昨日は80年代日本のアングラシーンを代表したバンド、じゃがたらを紹介したが、今日もまた80年代の日本のアングラ/ハードコアシーンの代表格である。
日本のパンクを好んで聴く人であれば、必ず通るであろう名盤中の名盤。
ジャケからして最高、音も最高、歌詞はもっと最高で、これなくして日本のパンクは語れないだろう。
私の大好きなマッドも影響されているし、音楽それ自体も全く色あせない。
何かと言えば、INUである。
今や作家として大成功を納めている町田康が、町田町蔵と名乗りたった1枚の傑作「メシ喰うな!」を残して解散したバンドである。
関西弁で書かれた歌詞には既に独自の世界観を提示しており、言葉が非常に大きな力を持っていたのがよくわかる。
また、セックスピストルズに影響をもろ受けているので、批判精神もバリバリで、今でこそ聴くべき言葉がここにある。
パンクというと攻撃的で激しいイメージがあるだろうが、彼らの楽曲はいわゆるパンクの破壊的な側面はあまりない。
むしろ非常にポップで聴きやすく、でも時に重苦しいという、ちょっとオリジナルパンクとは異なるのはPILからの影響なのだろうか(PIL未聴につきなんともいえないけど)。
1曲目"FADE OUT"を聴いた瞬間にあれ、て言うくらいポップなんだね。
でも、詞がやっぱりパンクなの。
「曖昧な欲望しか持てず、曖昧な欲望を持てあまし、いつもお前はテレビに釘付け、疲れ果てても止められない」てね。
2曲目”つるつるの壺”でも「毎日AM8:00にあれをやりこれをやる顔がたくさん、たどり着けないのは徒労の果てのお前の家」、3曲目”おっさんとおばはん”における「すべてが終わった後で何が残るか俺は知らない」など、非常に印象的なフレーズをかましていく。
なお、必殺フレーズ「このタニシ!」もこの曲で聴けるよ。
そして半インスト曲”ダムダム弾”では、非常に緊張感みなぎる空襲警報のようなギターとともに、町田の詞が朗読される曲で、アルバム中ではかなり異色である。
其の詞についても一番攻撃的で過激な内容になっている。
歌部分ではあまり聞き取れないので、ぜひ歌詞カードで改めて読んでみるとよい。
続くはメランコリックな”夢の中へ”。
「みんなイモハードロックバンドの演奏にうんざりしてうっとりとなった」というフレーズがまた素敵。
白痴のように夢の中、というフレーズもいいじゃない。
そしてなんと言ってもタイトル曲、最高にヘヴィにして町田のヴォーカルも炸裂しまくりの”メシ喰うな!”である。
「俺の存在を頭から否定してくれ」という強烈なフレーズから始まるこの曲。
一見コミカルな表現ではあるが、流行だとか、なんちゃって個性の時代に対するアンチなスタンスとでも言うべき内容である。
自称中産階級のプロレタリアの自己満足と過剰な自意識を徹底的にぶっつぶしてやるとでも言わんばかりの迫力がある。
最近グルメ気取りが一つのステータスのようになっているが、それが端的になんちゃって感を出していて、メシ喰うなというタイトルもそれを端的なものとして表しているのだろう。
と、まあここまでみただけも独自の表現についてわかっていただけただろう。
個人的に一番好きな曲は、タイトル曲よりも”インロウタキン”であったりする。
インロウタキンて、何?という疑問がまず浮かぶが、これはどうやら金太郎印の変形であるらしい。
切っても切っても同じ顔、でおなじみと金太郎飴みたいな意味合いだった気がする。
歌詞がいいんですよ。
いいか?という人もいるとおもうけど、いいじゃない。
皮肉な言葉をポップに載せて。
「不安でいっぱい何も見えない」「分けもわからずに追いつめられて」とか、いかにも現代的でもあると思うよ。
基本的に彼の書く歌詞はある種の伝統であったり、慣習であったりするものの批判が主なテーマとなっている様の思われる。
”305”と言う曲の歌詞にも「お前はそこで生まれたからといって、そこに居続けなければならないのか?」と言った節もある。
一方人間のいわゆる「一般的な」価値観に対する批判も含まれるように思うが、それはまあ、慣習から生まれるものなので当然か。
いずれにしろ、其の視点はきわめて鋭く、それでいて正鵠を射ているのではないか。
ありふれた幸せという価値観に対する批判とも言えるかな。
まあいいや、とにかくすばらしい歌詞である。
最後の”気ぃ狂て”なんて、「たくさんの人間がいて、俺は其の中の一人、定まらぬ視線のなかで、ミンアお互い窒素寸前」とか、「簡単にものがあって、簡単に手に入らない、手に入ったところで、お前のものにはなり得ない」など、この曲については全文載せてしまいたいくらいである。
彼は詩集も出しているが、なるほどと思うよ。
これを聴いていれば、最近のスタイルパンクのすべてが本当にクソにしか思えなくなるよ。
別に音楽其のもをを否定しないまでも、パンクを名乗る事を馬鹿かと思えるようにある。
パンクとは、まず批判精神がないと。
そして現状を疑う心、それなくしてどうしてパンクと言えようか。
パンクというのはそもそもを言ってしまうと、何かしら定義付けされた時点でパンクではなくなる、という非常に複雑な背景がある。
従って、パンクと言った時点でパンクじゃなくなっちゃう訳だけど、一方で其の言葉を便利二使う事もできる。
問題なのは、其の言葉に乗っかるだけか、あくまで使うだけかである。
ちまたにあふれる自称パンクスの多くは前者であり、それゆえファッションな訳である。
でも、ファッションじゃない、本物を聴こうと思うと、少なくとも表舞台にはなかなかいないよ。
特に日本にはね。
まあ何はともあれ、日本の80年代のアングラシーンは本当に面白いバンドがいっぱいいる。
其の中でも、このINUはポップ性もありつつ、なおかつ強烈なヴォーカルと世界観と価値観を併せ持つ、すばらしいとしか言いようのないバンドである。
一回は聴け。