最近日本でもHip Hopというのがにわかにブームになっている、らしい。
きっかけはご存知フリースタイルダンジョンという番組。
モンスターと呼ばれる連中に対して、毎週チャンレンジャーがフリースタイルのラップバトルで戦いを挑んで、勝つたびに賞金を獲得していくというゲーム的な見せ方をしたショーである。
私も話題になっていると聞いて、試しに見てみて、これは面白いと思って今では毎週見ている。
そこに出てくるモンスターは、ラスボスは般若で、以下MC漢、サイプレイス上野といった割と中堅的な人たち(大物?)から、T-PablowやChico Caliito、DOTAMAなどの若手も居て、今のHip Hopシーンを俯瞰する意味でもいいだろう。
登場するチャレンジャーもネームバリューの大小に関わらず多様な人が出てくるので、その意味でも非常に有意義なものだと思う。
これの中心にいるのが何かとネットでは噂になっているが、なんやかんや日本のHip Hopの普及には多大な貢献があるといっていいだろう、Zeebraである。
「悪そうな」奴は大体友達~」なんていって居たが、相変わらず悪そう奴らを集めて楽しいことやっているわけだ。
表情はめっちゃ穏やかだけど。
で、この番組でもちょいちょい触れらるのだけど、各地でいわゆるフリースタイルの大会というのが開かれて居て、有名なものだと高校生ラップ選手権とか、戦極といったものがあり、これらの優勝者はやはり相当の実力者らしい。
私はどちらも全然知らなかったけど、知らないだけでシーンてちゃんとあるんだな、何て思うと面白いもんである。
話は少しずれるけど、何かの大会の地方予選か何かでこれまたフリースタイルでも実力者として有名という呂布カルマと、ロックバンド・トリプルファイヤーのヴォーカル、吉田がやったバトルがネットで上がっており以前このブログでも紹介したが、そんな感じで各地で盛り上がっているのだとか。
そんな中でも、その戦極で2年連続優勝したということで、現役フリースタイルでも屈指の実力者と言われているのがモンスターとしても出ているR-指定という人。
ロン毛にヒゲという割にはかなり優しい顔をしており、いわゆるギャングスタラップ的な感じではなく、純粋に言葉遊びとしてのラップをしているという印象である。
一応言っておくが、毒や中身がないという話ではなくて、Hip Hop=不良の音楽、というステレオタイプが広くあると思われるが、そうしたイメージからは随分遠いという話である。
実際はどうか知らないけどね。
でも、彼の紡ぐ言葉というのは無駄な去勢みたいなものとか、やたらな武勇伝自慢でもなければクソ野郎などという程度の低い罵声を浴びせるものではなくて、ちゃんと言葉の含蓄なんかで楽しませてくれるから、見て居て単純に面白いのである。
彼に限らず、個人的にはいわゆるコンプラ的なことばかりとか、悪さ自慢とか、単に相手をクソ野郎とかぶっ殺すとかそんなことを言っている人には魅力を感じないし、面白いと思わない。
だからなんだよと思ってしまう。
そんなこと自慢されても喜ぶのは同じ不良連中ばかりで、そこにいる限りはそれ以上はでかくなれないだろうと思うしね。
そこにやっぱりウィットというか、知性というものが宿るよね。
で、R指定だけど、彼は自身の名義でもアルバムを出しているが、それに先立ってCreepy Nuts名義でDJと組んでミニアルバムを出しており、それが少ないトラックながら面白い。
1曲目が”合法的な飛び方のススメ”という曲だけど、下品な言葉ではあるが先に挙げたようないわゆるギャングスタラップというところでやたら出てくる薬とか、そういうものを否定するような内容で、そんなものよりこの曲で気持ちよくなろうぜ、というところに音楽的な信頼性があると思っている。
続く2曲目”みんあちがってみんないい”では、Hip Hopとかそれに限らず習慣として受け入れられてることとか、社会で流行っているものとか、それを斜に構えて批判するやつとか、頭でっかちなやつとか、いろんなものをあげつらって、お互いがお互いを攻撃しているような構造なのだけど、つまるところ「それぞれじゃん」という結論を叩きつけるもの。
別に価値観の闘争を否定するとかそういう話ではなくて、粗探しじゃなくて健全な発展をお互いできるようなやり取りをしようぜ、ということだと思うけど。
PVでは最後にR指定が目線を外す画で終わるのだけど、そういう意図があるんじゃないかなと思う。
なお、この曲では様々なキャラをR指定が演じており、フロウも変えて居たりするからそのあたりも面白い。
これらの曲でも言葉それ自体は別に綺麗でもないし、品があるわけでもないけど、ただ相手を口汚く罵るだけでも俺が最高お前らカスみたいな無闇矢鱈な攻撃性があるわけでもない。
まして生ぬるい友情レペゼンみたいな感じもないから、聞いていて嫌な気分がしない。
「Hip Hopは人生だ」というのが一つの大きな価値観としてあると思うけど、別にそれはHip Hopに限ったことではないと思っている。
言葉が重要な要素であるがゆえにそれが色濃く出やすいのは確かだと思うけど、でもそう思うならいつまでの悪さ自慢しかできない奴は所詮自分の価値観の中でしか生きられないことを暗に示して居て、そういう人は大きくなることはない。
それはそれで別に否定するようなことでもないけど、聞いている側としてはつまらない。
事実の羅列しかできない人はアーティストではないしね。
それをリズムよく載せること自体も一つの才能ではあるにせよ、それだけではHip Hopではないというのは自分たちでもわかっているだろう。
もっとも、それがわかっているからこその表現をしている人ももちろん居て、そういう人の曲は私のように悪そうな友達はいない真面目な人間でも聴ける。
そういう高度な言葉の音楽としてのHipo Hopも、もっと盛り上がってくるとさらに面白くなるよね。
ちなみに最後になったけど、タイトルに挙げたようにHip Hop=ラップというわけでは必ずしもない。
ラップは表現手法の一つというだけで、それが本質ではないということは、何気に重要だと思う。
まだ多くの人はそう思っていると思うしね。
まあ、個人的には楽しく聴ける音楽が増えればそれでいいけどね。
"みんなちがって、いんないい。"