NWリバイバルと呼ばれる昨今の傾向については、今はひと段落ついている印象がある。
ちょうど2、3年くらい前が絶頂であっただろう。
Franz Ferdinand、Block Party、Maximo Park、などUKを中心に隆盛を極めた。
しかし、彼らに先立って2002年あたりからすでに80年代を参照していたバンドがいくつかあり、代表的なものとしてはRapture、!!!、そしてThe Faintの3バンドが挙げられる。
彼らはUSバンドであり、いわゆるインディと呼ばれる中から出てきたバンドである。
ロックの中にダンス的な要素を持ち込んでいる、という意味での共通点はあれど、混ぜ合わせる要素はそれそれに違っていた。
Raptureや!!!あたりは、割とディスコやファンク的な要素を取り入れていた。
どちらも(たしか)NYが拠点だし、現在のダンスロックに大きな影響を与えるLCD Soundsystem(DFA)あたりとも関係が深いバンドたちである。
それに対し、唯一突然変異的に現れたのがThe Faintである。
彼らが参照しているのは、Depeche Modeのようなエレポップ的な要素が非常に色濃い。
そこにノイズやパンク的ギターを導入したり、声を加工したりして、かなり他の2バンドとはことなる音楽性であった。
彼らの出身地はオマハというところで、同郷にはBright EyesやCursiveがいる。
しかも、かつてBright Eyesのコナーとは同じバンドを組んでいた中であり、またCursiveのフロントマンは彼らにとって兄貴的尊敬を集める存在であるらしい。
小さいながらも非常に密な関係を持つ地域であるらしく、そんな中でここまで傾向の違う、それでいて良質なバンドがそろっているというのは興味深いことである。
さて、私がこのバンドの音楽をはじめて聞いたのは、、実は彼らのリミックスした作品であった。
誰のリミックスか、といえば、Nine Inch Nailsの「Year Zero」収録の"Meet your Master"である。
ぶっちゃけ他のリミックス版に比べて、あんまりピンとくる感じは少なかったんだけど、彼らのものについてはおおっ!と思ったのである。
で、誰かと見たら「The Faint」とある。
それ以前にも少し聞いたことはあったんだが、これはぜひ聴いて観なければ、と思ったのであった。
そこで中古屋へ走り、初めて聴いた作品が画像に載せた4th「Wet From Birth」である。
まずジャケットを見た瞬間に、何やら変態的なにおいを感じてしまったが、彼らのアートワークは概してこういう傾向があるようだ。
それはともかく、早速聴いていると、ヴァイオリンが鳴り響くじゃない。
そういうバンドなのかしら?と思ったが、別にヴァイオリニストがいるわけでないらしく、むしろその後は電子音や、独特のリズムと、だるい、やや加工されたようなヴォーカル、ざらついたギターと、Raptureあたりとは違い奇妙に粗い印象である。
2曲目あたりまではそこまでこず、悪くないかな、くらいだったんだけど、3曲目の"I Disappear"のイントロが流れた瞬間、ブワッときたね。
歪んだギターがめちゃくちゃかっこよかったのである。
いわゆるディストーション的な歪み方だけでなく、どう加工しているのだろうかという感じで、妙にひきつけられた(どうやらアンプに空き缶を突っ込んでいたらしい)。
で、本編が始まるとこれまたキャッチーで、低音と軽い電子音のバランスも絶妙で、ドつぼであった。
その後もド派手な曲というのはないし、いわゆる反復によるトランスみたいなものを導くわけでもない。
むしろ音と音の隙間をうまく生かしており、ヴォーカルの間の演奏が爆裂にテンションをあげさせてくれる。
中でもやはり"Paranoiattack"、"Dropkick the Punks"、"Symptom Finger"あたりは個人的に大好き。
また、歌詞に目を向けても独自の世界観を提示しており、特に最後の"Birth"なんかは、モチーフは生まれるときの精子の視点から描かれて、生まれ出るまでを語っているのだが、妙に生生しい表現なんだが、なかなか面白いのである。
他の奴をみても結構不思議な歌詞が多いのであるが、一読の価値ありである。
実は先日来日公演があり、仕事帰りに行ってきたのですがね、いやぁ、良かった。
それもめちゃくちゃ良かった。
CDで聴いても十分体を揺り動かす力を持っているんだけど、ライヴになると更にその本分が発揮されて、もはやじっとなどしてはいられない。
また、面白いのはロックバンドであり、しかも演奏も、打ち込みやツマミはあるものの、ダンスアクトのそれのような盛り上がり方をするのである。
しかも、じつは1曲1曲の間はSE見たいのでつないだりせず、全曲の余韻の音がなってる程度なんだけど、一切テンションがだれることなんてないし、むしろ曲同様その空白すらあえて計算ではないかと思えるほどである。
このアルバムをはじめ、セットリストは新旧すべてがほぼ均一に織り交ぜられており、ライヴで聴いて改めて好きになった曲もあり、またそれがきっかけで好きになった曲もありで、最近はまたFaint万歳状態にある。
新譜も出したばかりなので、そっちを書くほうが時期的にもちょうど良かったんだけど、やはり馴れ初めって大事じゃん?というわけで、このアルバムを載せました。
いわゆるNWリバイバルは、先にも言ったようにすでにひと段落した感はあるのであるが、彼らは別に誰かに追随して出てきたわけではない。
それゆえ、そんな流行とは無縁に己の道を追求しつつ、アルバムごとに違う表情も見せてくれる。
日本ではあまりに評価が低い、というか認知度が低すぎなんだけど、非常にお勧めのバンドである。