日本には素晴らしいバンドがたくさんいて、よくがない、あるいは絶妙にチャンスがなくて表に出ていないだけのバンドももりもりだ。
ベテランにせよ若手にせよ、それが同じ状況だが、別に認知度が低いだけでそれぞれに海外でもライブしたり、多くのバンドのリスペクトを集めていたり、そもそも音楽が激烈にカッコよかったりと、もっと発見されてほしいとつくづく感じる要素満載だ。
そんな位置付けのバンドの一つがmooolsというバンドで、すでに結成から25年以上が経過したベテランだ。
活動スタンス自体もインディだが、海外ではModest Mouseやウルフ・パレードといったUS勢との共演・交友、さらに日本ではブッチャーズやトクマルシューゴ、Ogre You Assholeなどからもリスペクトを集めている。
アナログフィッシュとは共同企画ライブをするなど非常に懇意だ。
まあ、どのバンドもメジャーというよりはやっぱりインディだけど、音楽好きなら一度は聞く名前ばかりだろう。
引き続きマイペースにしか活動していない彼らだが、そのカッコいい音楽は一人でも多くの人に聞いてほしいところだ。
はじめに
まず軽くメンバーを紹介したいところだが、最初に言っておくとイケメンは一人もいない。
こちらがほぼ全ての曲を作っているVo/Gの酒井さん。
一言で言えば変わった人だ。
キャラクタがとにかく強烈、静かな変態と言おうか。
なぜか大喜利も強く、SNSなどではしばしばよくわからない謎のコラ画像とメッセージを投稿している。
一部では神と呼ばれているらしい。
しかし、彼の書く歌詞・曲は本当に素晴らしく、ふざけた曲もあればとてつもなく詩的で素晴らしい歌詞に溢れている。
詩集も出すくらいだし、それだけ読んでもなかなか味わい深い。
彼の詩にはファンも多く、先に挙げた日本人ミュージシャンの多くはやはり彼の書く歌詞を絶賛している。
そしてベースが有泉さん、ドラムが内野という3人編成だ。
この二人、個別の写真を探してみたが出てこなかった・・・
トップ画の帽子とメガネの方が有泉さん、スキンヘッドが内野さんだ。
3人の中で一番しっかりしていそうなのが有泉さんで、レーベルも運営しているそうだ。
3ピースバンドなのでベースラインが一際目立つが、楽曲をドライブさせているのは彼のベースだ。
そしてドラムの内野さんはしばらく育休に入っており、その手前のライブでは子供を抱えながらドラムを叩いていた。
酒井さんの次にゆるさを見せてくれている。
ちなみに、今はもう違うようだが、一時Ryo Hamamotoさんもメンバーに名を連ねていた。
今はアナログフィッシュの準メンバーのようになっているが、この界隈での売れっ子なのかもしれない。
いずれにせよ、ビジュアルに恵まれなかった彼らは音楽で勝負するしかなかった。
そして、それだけの音楽を実際に作り続けている最高なバンドである。
インデーズ時代の総まとめ『Rebel Beat Factory Years』(2007)
こちらはインディーズ時代の曲を集めたベスト盤の第1弾。
後年アルバムに収録された曲も多数あり、そのラフVer型がたくさん聴ける。
基本的な音楽性はすでに確立されており、こういうのを聴くと彼らはやりたいことをやっているんだなということもわかるだろう。
某ラジオ頭のせいで変わり続けることが美徳みたいな価値観がどこかあるロック界だが、いいものはいい。
結局曲の良さには敵わないわけだが、それをやり続けているバンドの一つがmooolsだ。
こちらは収録曲の一つ”なわとびの前で”、残念ながらオリジナルverではないが。
かなり観念的な歌詞だが、聞いた時になんかグッときてしまった。
今失ったタイミングを抱いて、君が回している縄跳びの前で動けない・・・という。
何かしら自分の足が止まってしまうことってたびたびあると思うけど、その一つがちょっとしたすれ違いだったりするし、人間関係ではさらにそれが顕著だったりする。
相手はただいつものようにあり続けているかもしれないから、いつものようにいけばよかっただけかもしれないのに、なんて思うわけである。
一方でこの曲は鋭い社会風刺的な受け取り方もできる歌詞が印象的。
ごく身近な暮らしの中で理不尽で理解不能な人たち見かけた時のクラクラするような感覚、ただでさえ視界がぼやける眩暈がさらにセロハン越し。
何も見えない。
サビ的なところでは、ああ〜めまいはセロハン越し!と短いフレーズで叫ぶように歌われるが、本当に頭がクラクラするような時に思わず頭に流れ出す1曲だ。
ちなみに、1stアルバム『光ファイバー』(1999)と2ndアルバム『マジック200』(2000年)収録+そのアウトテイク集のような作品になっている。
いずれも入手困難な状況なので、このベスト盤で賄うのがいいだろう。
『Poet Portraits Years』(2008)
インデーズベスト第2弾はこちら。
このアルバム収録でまず印象的なのは”backdroundmusiceasylistning”という曲。
この曲の冒頭からの歌詞がやたら刺さってしまう。
「思春期に感受性ならマグロになったら、情が移れば簡単に優しくなれるんだね。たいして違わない代わりに、大して報われはしないよ」という一節がやばい。
穏やかで平坦な、無難な道にはそれなりのものしか待っていないというのをズバリと言われるようだ。
でも、歌詞全体としては、君は誰にだってなれるよと希望を説く内容になっている。
エモいのだ、mooolsは。
一方でこんなちょっと可愛らしいタイトルの曲も。
抽象的でやはりよくわからない歌詞ではあるが、子猫が戯れて暴れ散らすような様なのかなと思うが、そういう歌も少なくないのが彼らの素敵なところだ。
本当はもっとただの悪ふざけみたいな曲を紹介したかったが、ただでさえマイナーな上に昔の曲なので、ちょうどいい映像がYoutubeにはなかった。
しかし、今はサブスクでは配信されているので、ぜひチェックして欲しいところだ。
このアルバムと、先のアルバムは兄弟作になるのだけど、いずれも2枚組の超ボリューム、同じ曲でもテイク違いなども収録されており、まさにインディーズ時代の集大成作品だ。
全体的に荒いけど、mooolsの全容はざっと掴める良作だ。
とはいえ、最初に聴くアルバムとしてはおすすめできないが。
3rd アルバム『moools』(2003年)
こちらがアルバムとしては3枚目となるセルフタイトルアルバム。
初期作品たちと比べると、幾分音的にはメジャー感を感じるできで、曲も全体にちゃんとしている。
ちゃんとしているというのは、悪ふざけみたいな曲は入っていないという意味だ。
それはそれで彼らの魅力ではあるがね。
このアルバムでとても好きなのがこちら。
最近になってセルフカバー的に配信されたアコースティックverだが、”線を引けたら”という曲。
やっぱり歌詞自体がとてもいいんだけど、曲自体もとてもいい。
この映像は謎だが、自分でも茶化していないと居た堪れなくなってしまうような痛切さみたいなものがあって、その情感っていうのが私には刺さって仕方ないんですね。
「間延びした落雷」という表現も、なんとも言えず詩的である。
全体的に派手な曲もないし、特に地味なアルバムでもあるが、じわじわ沁みてくる魅力は存分に味わえるだろう。
4thアルバム『モチーフ返し』(2006)
ファンの間でも彼らの代表作と目されているであろう作品がこの4枚目のアルバムだ。
全体にフォーキーな曲調が目立つが、穏やかな中に染み入る情感がたまらない。
特に代表曲にもなっているのがこちら”分水嶺”。
歌詞は極めてシンプル、「僕の腕の先のギザギザと、君の腕の先のギザギザを、合わせよう」というフレーズが多少形を変えなら繰り返されるだけなのだけど、曲調や分水嶺という耳慣れない言葉の意味と相俟ってやたら沁みて仕方ない。
要するに手を繋ぐというただそれだけのことを、こういう表現をしているところが詩的である。
物事の方向性が決まる分かれ目、という意味らしいが、他人同士であるところの二人の境界線を意識しつつ、それを乗り越える手段がなんのことはない、腕の先のギザギザを合わせることだろうというようなことだろうか。
割と長い曲にも関わらず、わずかな歌詞を音で表現するところが彼らのアーティスト性ではないだろうか。
名曲。
このアルバムは他にもいい曲満載で、”路駐のイエス””originalsoundtrackeasylistning”など、パンチのある曲も穏やかさのある曲も、この時期に聴いていても最高なアルバムである。
また、”グランドフィナーレ”という曲の歌詞も秀逸で、「歌と歌声は違う、君は歌そのもの」という一節もめちゃくちゃ詩的で綺麗な表現だなと感動する。
近い表現が後のアルバム曲にも登場するが、追って紹介したい。
最初に聴くならこのアルバムがおすすめだ。
5thアルバム『Weather Sketch Modified』(2010)
こちらは5枚目のアルバムで、ある意味一番メジャー感のあるアルバムだと感じる。
1曲目は”花食う犬”という謎のタイトルで、歌詞も何かを表現しているのか、ただ単に彼がみた何気ない景色をそれっぽい感じで歌っているだけなのか分かりづらい。
酒井さんが作詞をする際には、メンバーを笑わせるためにやる時もあるというので、曲調に騙されてはいけない、でも何かを表現しているのかも、とか勝手に色々と考えてしまう。
このアルバム収録で代表曲の1つが”いるいらない”という曲。
イントロがちょっとサザエさんみたいだが、先の”分水嶺”同様、少ない言葉を補うように曲自体が素晴らしい。
ベースフレーズも同じフレーズの繰り返しだが、これがまたいい。
またキャリア随一にポップでストレートな曲がこちら。
”落雷含み”という曲なんだけど、曲調もアッパーでポップ。
「等身大等身大って、誰のだよ。そういうの言わないんだよやさしさとは」とちょっと皮肉っぽいフレーズで始まるが、やはり歌詞自体は具体的な言葉でありながら抽象的で、不思議な感じだ。
だけどとても印象的で、夕立にあった日なんかはついこの曲が頭に流れ出す。
夜宿りするとか、夜にも虹があったらとか、こういう言葉のチョイスは本当に彼らならではだ。
色々なアーティストが彼にリスペクトを捧げる理由もよくわかる。
6thアルバム『劈開』(2014年)
アルバムとして目下の最新作となっているのがこちらだが、いうてももう10年近く前だ。
私が初めて彼らのアルバムで聴いたのはこれだったが、音的には円熟みが溢れており、クオリティという意味でも最高潮だろう。
歌詞も彼らの詩性が全開だ。
アルバム1曲目がこの”単位”という曲だ。
およそサラリーマンとは遥かに縁遠い3人がサラリーマン風に描かれるPVなんだか素敵だ。
歩幅の貸し借りで隣を歩かせて欲しい、という表現がすごい好き。
ちなみにこのアルバムでは浜本さんが参加している。
それがひょっとしたらこれまでにないロック感というか、ドライブ感みたいなものを出しているのかもしれない。
ギターフレーズ自体が派手だしな。
2曲目は”退屈”という曲だが、この曲の歌詞がとてもいい。
youtubeになかったので一部だけだが、それでも大事なところの歌詞は聴ける。
「優しい言葉の優しさや、汚い言葉の汚さが、言葉そのものよりよく見えて、言葉が見えなくなるように」という歌詞があるんだけど、伝わるというのがどういうことかみたいなことをある種の本質を表しているようだ。
またこちらも名曲。
イントロだけとは・・・
ぶつ切りなるのが気持ち悪いが、ぜひ聴いて欲しい。
ちなみに歌詞にばかりフォーカスしているが、そもそもベースもドラムも演奏も素晴らしく、曲をしっかり表現していると思う。
シングルなど
フルアルバム以外でも作品をリリースしており、シングル、EPとあるわけだが、その中でもとりわけ好きなのがこちら。
”愛人”という曲だが、このPV含めてなんとも言えない素晴らしい曲である。
たまに街中で不釣り合いなカップルを見かけるわけだが、それを見た時の絵も言われぬモヤモヤ感みたいなもの。
嫉妬でもないし、羨望でもない、かといって若いカップルを見るような爽やかさもない。
本人たちも幸せなのかどうかもわからない、何かを妥協しあったような関係性がzウェつ妙な表現で表されている。
一つ一つの何気ない情景の描写が、日常に溢れる虚無感みたいなものと、それでも淡々と続いていく人生の有様を絵がいている。
「そして夕日が持ち場を離れていく」という一節が素晴らしすぎる。
彼らの曲はある種虚無感を誘うような世界観でありながら、悲壮感がないのがいい。
こちらの曲はカセットテープとして他の曲と合わせてリリースされているが、私はカセット聴けないので、早く配信でもいいから出して欲しいのだが、まだだろうか。
ちなみにVoの酒井さんがソロ?でやっている?活動にThe Juicy Looksというのがあるが、アプリで録音した短い曲だけを集めたアルバム、もといT-Shirのおまけもリリースしているが、どう考えても著作権的に問題があるのでなかなか日の目を見ることが叶わないが、クールなT-Shirtを買いがてらチェックしてみて欲しい作品だ。
聴いた後にこれほど何も残らない作品も珍しいのではないか、いい意味で。
ちなみに、私はこのリリースパーティに遊びに行った。
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その他
ぜひ音楽と共に歌詞を味わって欲しいバンドなので、こんな詩集も手元に置いて欲しい。
装丁もしっかりしており、私もふと情景を見ながら思い浮かぶ風景にかられた時に、パラパラとページをめくって、そうだこの曲だったと思い返してみたりしている。
素晴らしい歌詞集である。
インディーバンドの中でもことさらマイナーだし、もうおじさんだし、見た目的にイケメンでもないし、流行りの音楽でもない。
でもほんと、そういう知名度云々とかではなく、本当にアート的な意味での表現も実現しつつ、しかし本人たちは至ってマイペースでやっているのが本当に素晴らしい。
広く受け入れられる類の音楽ではないかもしれないが、もう少しくらい知名度も広がって欲しいバンドの一つだ。
またライブにも行こう。
新曲(2023年現在)も作っているようなので、次の作品も楽しみだ。