活動開始は2年くらい前になるので、こうして形になるまで意外と時間がかかった印象である。
セルフタイトルの1stEpでは、正直NINの『Ghost』的指向性を少し尖らせたような印象で、このプロジェクトの独自性というのは正直あまり感じられず、トレントが歌ったらええやん、と思ったものだ。
完璧主義な男である故、恐らく本人もその辺りを考えたのだろう。
しばらくはこのプロジェクトは沈静化、サントラ制作が彼の主な仕事になっていた。
なので、以前Rageのザックと少しだけやりかけたものや、Tape Warmような形で止めてしまうかとも思ったが、昨年Ep発表。
そちらはすでに書いたので、よろしければ過去書庫へ。
そして今年の頭に音源が届けられた。
正直個人的には期待していなかった。
あくまでトレントのファンとしての興味以外はなかったのだが、思いのほかこのアルバムがいい。
個人的に好みの温度感なのである。
全体的にはトレントのここ最近の活動を見事に反映した内容で、音楽的な目新しさというのはないだろう。
しかし、彼の世界観を一つの完成形として提示しているような音触りが実に良い。
NIN的なロックアプローチというよりは、もっとアンビエントな方向で、彼の好きなAphex Twinのようなものを彼なりに租借したらこうなりました、という感じだろうか。
唸る電子音と生のピアノという彼の得意技も炸裂しまくりで、派手さはないが全体的に一つの世界を作り上げていて、聴いていて心地良い。
NINの中でも『The Slip』のような音が好きだったファンには物足りないだろうけど。
それにしても、1stEpから考えると見事にうまい着地点を見つけたな、という印象である。
まずはヴォーカルがあまり必然性を感じなかったのに、このアルバムでは見事に機能している。
ヴォーカルとして個性があるとも思わないし、歌が殊更うまいとも思わないけど、この音楽では却ってその薄さと言うか、それがハマっている。
ヴォーカルものがメインであるにも関わらずアンビエント的な印象を受けるのは、このヴォーカルによるところも大きいだろう。
曲にしても、シングルにもなってた"Keep It Together"などはトレントから出た音楽だな、と素直に思うけど、"Ice Age"のような曲は正直驚いた。
2ndEpにも入っていたけど、この曲を聴いたときにトレントの幅がまた広がったのかな、と思ったもの。
アルバム全体としての完成度もさすがと言わざるを得ない。
多分年間ベストとかに選出される類いの音楽ではない。
刺激的かと言われれば、そんな事はないだろうし。
でも、個人的にはやっぱりトレント大好き、と思わせるには十分であった。
余り期待していなかった分、良い意味で見事に裏切ってくれたことも大きいけど。
次はNINの音源である。
今年の夏はフジ初め、世界ツアーも回るからその前にはドロップされるはずである。
アンビエント的なものはこちらで突き詰めた分、NINとしてはよりロック寄りになるであろう事は想像せられるが、何はともあれ楽しみである。