
音楽にも温度感というものがあると私は思っていて、多分みんなもそれとなく感じながらその時々にフィットする音楽をチョイスしているのではないかと思う。
例えば晴れた日には温度感高めな音楽の方が聞いていて楽しいし、発奮させたい時には熱めの音楽が響く。
一方で今日みたいな曇った日とか雨の日には低めな温度感の方が心地よかったりするし。
ちなみにここで高いとか低いとか言っているのは、別に冷めているとか単純に静かとかそういう意味では必ずしもない。
何て言っていいか、これ以上うまい言葉が私になかったのでこう表現しているだけで、感覚的なものなのでご容赦願いたい。
私が今日みたいな日に聞いていて心地いいなと思う温度感の音楽は、アナログフィッシュの『最近のぼくら』や『Life Gose On』である。
前者は全編そういう感じなので、特にアルバムとしてもぴったりである。
後者については曲によっても異なるので、晴れた日に聞いても全然いいのだけど、中でも"平行"とかなんかはまさにこんな日に聴きたい曲だったりする。
歌詞の内容は下岡さん得意の社会と個人の間みたいな歌詞も印象的なんだけど、個人的には健太郎さんのベースラインが特にいい感じな曲である。
淡々としているようで跳ねている感じもあるし、この曲の温度感はこの辺りに感じているところがある。
このアルバムは、ドラマーの斎藤さんが病気から復帰したアルバムで、このアルバムリリースのタイミングから10月10日に毎年恒例のライブを行うようになった。
なぜ10月10日なのかについては、図らずも健太郎さんの名推理によって明らかに(?)されている。
あの人のちょっと天然なところが素敵である。
それはともかく、このアルバムあたりから近年のアナログフィッシュの音楽性の萌芽が見て取れる。
先ほど温度感低めと表現したけど、このアルバムの曲は全体的には希望に溢れているというか、割とストレートな表現が多い。
1曲目”NOW”も「2度とない今日、戻らない昨日」という言葉がリフレインされる半インスト的な曲である。
2曲目”Light Bright”もタイトル通り非常に前向きな歌詞である。
3曲目”ハッピーエンド”はあんまり名前が挙がらないけど、密かに名曲だと思っている。
娘の旅立ちとも嫁さんとも捉えられる表現の仕方だけど、すごく眩いのである。
そこからつながるタイトルトラック”Life Gose On”は、「遠回りじゃないよ、まっすぐな道を蛇行しているだけ」というフレーズが印象的なのだけど、彼ららしい少し諦念を含んだ視点はあるものの、それでも大丈夫だよと語りかけるような内容で、彼らの曲の中でも数少ない(?)チアフルな曲である。
今しんどい思いをしている人には響くものがあるんじゃないかな。
楽しいことをしよう、また悲しい出来事に出会ってしまったとしても、という歌詞にも、タイトル通りの人生のあり方みたいなものが出ていると思う。
それに続くのが先の”平行”なので、この曲のテンションは実はこのアルバムでは異色なのかもしれないね。
次の”曖昧なハートビート”はその線上にある曲で、この曲もいい感じの温度感である。
淡々と展開する前半部と、後半から終盤に向かってテンションが上がっていく展開が非常にすばらしい。
「どんなに素敵な場所であろうと君がいないのなら価値はない」というあたりが、後の”抱きしめて”にもつながる下岡さんの愛についての価値観なのだと思う。
次には静かながらも情熱的に歌い上げる”Kiss”があって、このアルバム通してキーワードのようになっている明日へ、という"Tomorrow"。
「昨日より素晴らしい今日、今日より素晴らしいTomorrow」なんて、彼らの曲でなかなかないのではないだろうか、こういうストレートな表現は。
で、その次の曲がまた変わりダネである。
健太郎さんの曲だが、語りで展開される"Ready Steady Go"。
この曲の歌詞は健太郎さんらしさのよく滲み出ているものだと思う。
それこそ後の”Kids”とかでも見られるような、思春期なんかで悩ませられるある種の問題に対して戦うような曲である。
まっすぐな人なんだなというのがよく分かると思う。
最後は”ハローグッバイ”、先の曲の延長線上のようなテーマであるが、やっぱり前に進んでいこうぜ!ていうことが根本にある曲であると思う。
先にも書いたけど、このアルバムからドラマーの斎藤さんが復帰している。
レコーディング自体は全曲参加しているわけではないのだけど、いずれにせよ彼らにとっては大きな出来事であるにはかわりない。
今の彼らの関係性を見ても、この3人だからこそ成り立つものがあるのだと感じさせる。
その意味で、どこまで意図していたのかはわからないけど、前に進むとか、諦めないとか、そういうものがキーワードになっているのではないかという気がする。
ミニマル志向の強い近作の萌芽もありつつ、彼らなりにストレートな表現も目立つ内容で、過渡期的な印象もある作品である。
この後はプロテスト色強い3分作を経て『Almost A Rainbow』につながっているわけだが、ここから音楽性とか歌詞の表現とか、さらにはライブ演奏もレベルが格段に進化していくような感じもあって、その意味でも非常にポイントになるアルバムなんじゃないかと思う。
そんな彼らは今年は若手バンドとの対バンを積極的に行っており、今日はトリプルファイヤーとの対バンがある。
私はまだトリプルファイヤーはちゃんと聴いたことがないので、それだけでも単純に楽しみだし、そんなアグレッシブな若手バンドを迎えて彼らがどんなセットリスト、演奏で臨むのかも非常に楽しみである。
かなり曲数もあるし、キャリア的にはまずまずのベテランの域に入っているバンドだと思うけど、その攻めた姿勢がいいよね。
いやほんと、今日は楽しみ。
"Life Gose On"