ついこの間、彼女から夜中に電話があった。
なんでも自宅のプリンタが機能しなくなり、大事な書類がプリントアウトできずに窮しているとのこと。
ほぼ泣きながら電話口でそんな事を言われても、プリンタの様子もなにもわからない以上、手の施し用がない。
もとより機械には明るくないので、なお一層。
それでもプリンタの型番とエラーメッセージからなんとか対処法をネット上で見つけて指示をだす。
直らなかったので、他の印刷方法を探す。
今はコンビニの印刷機を使って、自宅からファイルを印刷できるように手配できるサービスがある事を知り、それを利用、結果事なきを得たのであった。
アクシデントが続くと、どうしてもテンパってしまうし、ばたついてしまう。
しかし、それでもなんとかしなくては行けない場面というのはいくらでもある。
そんなときに何が出来るか、どう動けるかが重要である。
そんな制約が人を成長させる場面も結構あるだろう。
ピンチはチャンス、とはよく言ったものだ。
さて、あんまり冒頭とは関係ないのだが、そんな制約を毎回設けて(積極的にそうしているのかどうかは知らないが)、その都度世に衝撃を与えているバンドと言えば、ご存知White Stripesである。
ジャックとメグの2人によるデュオである。
編成はギターとドラムと言うミニマルの極み。
もちろんアルバムでは他の楽器も取り入れてはいるものの、それでも音の密度は極めて低い。
音楽性は、ブルースを根っこにしている。
その為か、往年のバンドからも非常に支持されており、ローリングストーンズなんかとも共演したりもしている。
とくにジャックの活動は盛んで、別バンドもいくつもやっており、その都度才能を見せつけて、今やUSインディロック界随一のギタリストとしても名を馳せている。
ちなみに、同じくインディギターロックのヒーローの一人が、Yeah Yeah Yeahsのニックである。
2人とも非常にクセのあるプレーヤーであるが、技術とアイデアはさすがの一言。
まあ、偉そうに言えるほど詳しくないですが。
そんなWhite Stripesを一躍スターダムに押し上げたのが、「Elephant」というアルバムである。
それ以前のアルバムも世間的にはかなりの衝撃でもって迎えられたのであるが、それを決定づけたのはこのアルバムと言えよう。
特に冒頭の"Saven Nation Army"のリフは、はっきり言って最強である。
非常にシンプルながら強烈なインパクトがある。
ドラムが入ってくるタイミングも絶妙で、とにかくかっこいい。
かのローリングストーンズ始め、数多のバンドがカバーしているという、かなりのハクもついた楽曲である。
アルバム通しても、ギターとドラムを軸にしながらごく少数の楽器で奏でられるにも関わらず、非常に多彩で幅広い楽曲が並んでいる。
全般的にブルージーな雰囲気はバリバリであるが、古くさいというよりはガレージ臭が強い印象である。
このアルバムにはライナーが入っているが、そのライナーも極めて観念的な文章である。
考えるな、感じろ、という、ブルースリーの教えの如き解説?は、さすがにびっくりした。
ただ、このアルバムがリリースされた時期、というかこのバンドが出てきた時期などを勘案すると、ロックという音楽における挑戦であるとも言える。
打ち込みによる高密度な音像は日常となっており、激しさ=音楽としてのすごさ、みたいな風潮さえあった時代において、それら全てを否定するようなシンプルさ。
それこそStrokesなんかとは違う方法で時代にアンチテーゼを唱えた作品、バンドであろう。
既に詰め込む事に限界があり、もはやロックはここまでか、と言った時代にあっては、かなりの衝撃だっただろうね。
この少ない音の中でもこれだけできるんだ、という事を証明してみせて、かつこれほどかっこいい楽曲に仕上げたのだから、そのセンスには脱帽である。
Strokes以降という言われ方をする方が多いのであるが、それでも引き算の美学というものを体現しているという意味では、実はこっちの方が遥かに難しいだろうね。
だからフォロワーも出てき辛かったのだろうし、一方でStrokesの方が一般そうにも波及したのだろう。
しかしながら、今や2人組の生楽器主体のユニットが出てくれば、必ず引き合いに出されるし、新作がでればもれなく世界が注目する。
全てやり尽くされたかに見えたとしても、発想や原点回帰という発想から新しいスタンダードを再構築することもできる、そんな事を体現した存在であろう。
音楽的にもさることながら、何気ない日常の場面でも、基本に立ち返って、アイデア一つでまだまだチャンスを広げる事も出来るのだ、なんていう示唆を与えてくれているようで、すごいなあと思う。
まあ、飛躍ですけど。