最近は新しいバンドの音楽を聴く機会がめっきり減っている。
転職してから出社が基本になったため、日中に音楽やラジオを聴く時間がなくなったし、その上で既に好きなバンドの音楽だけでも楽しい。
それに旧作でも不意に聴きたくなって聴いているのでなお時間は限られてくる。
まあ、新しいものを聞かなければいけない法はないし、旧作が色褪せるわけでもない。
最近ではSpotifyでアーティスト単位のプレイリストを聴き流していると、改めていいなと思うことも多く、そこからまた昔のアルバムなんかを遡ってしまうしね。
そうして何の気なしに聴いていて、やっぱりかっこいいなと思ったのがThe Horrorsだ。
今年久しぶりのEPを発表していて、アルバムへの期待値も高まるところ。
以前はアルバムのたびに来日もしてくれていたので、ライブも楽しみなところ。
80年代イギリスのポストパンクをリファレンスにしたセンス抜群の音楽性で、個人的にもツボで仕方ない。
というわけで、改めて勝手に振り返るThe Horrors、ビジュアル的にも非常に際立っているが、未聴の人にも是非聴いてみてほしい。
まずはデビュー作から。
彼らは2006年にデビューなので、まさに私が大学生の頃であるのだけど、1st『Strange House』のリリースでサマーソニックにも出演していた。
当時私は全くチェックしておらずだったのだけど、たまたま彼らの演奏しているステージを通りかかった際に耳に入ったのがJoy Divisionのカバーだった。
たしか"No Love Lost"だったと思うが、そこで足を止めてほうと思いつつも、他に見たいのがあったのでちゃんと見なかった。
後悔である。
もちろん彼らの名前は雑誌などでもよく登場していたので知っていたのだけど、あまり聴こうと思わなかった理由は彼らの出立からビジュアル系的なバンドと思っていたのだ。
2005年前後はイギリスのバンドでいいバンドがたくさんいて、それこそThe Strokes、The Libertines、The Coralが先んじて注目され、そこからインディーロックバンドというものが活況を呈していた。
その中で、割とラフな格好をしたバンドが多くいる中で彼らはしっかりとコンセプト性を示すような衣装だったわけだが、当時の私の個人的ブームも相俟ってスルーしていた。
今みれば別にビジュアル系というわけでもないし、むしろ反応してしまいそうだ。
それに、ちゃんと曲を聴いていればそんなことはなかったはずだ。
こちらは彼らが注目されるきっかけになった"Sheena Is a Parasite"という曲だが、曲的にはSuisideを思い起こさせる。
pvはたしかクリス・カニンガムだったと思うが、ガレージロック的なラフさとノイジーなエレクトロの味付けが絶妙だ。
他の曲も仄暗い路地裏から覗き見るような引きみさを讃えている。
1stアルバムの1曲目のタイトルは"Jack The Ripper"だ。
ちょっとダーティな香りもかっこいいではないか。
私が彼らをちゃんと聴くようになったのは2nd『Primaly Color』からだった。
そのきっかけはPortisheadのジェフがプロデュースしたというトピックだった。
当時すでにPortisheadは聴いていたし、さらにその少し前にThe Coralの3rdもプロデュースしたというトピックもあって、しかもそのアルバムは個人的には彼らのベストといえる作品だと思っているので、それじゃあ聴いてみようじゃないかと。
当時音楽雑誌でも絶賛されていたのだけど、その評価に違わずめちゃくちゃいいアルバムだった。
よりポストパンク色を前面に押し出した音楽になっており、すでにそれがツボ。
そして曲もアルバムとしての流れも全てが素晴らしい。
特に好きなのがこの"Scarlet Field"という曲だが、イントロの淡々としたドラムとベースに始まり、序盤は静かな展開から徐々に盛り上がっていきノイジーでシューゲイザーなギターと幻想的なシンセサウンドの絡み合いがたまらない。
展開も曲のムードも大好きなタイプの曲だ。
しかしこのアルバムの本当にすごいのはラストの"Sea Within a Sea"という曲。
この曲は彼らのキャリアの中でも別格に素晴らしいと個人的には思っている。
曲の展開については先の曲と同様個人的に好みの感じなんだけど、より桃源郷の彼方見たいな感じになっている。
不思議な高揚感に終始包まれていて、最後はどこか遠くへいってしまうようなシンセの渦である。
この曲はライブで聴いてもぶっ飛ばされる。
ギターノイズも最高すぎで、定期的に聴いている。
続く3rd『Skying』はよりドリーミーといるような曲が多く、なんだか達観したような音楽で、正直個人的にはあまりピンと来なかった。
今改めて聴いてみると決して悪くはないのだけど、多幸感に溢れまくった感じが彼らに期待してしまっていた音像とちょっと違うぞ、というのはあったかもしれない。
全体にゆったり目の曲が多かった印象なので、アルバムとして聴いた時にちょっと緩すぎるように感じたのだろう。
1stの頃とはすっかり様変わって毒っけのない感じである。
もちろんそれは悪いことではないんだけど、単に当時の私はそういう物が好きだったというだけの話である。
続く4th『Luminous』も路線としてはその方向だったが、このアルバムは全体としてのムードだったり、音像がくっきりした感じがして好きだったな。
世の中的な評価はあんまりだった記憶だが、そんなことはないだろうと思って聴いていた。
と、いいつつこのアルバムもここの曲というよりはアルバムとして聴いていたんだけど、ボーカルの声の輪郭もくっきりしている。
この当時も来日は良くしてくれていたので、私は基本的にはほぼ観に行っていた。
フェスやそれに準じるイベントも結構多くて、Hostess Club Weekenderというイベントでも来ていたね。
このイベントがまためちゃくちゃ素晴らしいブッキングをかましてくれていたんだけど、もうなくなってしまったのが本当に残念だった。
そして再び彼らがメディアでも注目されるようになったのは5th『V』、インダストリアル的なノイジーな曲がシングルとして発表されたが、前2作の穏やかさからはまた打って変わった音楽であった。
ややグロテスクなMVにアルバムジャケットだが、非常にかっこいい作品になっている。
アルバム全体としてアグレッシブな曲が多く占める中で、ラストの曲がまた素晴らしかった。
ついに"Sea Within A Sea"クラスの曲ができたと思ったものだ。
曲の展開自体好きなタイプなのはあるのだけど、多幸感溢れるポップな曲調と空高く上がっていくような盛り上がり方が最高である。
ボーカルの歌い方も優しさというか、そういうものを感じる。
そしてようやくの新作だが、先にリリースされていた曲もこのアルバムの流れを継ぐようにエレクトロな曲であった。
ん〜、かっこいいではないか。
個人的には音楽性もさることながらアルバムの変遷みたいなところも、日本のThe Novembersと共通するところを感じる。
音楽的にはLillies and Remainsの方がドンズバに近いわけだが、ノベンバも直近の2作はインダストリアルでノイジーなアルバムを発表しており、その手前ではそれまでのキャリアを総浚いしたようなアルバムを作っている。
そんな二組はインタビューで共演しているので、是非こちらも読んでみていただきたい。
年をとってなおさら思うようになったのは、こういう独自のこだわりや美学みたいなものを貫いている人たちが魅力的に感じるようになっている。
そういう人は苦労もするだろうし、きっと生きづらい人もいるだろうけど、だからこそ共感できるところもあるのだろう。
私は彼らとズバリ同年代なのだけど、こうして一緒に年をとっていくバンドがあるというのはなんだか嬉しい思いだ。
これからの作品にも期待だ。