奴が出てきやすいような気がする。
これも文化的な違いって奴なのかな。
日本だとどうなんだろうね。
今後はもっとアングラシーンをほじくってみようと思う。