
既に活動を休止して久しいNine Inch Nails。
日本最後のライヴはサマーソニックでのトリ前という、ある意味彼らしい締めくくりであった。
「トリを喰ってやる」という宣言通り、天気までも味方に付けたような劇的なライヴは、まさに伝説と言えるほどの、身震いのするような神がかったライヴであった。
かつて彼等を一躍スターダムに押し上げたロラパルーザ、そのドロだらけのパフォーマンスから早数十年、時代の変わり目を体現したようなオルタナティヴバンドの象徴の一人は、ようやく一休みと言った体である。
そんな彼等の今のところの最終アルバムは、公式サイトから無料ダウンロードで配信された「The Slip」。
ぶっちゃけ音楽的にはもはや趣味というか、片手間程度に作られたとさえ思えるような作品である。
もちろん悪くない。
リードシングルとして発表された"Decipline"なんかは、NINのポップの要素をすべて詰め込んだような曲であるし、アルバムも「Pretty Hate Machine」以来の短尺であった。
もはや彼はアルバムで儲けると言う発想自体なく、このアルバムは完全におまけ程度だったのではなかろうか。
後にCDも出されたが、おそらくあまり買った人はいないだろう。
シリアルナンバー付きで、世界で25万枚限定という事で、シリアルナンバーが振られている。
内容的には「YearZero」の続編的なもので、音的にもアートワークを含めた世界観も地続きとなっており、実質二つで一つといっても良いかもしれない。
かつてなく敷居を下げたアルバムであるが、聞き込みの要素は正直ない。
ある意味でNINの最後のアルバムとして、あるいはトレント・レズナーの物語の一区切りとしてはこのような形が適切かもしれない。
アメリカでのツアー全日程を終えた後、彼はスタジオで使用していた楽器や、ツアーで使用した楽器など、全てをオークションに出品した。
この行動もかつてない大胆なもので、ファンには溜まらないサービスと言えよう。
しかし、同時に完全にバンド活動は休止に入ったのだな、という事を暗に示しているようで、それはそれで寂しい思いもしたものだ。
しばらくはツアー中の、ファンの撮影した映像をアップしたり、写真をアップしたりと、完全にアフターサービス状態。
ところが昨年末くらい、不意に「2010年、Nine Inch Nailsとして、あるいは他の形態として、何かしらを君たちに届けるよ」というような主旨のメッセージが発表された。
勢いテンションが上がったが、それからしばらくはスタジオ風景と思われる写真がちょこちょこアップされていった。
はじめは過去の写真かなんかだろうか、ともったが、次第にギター、シンセ、歌詞カードのようなものや、トレント自身が唄っている様子などもアップされ、なにか作っているぜ、というアピール。
粋だな。
ヒップホップ系のアーティスト(Saul Williamsではないらしいが)とのコラボをやっている、という情報はどこかで耳にしたが、現在進行中なのは多分それとは別の何かのはずである。
それ以来、関連すると思しき情報はあまり耳に入ってこなかったが、Twitterで「スタジオで作業しているよ」という公式リリースもなされ、恐らくそう遠くないうちに何かしらの音源が発表されると思われる。
はたしてどのような形なのか、トレントの歌声もあるので、「Ghost」のようなものではない。
また、NIN的なものとも違うだろうから、かなり興味深いのである。
バンドとしての活動は終えても、今なお私に取っては最大級の関心を持って逐一チェックしている存在である。
「I rather die, than give you control.」と高らかに宣言して世に出た彼は、今なおその魂を失う事なく、オルタナティヴな存在であり続けている。
多くのバンドがどこか開き直ったり、あるいは負のスパイラルの中でしっちゃかめちゃかになってしまっている中で、着実に次のキャリアを形成しつつある彼は、実に強い。
これからも是非、すばらしい音源を届けてほしいものだ。
まだまだやるべき事はたくさんあるはずである。