音楽放談 pt.2

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小休止166「文学の映像化」

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今日は久しぶりに映画館で映画を見て来た。
 
私の好きな町田康原作の『パンク侍、斬られて候う』の公開日だったのですね。
 
原作となった小説を読んだのは、もう何年も前なので細かなところは覚えていないけど、正直なぜこれを映画化に踏み切ったのか、しかも演者脚本がめちゃ豪華。
 
脚本はクドカン、監督は石井岳龍という人で、昔は石井そうごという名前だった人で、その昔Stalin始めアングラパンクロッカーがたくさん出て話題になった『爆裂都市』を撮った人だ。
 
そして主演は綾野剛北川景子がヒロインで、浅野忠信や染谷くん、トヨエツなんかも出ている。
 
さらに町田原作の『けものがれ、俺らの猿と』には主演していた永瀬正敏だ。
 
他にも東出くんとか有名どころも満載で、結構金使っているなという感じだった。
 
 
原作ファンとしてはこうして映画化されるのは嬉しんだけど、一方で不安も。
 
町田康の小説を読んだことのある人ならわかるけど、彼の作品は非常に文学性が高い。
 
文学性が高い、とかっこつけて言ってみたが、実際に文学性が高いというのがどういうことなのかはわからないんだけど、とりあえず彼の作品は文章だからこその面白さがあるのである。
 
落語が好きだという背景もあってか、非常に軽妙で時にマヌケで、それは言葉使いや文字の表現によって示されるところがあるんだけど、それを全てセリフにしてしまうとやっぱりちょっと違う。
 
単にくどい説明くさいとも取れるので、やっぱりそういうのはあるんですね。
 
それに、ストーリーがあるようでないような話ばかりだし、このパンク侍についても正直ストーリーって覚えていなくて、彼の作品らしくとにかくめちゃくちゃに展開しまくって読者置き去り、とはいえ一応ラストに落ちはちゃんと用意されている分いくばくかのわかりやすさはあるのかもしれないが、その手前でついていけないという人の方がはるかに多いのではないか、というのが懸念であった。
 
ただ、今回はクドカンが脚本ということなので、その辺りをうまく面白おかしいわちゃわちゃに展開させて、うまく着地させてくれるのかなと期待していた。
 
 
こんな前置きをたっぷりしての感想なんだけど、かなり頑張っているがちょっと勿体無い感じ。
 
町田康的なギャグが見事にハマっている部分と滑っている部分が明確に分かれている印象だった。
 
先にも書いた通り、彼の作品は文字で展開されるが故の面白さがあるんだけど、それを全部セリフにしてしまうとやっぱり冗長でくどいのだ。
 
また言葉遣いにしても、時代劇的な言葉から急に現代語が出て来たりするからそのあたりの絶妙なゆるさが面白いんだけど、それがただの違和感になってしまうところが所々に見られた。
 
それが顕著だったのが冒頭のシーンなんだけど、あえてまくしたてるような台詞回しにしているのはわかるけど、あの段階で「?」となった人は少なくないのではないだろうか。
 
そのほかのセリフについても、無駄に大仰にしすぎているというか、わざとらしいというか、そういうところも結構あるし、ただ馬鹿馬鹿しいだけの場面で演出を過剰にしてしまうことで「笑うところですよ」と言われているようでちょっと興ざめになってしまうところもあるし。
 
いわば漫画的なエフェクトを使ったんだと思うけど、それがイマイチだったね。
 
その他にも、似たようなシーンが延々続くことが多く、特に中盤から終盤でそろそろクライマックスに向けて盛り上がっていかないといけない場面で中だるみしてしまうところも結構あるし、「この段階でまだこれ?」という具合にちょっとしんどい展開もあるし、あえてセリフにしてしまったが故に興ざめなところもあって、それは残念だったな。
 
原作において面白いのは、文字量がめちゃくちゃ多いにも関わらずそれを気にさせないスピーディかつテンポの良い展開なんだけど、そのテンポ感がちょっと悪かったね。
 
町田康の作品は落語的な台詞回しが面白いのは確かだけど、あくまで文字や落語という表現だから面白い形式なのであって、映像でそのままやってしまうといちいち説明臭くて冗長になるのは避けられない。
 
そこは映画ならではのアレンジが欲しかった。
 
また、原作以上に皮肉っぽいところを強調した印象もあったから、それが中途半端なメッセージ性というか批評性みたいなものを帯びてしまって、そんなものはいらないのに、と思ったしね。
 
 
一方、役者さんの演技はみんなよかったね。
 
さすがというべきか。
 
主演の綾野剛については、もう少し時代劇っぽい台詞回しができているとより現代語のところが映えていいのに、という思いもしないではなかったけど、思い切ってやりきっている感じがあったしね。
 
殿様役の東出くんも無駄に堅いだけのダメな殿様役がハマっていたし、染谷くんも素晴らしかった。
 
『けものがれ~』でいう鳥肌実的なポジションだろうか。
 
浅野忠信はもうさすがだし、トヨエツも素晴らしかった。
 
永瀬正敏については、少しだけ佐志っぽい感じとか、大仏の首が転がっているところはひょっとしたら『けものがれ~』を少し意識したのかな、とか思いつつ。
 
またヒロイン役の北川景子も、よくこの役引き受けたなと感心してしまった。
 
 
総じて、原作ファン目線ではまずまず楽しめた反面、勿体無いなと感じる部分がたくさんあったという感じ。
 
原作か、もしくは町田康の小説を読んでいればその目線で楽しめる部分もあるんだけど、そうではない人にとってはただわざとらしいというか、それこそギャグが滑っている感じに移ってしまうのではないだろうか。
 
その意味では、『けものがれ~』の方が意味がわからないけど個人的には好きである。
 
ちなみに、公開初日、2週目の時間帯に観に言ったんだけど、客の入りは3割程度だったかと思う。
 
そのあとの会も人は待っていたので、多分毎回これくらいの入りなのかもしれない。
 
私のすぐ後ろには若い女の子3人組が見にきていて、多分綾野剛とか演者のファンの子が友達を誘ったのだろう。
 
始まる前にも事前情報は何も収集せずに来たと話していたんだが、観終わったあとは「多分いい話なんだよ」「そう?」「前衛的すぎるからちょっと追いつけてない」といったようなことを言っていて、やっぱり意味わからないよね、とききながら思ったものだ。
 
 
TVCMもバンバン打っているし、方々でプロモーションもかけているけど、多分こける。
 
だって、見所は?と聞かれても、めちゃくちゃなところ、としか答えようがあるまい。
 
でも、町田康の原作だからそれでいいのかもしれないね。
 
個人的にはまあまあ楽しめたし、これで町田康に少しでも印税が入ればなお良し。
 
ちなみに町田本人も出演しているので、ぜひ探してみてほしい。