遅れ馳せながら、先週日曜日に開催されたAfter Hoursについて。
恒例のSynchronicityと2デイズとして初開催となったイベントは、その界隈のファンの期待値を示すようにソールドアウトとなった。
渋谷O界隈を使った都市型の集約フェスだが、かなりの人入りながらうまいことチケット数を調整したのだろう、ストレスは限りなく少なかった。
ていうか、もう好きな人にはたまらないラインナップだったので、タイムテーブルの組み方を考えるだけで忙しくてそれどころではなかったのだ。
全体的なことを最初に言うと、観客以上に出演しているアーティストたちが楽しそうだったのが何より印象的だった。
彼らには自信の音楽にプライドがあり、自信の活動に矜持があって、こだわりもあるわけなんだけど、同じ思いのアーティストがたくさんいて、そこに普段の単独では集まらない数の客がきたということがきっと素直に嬉しかったのだろう。
今回出ていたバンドの多くはテレビには出ないし、知らない人の方がはるかに多い。
だけど、イコール彼らの音楽がダメな理由は全くなくて、でも世間的には偏屈の聴くマニアックな音楽としか受け取られない。
そう言う状況は歯がゆいし、だから海外に打って出て、そこでの方が評価されていたりもする。
downyは多分ほとんど海外でのライブはないけど、他のバンドは普通に海外ツアーも回っているし、なんなら海外での方がはるかに認知度も高い。
MONOは世界中でツアーをしているし、envyも非常に人気が高い。
dwonyも特にヨーロッパでは人気が高く、クラブで曲がかかることもあるそうだ。
彼らの音楽的にはポストロックなどと言われることが多いのだけど、どちらかといえばメインストリームではないのは確かである。
海外で成功している、といってもビルボードに登ることはないであろう音楽性であるのは間違い無いだろう。
だけど、必ずしも音楽の価値はそういう数値的なことばかりでは無いし、そもそも芸術としての音楽の価値はそんなもので測るできものでは無いという価値観がある。
誤解しちゃいけないのは、わかる人だけわかればいいということが言いたいのではなくて、特に日本では音楽の価値が売れる売れないの二元論でしか論じられないし、売れないものには価値がないとでもいうような価値観が蔓延している。
それは違うだろうというのが彼らの思い出し、だからこそ日本人アーティストが大半を占めるイベントなのである。
しかし観客には結構外国の人も多くて、そんなバンドの音楽がダメなわけはないだろう。
少なくとも、彼らにとっては一定以上の手応えを感じられたのではないだろうか。
さて、そんなわけで私のみたバンドをさらっとご紹介。
名前は知っていたけど正直ロキノン系パンクバンド的なやつかと思っていたら、こんなイベントに出てくると言うことはきっとそうじゃないだろうと思って初めて聞いた。
結論、かっこよかった。
彼らの場合歌詞も非常に評価が高いようで、明確なメッセージがありながら歌詞の解説は絶対にしないというスタンスらしい。
音楽的には残響所属とあってそうした風味もあるけど、そうした派手さよりはオウガ的な渋さの方が近いと思う。
ヴォーカルの声もクリアで、単純に心地いい音楽としても聞けるだろう。
またアルバムも買ってみようと思う。
"聖者たち"
続いてはKlan Aileen。
以前 Novebersのイベントで初めてみて音源も買った。
UKっぽさもあるかなと思うけど、不機嫌でポストロック的なモノクロームな感じがカッコ良くて気に入っている。
ライブはやっぱりカッコよかった。
ドラムとギターに打ち込みを載せているのだけど、それにもかかわらず素晴らしくノイジーでよかったね。
昨年のベストアルバムでも高評価だった新譜もまた買わねば。
続いてはdowny、イベントの主催者の1人であるわけであるが、珍しく上機嫌なロビンが印象的であった。
その後に出たMOROHAにフランス料理と評されたその音楽はもう言うことはない。
3月にもみたけど、カッコよかった。
続いてはThe Blue Herb、バンドの多い中で数少ないヒップホップアクトの一つである。
単独についてはもうすごいのはわかっているけど、こういうイベントで見るのは初めてだったのでどんな感じなんだろうと思ったのだけど、さすがだった。
今年20周年と言うこともあって、Bossのソロ作でもそうだったがこれまでを振り返るような、いわゆるヒップホップ的な色が強いのだけど、今回もそうだった。
中でもイベントらしくて上がったのはMOROHAに対して、「震え立つCDショップにてへのアンサーだ、よく聞いとけよ」と言って彼らの今を歌った曲。
くだんのトラックでは「20年後新譜のコーナー旧譜のコーナー両方陣取る」と歌われるのだけど、その20年後の視点で歌っているわけだ。
これは結構熱かったし、ヒップホップっていうものの本質を表現していたと思う。
個人的にこういう場所で何を示すか、と言うのが見どころだったけど、Bossはカッコよかった。
大人になってこそ響く言葉が確かにあるよね。
"未来は俺らの手の中"が激烈に素晴らしく響いいたね。
続いてみたのはArt School。
実はちゃんと音源を聴いたのはごく最近で、1枚しか聴いたことがなかったけど結構カッコよかったし、評価も高かったのでいい機会と思って。
しかし、正直言うと音楽以前にどうにも木下の歌が下手すぎて入ってこないのだ。
多分何度か聴いていれば、それとして受け入れられると思うのだけど、音源以上にここまでかと思ってしまった。
普段あまりそういうのは気にならないのだけど、ちょっと集中できなかった。
曲はかっこいい曲もいっぱいあるので、ちょっと残念だった。
でも、リッキーめちゃいいやつそうだな。
開始3曲くらいで抜けてMOROHAへ。
今回のラインナップの中ではかなり異色なアクトだと思うけど、その人間臭さが非常に際立っていてよかったね。
MCの腕も上がってラップもいいのだけど、個人的にはUKのギターがやはり素晴らしい。
音密度高めなアクトの多い中でいい感じに存在感を示していたよね。
ちなみにBossへのアンサーとして"三文銭"をやったけど、ラストの方は即興も入れながら、いい熱量を放っていた。
言葉は臭いけど、本音は無視できない、それが彼らの魅力だよね。
MOROHA終わって次はノベンバ。
会場はDuoだったけど、パンパンでびっくりした。
ステージはほとんと見えない中だったけど、彼らのライブは行っときよりも格が一段上がった印象だった。
曲もアグレッシブなものを多く演奏したのでフェス仕様だけど、カッコよかったね。
暗めの音楽性だし、昔はメンヘラファン満載な印象だったけど、明らかに今はそこの段階にはいない。
ボーカルの小林くんも同い年でナイスガイなようなので、個人的にも応援したいバンドである。
ノベンバが終わると次はLITEへ。
単独も行っているのでことさらここでみなければ、というわけでもないけど、なんだかんだ彼らのライブって気持ちいんですよ。
演奏力って素晴らしいと思わせてくれる。
このライブでは、珍しくトチる箇所もあったかと思うけど、しっかり存在感を発揮していたし、いつになくノイジーでラウドな感じのライブで、ちょっと新鮮だった。
セットリストで"D"もあったのだけど、当然タブゾンビはいないのでトランペットパートはなしだったのだけど、なんか歌ものとして聴いているもので歌がなくなったような感じがして、それが個人的にはちょっとした発見だった。
何を発見したかと言われるとはっきりとは言えないけど、やっぱり彼らの音楽には歌はなくても歌はあるのである。
それは、楽器が歌っている、などと。
そしてラストはBorisである。
外人のお客さんが最前列を占拠しだすのがなんだか微笑ましくて嬉しい。
こちらもノベンバのイベントでKlan Aileenと一緒に見たのだけど、その時の髪の毛も揺らす轟音があまりに衝撃で、それをもう一度味わいたくなったのでラストに選んだ。
で、びびった。
彼らにはロックでポップな曲も結構あるのだけど、今回は完全ドローンな轟音ノイズの回。
そんなん音源を熱心に聴いているわけではない私のようなにわかには正直どう楽しめばいいのかわからなかった。
しかし、毛先までビリビリくる轟音はそれだけでも結構な衝撃で、不思議なもので1時間という持ち時間はあっという間に過ぎていた。
すごいのは、ここまでの轟音なのに音割れなどは一切しなくて、本当に空間が揺れているような音を出すことだ。
外人さんたちはしっかり轟音を堪能されていたようで、やっぱりどのジャンルにも何かを感じる人がいるわけだ。
耳がやられた。
個人的には1曲だけでもこう言う曲を聴きたかったのだけど、その願いは叶えられなかった。
でも、なんか知らんけどとりあえずすごかった。
そんなわけで、あっとうまに過ぎ去った時間、あまりに濃密で満足度が高くて最高でした。
翌日腰が痛くて仕方なかったのは年を感じたのだけど、ともあれこのイベントは多分海外のお客さんにしても魅力的なラインナップのはずである。
実際結構いたしね。
別に海外から評価されているからすごいんだ、ということが言いたいわけじゃなくて、やたらと日本の音楽はダメだとか、世界に通用しないとか言いたがる奴がいるけど、全然そんなことはなくて、世界に通用しているバンドはたくさんあるし、好みの問題はあるにせよ素晴らしい音楽をやっているバンドは日本にこんなにたくさんあるのである。
好き嫌いは別にして、それは誇るべきことだと思うし、そんな彼らをキチンと評価して、受け入れる土壌のないことが一番の問題である。
彼らは別にこのイベントの開催がゴールではない。
そこから先にはそうした状況を打破することや、そのきっかけになる何かを残すことを目指しているはずである。
ベテランから若手まで揃って、客層も年齢も性別も国籍もない。
音楽って本来こういうものじゃないの?て言うことは少なくともすでに示されただろう。
最後に予断だけど、転換中はずっとベルベッツの3rdが流されていて、それも結構よかった。
全体に穏やかな曲の多いアルバムなんだけど、このイベントのタイトルである"After Hours"という曲がアルバムの最後に収録されている。
冒頭のはその曲の歌詞の一部だ。
「永遠の夜の扉を閉めると、もう2度と陽の光を見なくていい」みたいな言葉があるのだけど、これってどんなフィーリングなのだろう。
穏やかながら、どこか皮肉めいた印象をこの曲には持っているのだけど、ともあれ次回以降もまた期待したいよね。
"After hours"