音楽放談 pt.2

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哲学する音楽 ―Autechre

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最近また聴く音楽が偏り始めている。

寒くなってきたせいもあるのか、打ち込み主体のエレクトロ系とか、ノイジーさもある狂ったようなトラックとかね。

ポップで人懐っこい音楽は好きなのだけど、最近はもっとドライでインスト的なものがなんだか心地良くて。

正直言うと何がいいのかよく自分でもわかっていないところはある。

ポップと言えばポップだし、もちろん様々な感情だったりが喚起されるから聴いていて心地いいと感じるわけだが、とはいえ人に積極的に進めようとは決して思わない。

時期やタイミングによって聴きたいと思う音楽が移ろっていくのはまあよくある事なのだけど、それにしてもこういうものが恋しくなる心理ってなんだろうね。

ひょっとして人間関係に疲れるとこういう無機質なものが欲しくなるのだろうか。

あるいは一定以上満たされていると感じる瞬間に無意識にそういった心地良さから距離を取る為に敢えて無機質さを求めるのだろうか。

いずれにせよ、少し自分を見つめ直した方が良いタイミングなのかもしれない。


さて、そんな訳で最近また聴いているのがAutechre

その中で聴いているのはシングルとしてDVDとのパッケージで出された『Gantz Graf』という奴。

ファンの間では非常に高評価な作品だが、一方でそうでない人にはまず薦めないというコトも併せて言われるものである。

このパッケージ自体は表題曲と2曲の計3曲しか入っておらず、ボリュームはそれほどでもない。

表題曲以外の2曲は普通にカッコいい曲だと思うし。

もっともカッコいいと言ってもメロディなんかを求める人には明らかに向かないけど。


で、やっぱり特筆すべきは表題曲である。

DVDにはこの曲のMVが収録されている訳だが、この映像も非常に素晴らしいと。

具体的にどう言う内容かという事を言葉で記述するのが非常に難しいのだが、敢えて書けば宇宙ステーションのような構造物が音に合わせて歪んだりぼやけたりして、ていうだけ。

CGで表現されるそれは、果たして何なのかはよくわからない。

しかし、なんかすごいのである。

曲は、まあ曲と言うべきかは難しいところなんだけど、序盤と終盤でかなり具合が異なる。

前半はいわゆる彼等らしい攻撃的なトラックなのだけど、一息の空白の後に狂ったように音塊が飛び散って行くような感じ、というと、伝わるだろうか?

人間の精神の在り方に例えるならば、混乱の中で自我を保っていたものが、ついに崩壊して自失していくような様と言えば、わからんか・・・。


まあ、一言言うならとりあえず聴いてみろ、って感じである。

彼等の音楽は所謂他のポップミュージックとはベクトルがかなり異なる場合が多い。

もちろん一定のポップさを感じる曲とかもある訳だけど、どちらかといえばそんなコトよりも何か別のものを作ろうとしているような、動機の違いを感じるんだよね。

何だこれは、という感想を誰しも抱くような考えさせる音楽である事は間違いない。

逆に言えば楽しませてくれるような類いではない訳で、故に人には積極的には薦めないのである。

いやほんと、禅問答みたいな音楽だよ。

ちなみに90年代だったかにイギリスではダンスミュージック規制法みたいな法律がマジで出来たらしい。

所謂クラブでのドラッグの蔓延などを危惧した政府に依る対応策の一つとして、そこでよくかかっている音楽であるダンスミュージックに矛先を向けた訳だ。

ビートルズの故郷だし、先のロンドン五輪でも顕著だけど、こういう視点にロック/音楽の根付いたイギリスらしさを感じるのだけど、そのダンスミュージックの定義までちゃんと規定したとか。

一定のフレーズを反復させる音楽、みたいな感じだったと思うけど、すごいよね。

そんな法に対して彼等が取った反抗の仕方が最高にクールだった。

一聴して反復パターンを使った所謂ダンスミュージックなのだが、実は同じリズムは一度も使わず、少しずつずらしているのである。

そこに微妙な違和感を与えつつ、だけどそれが明確ではない。

恐らく敢えて突っ込まれることを前提に作り、しかしちゃんと引っかからないように作られたトラックは、やり方として最高にクールだと思う。

元々人を踊らせる類いの音楽を作るような人たちではないのだけど、ジャンル的にはテクノでありながら、そこらのロックよりよほど気骨のある態度である。


そんな素晴らしい逸話を持つ2人組の作る音楽は、基本的に自己へと向かわせる音楽だと思う。

何故か定期的に恋しくなるようなところがあって、ずっと聴いている訳ではないけど無性に聴きたくなる瞬間があって、そういう時はやっぱり何かを自分の中に抱えている時なんだと思う。

今時の音楽リスナーは、特に日本では音楽そのものに興味がない。

あるいは作る側も音楽と言うものに対する解釈というか、態度と言うか、そういうものが偏っていると思うんだよね。

もちろんそうでない人もたくさんいる訳だけど、そういう人は須くインディーの世界である。

まあ、それはどこの国も同じかもしれないし、尖っている人は得てして外側にいるものだけど。


これからますます寒くなって行くので、そんな時期にはこんな音楽もいいのではないかと思うね。

積極的には薦めないけど。